October 08, 2021

刑務所の中から脱出する為に

治安の維持は国家にとって重要な責務です。


言うまでもなく、国民の安心や安全な生活のためには欠かせません。そのために法律を定め、司法機関や警察を組織するなどして、テロや暴動も含めた犯罪の摘発や防止に努めることになります。ただ、警察の活動を強化し、犯罪者を拘束、司法手続きを経て、刑務所に入れるだけでは十分とは言えません。

抑止のための啓発や防犯活動も必要でしょう。国によっても違いますが、刑期を終えて出所する犯罪者の再犯率は一般的に高いのが実情です。施設に収容されている受刑者のうち、大きな割合を再犯者が占める傾向もあります。そこで重要とされるのが犯罪者の更生です。

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再犯を防ぐには、仕事や住む場所を確保し、社会の健全な一員として復帰させることが重要になります。保護観察や、出所後の指導や支援も必要です。刑期を終えた出所者に、住むことを認めてくれる家主さんとか、雇用してくれる企業など、民間の協力も欠かせません。

ところで、ベルギーは、ヨーロッパの中でも犯罪発生率が高い国とされています。人口10万人当たりの犯罪認知数で比べると、例えば強盗はフランスの1.1倍、ドイツの3.5倍、日本の120倍です。殺人や窃盗なども、ヨーロッパ各国と比べて高い数値になっています。

THE BREAKAWAY

デカトロン・ベルギーは、フランスのスポーツ用品会社、デカトロン(Decathlon )の子会社です。世界的にブランドを展開すると共に、世界最大のスポーツ用品チェーンストアでもあります。同社はベルギーのオーデナールデ市にある同国最大の刑務所で、“The Breakaway”と銘打ったキャンペーンを開始しました。

刑務所の受刑者6人で自転車チームを結成し、トレーニングをしてレースに出場させようと言うのです。もちろん、刑期中に出所させるわけにはいきませんので、バーチャルなレースです。室内でペダリングするエアロバイクをネットで世界中と接続して、仮想のレースを競うことが出来る“Zwift”を使います。

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このコロナ禍でも、家の中でエアロバイクをこぐ人が増え、仮想サイクリングの世界的プラットフォームとなっています。囚人のチームが、世界中の一般の人たちと共にレースに出たり、練習などでバーチャル空間での交流もします。世界初の囚人による、eCycling チームです。

このプロジェクトは、デカトロン・ベルギーだけでなく、ベルギー司法省、オーデナールデ刑務所、刑務所内のスポーツや文化を促進する非営利団体である“De Rode Antraciet”、刑務作業や職業訓練などを民間とつなぐサービスを提供する“Cellmade vzw”といった組織が共同でプロデュースしています。( ↓ 動画参照)



デカトロン社は、全ての人々がスポーツにアクセスできるようにするというビジョンを掲げており、このイニシアティブはその一部と考えています。スポーツをすることが、受刑者の身体的、精神的な健康の増進に役立つことは言うまでもありません。しかし、それだけではないのです。

受刑者が出所後に、社会復帰するのにも貢献すると考えています。社会と隔絶された刑務所内でも、世界のサイクリストとつながっていると感じられることは、復帰に向けた大きな励みになります。私も含め、塀の中に入ったことのない人にはわかりませんが、我々が想像する以上のものがあるようです。

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ヨーロッパで自転車スポーツは、サッカーと並ぶ人気を誇ります。その自転車レースを、バーチャルとは言え競技できることば、大きな誇りや満足感、喜び、単なる運動以上の意味を持つことになるでしょう。服役者にとって、社会復帰へ向けたリハビリのような効果ももたらします。

ちなみに、服役者メンバーは匿名になります。仮想世界ではアバターになりますが、名前は全て、JohnDoe と番号になります。日本で言えば、名無しの権兵衛くらいの意味合いでよく使われる名前です。プライバシーの保護もありますし、さすがに明かすと支障が出ます。

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レースでは、法務大臣と法執行機関のチーム、裁判官のチーム、刑務所の看守のチーム、警察官のチームとも競います。一般のサイクリストの数千人とも交流することになります。もちろん服役中ですから、刑務作業などの厳しいスケジュールを縫ってトレーニングをし、レースをします。

チームとしての協調性も必要ですし、勝負に勝とうとする意欲、体力や脚力を向上させる努力、いろいろなものが必要となるでしょう。忘れていた感覚も呼び戻すに違いありません。そして、何より前向きにチャレンジする気持ち、やる気が欠かせません。

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出所して、住む場所や職を得て生活を構築する上で、この「やる気」が無ければ、その後の展望も開けません。再犯率を見ても、そのハードルは低くありません。社会復帰して更生し、前向きに新しい人生を切り開いていくためには大切な要素でしょう。こうした気力を鍛えなおすことにもつながるに違いありません。

デカトロン社にとっても、服役者の社会復帰への支援は、とても重要な社会貢献ということになります。単に服役者による、eCycling チームを結成するのが目的ではないのです。“Zwift”上で交流した一般の人たちが、服役者に対する偏見や差別意識を減らすことにもつながるでしょう。



“Zwift”によるオンラインの自転車レースが、まさか塀の中で、このような使い方をされるとは思いませんでした。服役者はスポーツマンとして社会復帰することになるでしょう。他の刑務所も関心を示し始めていますが、再犯率を下げ、ひいては治安の向上にまでつながる、なかなか有意義な取り組みと言えそうです。




◇ 日々の雑感 ◇

感染者が順調に減っています。関係者がリバウンドを心配するのはわかりますが、今こそ経済を回して景気をよくするチャンスです。経済的な犠牲者を減らす為にも、今は気を抜くなと抑えるより積極的な消費を促すべきでは。

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