コロナ禍の影響もあるのでしょうが、少し前まではネット通販には向かないと言われていた生鮮食料品もネットスーパーが届けてくれます。服とか靴など、これまで実際に試して買っていたものも、ネットで買う人が増えています。もしサイズが合わなければ返品・交換してもらえばいいだけです。
ネットを使えば、わざわざ交通費をかけて実店舗に買いに行く手間や時間が省けます。店側にしても、リアルの店舗を構える必要がなくなれば、人件費なども含めて大幅にコストダウンになるでしょう。卸しや小売店を通さずに直接消費者に届けられれば、中間マージンがカット出来て、安く売ることも可能です。
ただ、たくさんあるメーカー、ブランドの中から消費者に選んでもらうのは大変です。サイトを訪問してもらうための広告宣伝費がかさんだり、アマゾンや楽天などのショッピングモールに手数料を払わざるを得ない場合もあるでしょう。いい面ばかりとは限りません。
最初から買おうと訪ねてくれるお客はいいですが、例え宣伝広告を打ったとしても、そもそもその商品を買おうと思ってない人、必要としていない人にサイトを見てもらうのは困難です。これがリアルの店舗であれば、たまたま通りがかったとか、店頭で見て興味が出て入店してくれたりすることもあります。
いまだに実物を見て、試してからでないと買わないものもあるでしょう。例えば家具です。全く同じものを買ったことがあるならともかく、やはり実物を見て、質感とか色合いとか使い勝手などを試して、自宅に置いた時をイメージして買う人が多いと思います。
ベッドなら、寝心地とかクッションの具合などを試して買いたいでしょう。たまたま立ち寄っただけで、買うつもりがなかった人でも、試してみたら気に入って買う人もあるかも知れません。店頭で試してもらうのは、予定外のお客を買う気にさせるには有力な手段です。
スウェーデン発祥で、世界最大の家具量販店、イケア(IKEA)にも通販サイトがあります。インテリア用品や小物だけでなく、大型の家具もネット通販で買うことが出来ます。同社には固定客、熱心なファン層があると聞きますので、通販でも十分に売れているのかも知れません。
しかし、やはり試してもらわないことには、新規の顧客や予定していなかった人に、自社の家具への買い替えを検討させるのは困難でしょう。そこで
フランスのイケアはキャンペーンを行いました。首都パリの街頭で、同社のベッドを実際に試してもらう、“
La Sieste IKEA”です。
自転車で牽引したトレーラーにベッドを備えたカプセル状の「寝室」、シエスタポッドを載せ、パリ市内に届けます。希望する人は、このスリーピングカプセルの中で昼寝をすることが出来るというものです。この8月30日から9月3日までの1週間限定、時間は午後1時30分から午後6時30分までです。
昼寝は健康に非常に有益とされており、10分でも昼寝をすれば眠気が覚め、気力も充実することは広く知られています。この時期を選んだのは、ちょうどパリジャン、パリジェンヌたちがバカンスから戻って、パリで勤務を始める頃であり、休暇明けで眠気を感じやすい時期ということもあります。( ↓ 動画参照)
関係機関の調査では、このコロナのパンデミックによって睡眠不足気味の状態が続く人は、世界各国とも、かなりの割合に上ると言います。軽重の差はありますが、何らかの睡眠障害の症状がある人も多いことがわかっています。以前より寝不足の人が増えたのは確かでしょう。
昼寝がいいとは知っていても、パリの一般的なオフィスには昼寝のスペースなどありません。そこで、休暇明けのこの時期に、パリのビジネスマンらに昼寝のスペースを提供しようというわけです。10分か20分、それ以上長いと本格的に寝てしまい、昼寝としては良くないと言われているので最大30分間利用できます。
イケアは、夜の十分な睡眠やパワーナップ(power-nap)と呼ばれる昼寝が、人間の幸福に貢献し、健康や日常生活を改善すると考えています。パンデミックでなくても、眠りが浅いとか、短時間で目が覚めて、寝たりないと感じる現代人は多いでしょう。こうした人に良質な睡眠やパワーナップを届けたいのです。
しっかりした固さのマットレス、軽い夏用の羽毛布団、人間工学に基づいた枕、カプセル内の音響ソリューションも含め、同社の提供する快適な睡眠のための環境を体験してもらうのが目的です。言葉や映像ではベッドの良さが伝わりにくいので、実際に試してもらうのが一番です。( ↓ 動画参照)
フランスでは足元の感染者数は落ち着いてきており、マスクなどの規制も緩和されています。しかし、コロナ禍ですから、感染対策も行われます。カプセル内は使用のたびに消毒され、利用者が代わるごとに10分間の換気が行われます。もちろん寝具などは新しいものと交換されます。
利用を希望する人は、自分のインスタグラムで、@IKEAfrance に言及するか、Twitterでハッシュタグ、#lasiesteIKEA をつけて、@IKEA_france をツイートするだけです。希望の時間に空いていれば、トレーラーを牽引する同社の社員からDMで連絡がきて、希望する場所まで来てくれます。
申し込みに、単なるメールではなく、SNSを使ってもらうというのもポイントでしょう。フォロワーにも見て知ってもらえますし、リツイートなども期待できます。リアルな体験のキャンペーンですが、ネット上での拡散、宣伝効果も十分に計算しています。
手元のスマホでSNSに投稿するだけなので手軽です。休憩時間に合えば、上司や同僚に気づかれることもなく、昼寝してくることが出来ます。これは、イケアのベッドや寝具に興味がなく、買い替えるつもりがなくても、利用したくなるのではないでしょうか。( ↓ 動画参照)
カーテンを閉めて暗くして熟睡してもいいですし、眠くならなければ、カーテンを開けたままパリの通りを30分間牽引してもらって、寝心地を試しながら、ちょっとしたツアーを楽しんでもかまいません。電車と同じで、軽い揺れがあったほうが、すっと眠りに入れるかも知れません。
自転車とトレーラーというのもポイントだと思います。ベッドが入ったカプセルを運ぶのですから、トラックでもおかしくありません。しかし、あえて自転車にするところが同社らしいと思います。トラックより自転車のほうがスマートですし、意外性もあるでしょう。
もともとイケアは、自転車を選ぶ傾向があります。ご存知のとおり同社は、基本的に組み立て家具を販売し、お客が自分で購入した製品を持ち帰って組み立てるという販売スタイルがメインです。クルマで来店する人も多いですが、同社は店舗によっては、家具を持ち帰るための自転車用のトレーラーを貸し出しています。
自転車の活用を促しているわけです。もともと北欧の会社だけあって、地球環境に配慮した取り組みに力をいれていますが、その一環でもあります。これまでもこのブログで何回か記事にしましたが、自社ブランドのトレーラー付きの電動アシスト自転車まで販売を始めています。( ↓ 動画参照)
ヨーロッパで、トレーラーを牽引した自転車自体は、さほど珍しくありません。でも、わざわざ自社ブランドのトレーラー付き自転車まで開発して売る家具チェーンというのは他に聞いたことがありません。自転車の活用を促し、環境に配慮する姿勢が見られます。
特に珍しくはないけれど、なかなか買ってまでトレーラーを使う機会はないという人は多いでしょう。しかし、イケアに立ち寄ったお客の中には、見つけた家具を運んで帰るために、ついでに自転車とトレーラーを購入してしまう人もいるかも知れません。
トレーラー付きの自転車を売って儲けるというより、これが同社のスタイル、ポリシーなのでしょう。家具だって自転車で十分に運べることを示し、家具が運べるならば、何でも運べることに気づいてもらえます。自転車で十分な移動や運搬は、自転車を使うスタイルがスマートだと考え、このキャンペーンでも実践しています。
日本では、なおさら自転車と家具は結びつかないと思いますが、そのぶんインパクトは見込めます。家具に限らず、マーケティングの手法として参考になるのではないでしょうか。ネットで売るにしても、自転車というリアルな手段を使った販売促進の方法、いろいろと考えられそうです。
◇ 日々の雑感 ◇
続投へ意欲満々だった菅首相は9月解散とか総裁選前の役員人事という奇策を使ってでも政権の延命を図ろうとした結果、党員のさらなる反発と離反を招き墓穴を掘りました。立候補すら出来なかった惨敗をコロナ対策専念という口実で取り繕うより医療崩壊や自宅死亡者を出した事を謝罪し責任をとって辞任とすれば評価も違ったかと。