August 24, 2021

成功した事例は他でも活かす

ヨーロッパの都市も問題を抱えています。


いろいろありますが、交通の面での大きな問題は、酷いレベルの渋滞、それによる大気汚染、交通事故です。大気汚染と言うと、日本人は中国やインドなどを思い浮かべますが、実はヨーロッパでも深刻な問題です。ディーゼル車の比率が高いため、窒素酸化物や空気中の粒子状物質、PM2.5が元凶となっています。

PM2.5は、喘息や肺がんなど呼吸器系の疾患だけでなく、血液に入り込んで心臓疾患などの循環器系の病気も引き起こし、多くの人の死因になっていると言います。EUの都市全体では、大気汚染で年間50万人も早死にしていると報じられています。

歴史の古い都市も多いため、道路などの公共スペースも不足しています。道路環境が貧弱なため、歩行者や自転車利用者は交通事故の脅威にさらされています。もちろん、都市も温暖化ガスの削減を迫られています。持続可能な形で、都市を経済面で繁栄させていく必要もあります。

CIVITAS Handshake projectCIVITAS Handshake project

これらの有力な対策として真剣に考えられているのが自転車の活用です。日本とは違って、もともと自転車は現実的な都市交通の一つと考えられており、クルマの流入を抑制したぶんを自転車での移動へシフトさせようとしています。大気汚染や交通事故の低減になりますし、道路スペースを人間のために活用することができます。

ただ、ヨーロッパの都市と言ってもさまざまです。地形や気候、歴史や成り立ち、人々の慣習から考え方まで違うわけで、自転車インフラを整備すると言っても簡単なことではありません。ヨーロッパの都市の中には、自転車政策が進んでいる都市もあればそうでない都市もあり、政策への温度差や予算も違います。

CIVITAS Handshake projectCIVITAS Handshake project

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そんな中、“CIVITAS Handshake project”という枠組みが立ち上がりました。これは、自転車先進都市、デンマークのコペンハーゲン、オランダのアムステルダム、ドイツのミュンヘン、3つの世界的なサイクリング首都と呼ばれる都市で成功した自転車政策のノウハウを、他の都市へ移転し活かそうというものです。

いきなり欧州の全ての都市へというわけにはいかないので、まず10のEUの都市への移転、採用を目指しています。せっかく先進の3都市で試行錯誤してきた成果、高い効果のあったノウハウを他の都市で活かさない手はありません。EUの都市がそれぞれ取り組んで、同じ失敗を繰り返すのは無駄です。

CIVITAS Handshake projectCIVITAS Handshake project

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この恩恵を受ける10の未来のサイクリング首都は、ボルドー(フランス)、ブルージュ(ベルギー)、カディス(スペイン)、ダブリン(アイルランド)、グレーターマンチェスター(イギリス)、ヘルシンキ(フィンランド)、クラコウ(ポーランド)、リガ(ラトビア)、ローマ(イタリア)、トリノ(イタリア)です。

高品質の自転車インフラを整備するには、効果的な計画や準備が必要です。その中身は物理的な構造やネットワークに加え、他の交通とのリンクの考慮、駐輪システムや街路環境の改善、信号機や標識の改善、予算計画、人々の意識改革や教育など多岐にわたります。それらの検証や分析、安全評価も欠かせません。

CIVITAS Handshake projectCIVITAS Handshake project

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例えば、手本となるコペンハーゲンは、有名な自転車都市として、高度の自転車インフラが整備されています。さらにその周辺を含む広域圏には“Supercykelstier”(スーパーサイクルハイウェイ)という高速自転車道網の整備が進められており、現在合計176キロ、2045年までに746キロまで拡張される予定です。

コペンハーゲンと周辺の30の自治体を結ぶ高度な自転車インフラです。郊外に住む人々が便利に速く自転車通勤できます。とても快適な自転車道ですが、綿密に設計されています。まず、いかに利用者が停止しなくて済むかという観点でルートが決定されています。

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そして、自転車が優先されるようにしなければなりません。クルマと道路を共有せざるを得ない場所では、物理的に分離されます。物理的な障壁がないと、接触などの事故のリスクだけでなく、クルマのドライバーが駐停車することによってレーンがふさがれ、自転車の安全が損われることになりかねません。

ネットワーク化され、ルートを自在に選べる必要もあります。安心して走行できることも重要です。途中で自転車道の体裁が変わって、どこを走ればいいのかわからなくなったり、クルマの道路と合流したり、マークや標識がなくなったり、工事などで迂回するにも迷うようなことがあってはなりません。

CIVITAS Handshake projectCIVITAS Handshake project

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自治体の境で形状や走りやすさが変わっても困りますし、全体として有効に機能する必要があります。利用者はいちいち気つきませんが、走りやすさ、道路網としての有用性を考慮して計画・設計されているわけです。単に専用道として舗装してあるだけではなく、いろいろなノウハウが詰め込まれているわけです。

ヨーロッパでは、国境を超えるサイクリングロードもたくさんあります。もちろん、国ごと、都市ごとに道路や環境の違いも多々あるわけで、プロジェクトチームは、それぞれの都市ごとにカスタマイズできる一方で、全体としての使い勝手、有用性を増すことになるようなリソースを開発しています。







さすがヨーロッパ、個々の都市だけでなく全体として自転車をより活用できるようにする構想を進めています。ひるがえって日本の自転車インフラ環境を思うと、暗澹たる気持ちにさせられます。自転車走行空間に乏しく、インフラとして貧弱なだけでなく、将来的な構想など望むべくもありません。

県境を越えなくても、突然サイクリングロードが切れて無くなるなんて珍しくありません。利用者の使いやすさなど考えておらず、単に予算を消化しただけではと疑うような酷い例もあります。そもそもサイクリングロードは、大きな河川沿いなどに限られ、都市部への自転車通勤などが考慮されたものではありません。

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自治体ごとの連携もないので、体裁や設計思想も違います。ノウハウが共有されている例など聞いたことがなく、彼我の差は大きいと言わざるを得ません。もともとヨーロッパとは差があるわけですが、その差が埋まるどころか、さらに広がっていくのは必至でしょう。

そもそも日本では、自転車を有効な都市交通の手段として考える土壌がなく、最初からヨーロッパと比べることに無理があるのかも知れません。ただ、それでも近年は、自転車インフラ整備に取り組むところも出てきています。せめて、自治体同士でインフラ整備のノウハウを共有するくらいは考えるべきではないでしょうか。




◇ 日々の雑感 ◇

今日から原則無観客でパラリンピック開幕ですが、小池都知事は学校観戦は進めています。教育的な価値、貴重な機会ということでしょうが、一方で修学旅行などは中止要請です。子供にとっては修学旅行も一生に一度しかないわけで、不満や怒りが広がるのも無理はありません。こういうゴリ押しを平気でするから不信感も広がります。

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