特に今はコロナで海外へはなかなか行けませんし、県境を越えての移動自粛が要請されるなど、我慢している人は多いはずです。世界的にも、ワクチン接種が進んだ国ではワクチンパスポートなどを要件に、少しずつ海外旅行制限の緩和が進んでいるとは言え、昨年からの旅行の鬱憤が溜まっている人は多いに違いありません。
なかには出不精の人もいると思いますが、旅行への欲求、時々旅に出かけたくなるというのは、ある程度、人類の遺伝子に組み込まれたものなのかも知れません。人類は600万年前にアフリカで生まれ、長い時間をかけて、いわゆるグレートジャーニーを続けました。
アフリカを離れ、ヨーロッパへ渡り、さらにアジアへ向かい、シベリアからアラスカへ渡って北米、さらに南米へと旅をし、世界中に拡散しました。おそらく、採取する木の実や果実がなくなったり、獲物となる動物がいなくなったため、移動せざるを得ない理由もあったのでしょう。
でも、途中で条件の良い場所はたくさんあったはずです。そこで定住して旅をやめてもよかったのに、わざわざ極寒の地を抜け、さらに先の未知の場所へと移動したのは、冒険心や旅をしたいという性質を人類が持っていたからのような気がします。それが遺伝子の中に脈々と受け継がれてきたのでしょう。

巡礼もそうです。どの宗教にもそれぞれ聖地があり、昔から巡礼が行われてきました。昔は命がけの旅だったのは間違いありません。ユダヤ教でもキリスト教、イスラム教、仏教でも、それぞれの信徒が今でも巡礼をしています。簡単には行けませんが、一生に一度はと思っている人は多いでしょう。
ヨーロッパのキリスト教徒が、その三大巡礼地の一つ、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラへ巡礼するようになったのは10世紀後半頃と言われています。この巡礼者は、今も毎年30万人以上に上ります。多くの人は徒歩です。定年後や長い休みをとるなどして、数百キロの道を何か月もかけて旅をするのです。


(右がサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(世界遺産))
もちろん、宗教的な理由があります。でも、今なら飛行機を使えば数時間で着きます。それでもわざわざ徒歩で旅をするのは、目的地もさることながら、途中の旅が重要ということなのでしょう。短い日程で行って帰るのではなく、巡礼の旅そのものをしたい人が多いのでしょう。
日本のお遍路、四国八十八箇所巡りに似た感じでしょうか。今でも歩き遍路の人がたくさんいます。江戸時代には富士山への巡礼、富士講が盛んでしたし、お伊勢参りなども巡礼です。今のように交通手段も発達していない中で、相当の期間がかかったはずですが、庶民も巡礼の旅に出るのが憧れだったようです。

日本人の一般的な観光旅行だと、短い日程で、鉄道や航空機の時間から宿泊する場所の予約まで、全て決まっています。あらかじめ、途中の観光のスケジュールまでたてて行く人が多いと思います。なかなか現代人は時間がとれませんし、足の向くまま、気の向くまま、何も決めずに旅に出るというわけにはいきません。
ただ、そういう旅行がしたいと望む人もいます。ドイツ在住の、
Bernhard Sobotta さんもその一人です。特に行き先も決めずに旅に出て、好きな時に好きな場所で休憩したり、野宿したりするような旅行です。そのために自分で制作したのが、“
Cercle”です。


Bernhard さんは18歳の時、オーストラリアを旅行しました。そして、たまたま仏教や禅に出会いました。その経験が彼を永遠に変えたと言います。いろいろな日常の制約から自分を解放し、自由になりたいと考えるようになりました。帰国後も、この欲求が頭にありました。
数か月をかけての巡礼の旅にも出ました。友達と一緒に自転車旅行もしました。彼の結論は、移動は自転車のほうがいいということでした。同じ時間ならば、より多くの景色が見られることや、必ずしもスピードが必要なわけではありませんが、快適で、彼のしたい旅行にビッタリだったからです。


徒歩での巡礼だと、必要な荷物を背負って、巡礼者用の宿所に泊まるのが昔から一般的です。巡礼でない気ままな旅だと、その日、泊まるところに困ります。どこでも泊まるにはテントなどの最低限の装備が必要になります。宿所なら使えるような道具も自分で持参しなければなりません。
そうなると、やはり自転車が便利です。ただ、どこかでテントを張って寝るには、簡単なベッド、コットくらいは欲しいところです。何も無しに地面に直接寝るのは不快です。地面が濡れていたり、凹凸があったり、石がゴロゴロしていたり、熱い砂の上だったりしても、コットがあれば快適に眠れます。


オートキャンプをする人なら、折りたたみのチェアなどを持って行くと思いますが、それもあると便利です。特にベンチなどがない場所でも座って休憩出来ますし、食事をしたりすることも出来ます。兼用でもいいので、コットとチェアは持って行きたいと思いました。
最初は、カーゴバイクにハンモックフレームを取り付けることを考えました。いろいろ試した結果、このアプローチは諦めました。そして、2019年の夏、今の“Cercle”に至るアイディアを思いついたのです。自転車のフレームと、折りたたみ式のコット兼、リクライニングチェアと、簡易テーブルを合体させる案です。


チェアを出して、どこでも休憩出来ます。テーブルを出して食事をしたり、コットにしてそのまま寝てもOKです。シートをかければ、自転車のフレームが骨組みになって、そのままテントに変身します。そして、自転車に包まれたまま眠ることが出来ます。
リクライニングチェア(ラウンジャー)に座ってギターを弾いたり、コンロでお茶をわかして飲むことも出来ます。テントシートは、日除けにもなれば、雨をしのぐことも出来ます。洗濯をしたら、フレームは物干しスタンドです。必要な荷物は全て前後のバッグに収納してあります。


コンパクトにまとまっていて、なんでも出来ます。もちろん多少、不便な部分はあるにせよ、自宅にいるのと同じです。そう、この“Cercle”は自転車であると同時に、「家」だと感じています。この自転車なしで出かけると、何か不完全な気がしてしまうほどです。
ただし、これで完成ではありません。試行錯誤しながら、改良を重ねていくつもりです。とりあえずは、テントシートを張る時のデザインとカスタマイズです。シートは普通の古い防水シートを使ってきましたが、もっと快適な形を模索しています。いろいろなアイディアをプロトタイプ2.0として結実させるつもりです。( ↓ 動画参照)
Bernhard さんは、この“Cercle”を将来市販して、誰もが自由に、どこへでも気ままに旅行できるようにしたいと考えています。どこへ旅行するにも、その道中に人生の楽しさや、美しさがあると考えています。“Cercle”を手作りして販売する、小さなメーカーを設立するのが彼の夢です。
数日の観光旅行やパッケージツアーが悪いと言うわけではありません。数か月かけた巡礼が出来るとは限りません。逆に、日帰りで特に目的地を決めずに自転車でフラリと出かけるのも小さな旅です。そんな道中を楽しむ、ちょっとした旅ができるのも、自転車の魅力かも知れません。
◇ 日々の雑感 ◇
バッハ会長の歓迎会が反感を買うわ、バブルの中の選手村で感染者が出るわ、開会式の楽曲担当者が障害者いじめを自慢するわ、開幕が目前に迫った五輪にトラブル続出です。思えばザハハディド氏の国立競技場のデザイン変更とか五輪エンブレムをパクったデザイナーなど、最初からケチのつき通しだった大会な気がしてきます。
Posted by cycleroad at 13:00│
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