August 27, 2021

不思議と事故が多発する場所

道路にはサイクリストにとって危険な場所があります。


日常的に自転車に乗っている人なら、通勤の往復とか、よく走るルート、家の近所などに1か所や2か所くらい、思い当たる場所があるのではないでしょうか。駐車車両が多いとか、見通しが悪い、右折待ちの車両が多い、歩行者が突然横断するなど、危険な理由もあるはずです。

明らかに何か問題があれば、道路は改修される場合もあります。信号が新設されたり、道路や交差点の形状が変更されたり、違法駐車を防ぐポールなどが取り付けられたり、危険な横断を防ぐ中央分離帯やガードレールが設置されたりといった危険を取り除く改良工事が行われると思います。

もちろん、明らかに危険な場所だからと言って、すぐに改良されるとは限りません。道路管理者の予算もありますし、優先順位もあるでしょう。結果として延々と放置されている場所もあります。必要性が指摘されながらも、遅々として改良が進まないケースもあるのは否めません。

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ところで、特に危険には見えないのに、なぜかよく事故が起きる場所があります。通行していて特に危険を感じない場所でも、警察は事故処理をするため、事故多発場所であることを把握していたりします。走っていて、ヒヤリとした経験があったとしても、そこがいつも危険な場所と考えるわけではないでしょう。

事故がよく起きる場所でも、特に危険に見えなければ、改良されることは、まず期待出来ません。なぜ事故が多いのか、理由がわからなければ改良のしようがありません。こういう隠れた危険箇所は、どこの街にもあるのだろうと思いますが、こうした交通インフラの問題を研究している人たちがいます。

ペンシルベニア大学ワイツマンスクール研究副学部長で、UPS輸送委員長なども務める、Megan S. Ryerson 博士とそのグループです。最近、Accident Analysis&Prevention という学術誌に、新しい研究を発表しています。“New metric for designing safer streets”と題されています。

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都市インフラにおいて、潜在的な危険や安全の確保が困難な領域を見つける方法です。その方法とは、サイクリストの生体情報、具体的にはアイトラッキングデータを分析することで、自転車や歩行者にとって、より安全な道路を設計するための、積極的なアプローチを提供できるというものです。

実際に、フィラデルフィアの街で39人のサイクリストに協力してもらって実験をしています。視線移動のデータを収集できるメガネに加えて、前方とサイクリストに向けたカメラ、目と頭の動きを1秒間に100回記録できるジャイロスコープなどを搭載したヘルメットをかぶってもらいます。

このデータと、実験したルートの事故データを比較したところ、クラッシュが不釣り合いに多い場所では、視線の動きが大きく、脳が認知するための作業量が増加していました。事故が多い場所と、視線が忙しく動く場所とは、明らかな相関関係があったのです。

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もちろん、視線が忙しく動き、脳にとって認知作業の負荷が高いからと言って、必ず事故が起きるわけではありません。しかし、注意する対象が多い、新しく認知する情報が多いと、脳や身体が適切に対応する能力は相対的に低下するわけで、事故の確率は高まることになります。

そして、このことは熟練のサイクリストでも、経験が浅く、自信のないサイクリストでも一貫した結果になりました。自転車の走行技術や経験とは関係なく事故が起きやすいことになります。また、クルマとセパレートされた、一見安全そうな自転車レーンであっても、このような事象は確認されました。

つまり、走っていると無意識に視線が忙しく動く場所があり、そのような場所で事故が多かったのです。自転車で走っていれば、クルマや他の自転車、歩行者、そのほか信号や標識などに目が行くのは当たり前です。無意識に行っているので、いちいち意識していませんが、明らかにその負荷の高い場所があったのです。

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もちろん、場所によって路面の状態とか、沿道の店の看板とか、通行人の様子とか、何かで脇見しがちだったり、視線の行く先は違うでしょう。でも、何か注意を喚起する要因があり、リスクが高くなっていたと思われます。最初から危険そうな場所なら気をつけますが、危険と感じないのに危険度の高い場所があることになります。

視線の行き先を解析すれば、これまで、わからなかった事故多発の仕組みが解明され、事故のリスクを直接下げられるかも知れません。それぞれの場所で要因は違うでしょうが、アイトラッキングデータを分析し、脳の認知負荷を下げるような道路改良によって、安全性を高められるケースもあるに違いありません。

全ての場所の事故が起きる理由を、視線の行き先や、脳の認知負荷で説明できるとは限りませんが、有力な手がかりになるのは確かでしょう。これまで、単に当時者の不注意が原因と片づけられていた事故の背景に、思わぬ要因が隠れていたりする可能性もありそうです。

今や私たちはテクノロジー、データサイエンスほか、これまで無かった方法で交通安全を研究することが出来ると、Ryerson 博士は指摘しています。これを使わない手はありません。インフラの安全性を科学的に評価する方法を手にしつつあり、今後も開発していけると見ています。

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このような手法を利用すれば、なぜ事故が起きるのか解明するのではなく、悲惨な事故が起きる前に、未然にインフラを改修することも視野に入ります。道路改修予算などの問題はあるとしても、実現すれば交通安全の向上、失われる人命を減らすという点で、大きな前進となるはずです。

改良ではなく計画の段階、新しいインフラを整備する前に、あらかじめ安全性を予測、検証するようなことも可能になるかも知れません。前もって問題点が判明すれば、整備後に構造を変更するような改良工事の必要がなくなり、インフラ整備費用の圧縮につながるかも知れません。

言われてみれば、なるほどと思いますが、アイトラッキングデータと事故との相関を探るとは、なかなか鋭い『目の付け所』です。こうした研究が進めば、事故が減り、走行の快適性も向上するかも知れません。早く、安全で快適な自転車インフラが当たり前になった世の中を見たいものです。




◇ 日々の雑感 ◇

パラリンピックの歓迎会が40人規模で開催され、橋本会長も小池都知事も菅首相も参加しました。国民に外出自粛を求め、人流抑制、テレワークと言うならオンラインにすべきでしょう。こういう矛盾した行動を何度も繰り返すから、国民への間違ったメッセージとなり、言わば自分たちが感染を拡大させているのがわからないのでしょうか。

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