December 19, 2021

世界中の空はつながっている

人間の死因はいろいろあります。


世界には78億7千5百万人もの人間が生きています。そして、全世界の合計で年間5千6百万人が死亡しています。毎年、日本の人口の半分近い人が死ぬ計算です。第二次世界大戦の全世界の死者数が約5千万人とされていますから、それに匹敵する死者が毎年出ていることになります。

死因はさまざまです。出生後すぐ死亡する子供もあれば天寿を全うして老衰で亡くなる人もいます。いまだに世界の5人に1人が飢餓や栄養不足が原因で亡くなっているとされます。そのほかに病気や交通事故、自然災害や戦争に内乱など、亡くなる原因はたくさん挙げられます。

今般のコロナのパンデミックでは、約2年間で全世界の死者数の累計は536万人に上ります。一方で、新型コロナウイルス以外の伝染病や感染症、マラリアや結核、HIV/エイズといった病気でも、途上国を中心に、合計すると何千万人という単位で死亡しています。

事故や戦乱と違って、病気で死ぬ場合は一つの病気とは限りません。例えば、脳卒中や心筋梗塞で亡くなる場合も、それを招いた要因、別の病気があったりします。血管の閉塞以外でも、いろいろな病気の複合で心臓や、ほかの臓器不全を招くこともあります。いわゆる合併症ということもあるでしょう。

SODAQ AIR
(World Health Organization=WHO: Air Quality Index)

ところで、大気汚染も死を招くことがあります。それは、必ずしも喘息とか肺炎、肺がん、重篤な呼吸器疾患など直接的な病気で亡くなる場合に限りません。例えば、粒子状物質、PM2.5が体内に取り込まれることで、循環器系、血管などの病気を悪化させることもあるでしょう。

以前から、大気汚染の話は何度か書いてきました。大気汚染と言うと、日本人は中国やインドなどを思い浮かべますが、実はヨーロッパでも深刻な問題となっています。窒素酸化物などの有害物質もありますが、ディーゼル車が広く普及していることもあり、空気中の粒子状物質、PM2.5なども問題となっています。

EU全体では毎年50万人以上が早死にしていると専門機関が警告しています。大気汚染が直接の死因とは言えないので、早死にという言い方をしていますが、肺がんや呼吸器疾患以外も含めて、間接的に死亡原因になっていることは間違いないと専門機関では分析しています。

SODAQ AIRSODAQ AIR

ヨーロッパだけではありません。世界保健機関(WHO)は、大気汚染の影響により世界全体で毎年700万人が亡くなっており、人間の健康に対する最も深刻な環境脅威の1つとなっていると指摘しています。すぐに病気となって死亡するわけではありませんが、死を招く大きな要因なのです。

見るからにスモッグが酷い北京やニューデリー、メキシコシティなどだけの話ではありません。目で見えず、臭いとしても感じない程度の大気汚染でも、影響があります。日本でも中国大陸からPM2.5を含む黄砂が飛んできたりしますが、発生源は自分の国とは限りません。グローバルな問題なのです。

このような状況に危機感を持って立ち上がった人がいます。Jan Willem さんと、Ollie Smeenk さんです。オランダ在住の2人は、SODAQ という技術会社を立ち上げました。SolarPowered Data Acquisition の略です。2013年のことです。

SODAQ AIRSODAQ AIR

2015年に、“SODAQ AIR” という製品のプロトタイプを完成させました。微粒子状物質などを測定できる空気質モニターです。従来の機械とは違い、小型で自転車に取り付けられるのが特徴です。2年後、オランダ国立公衆衛生環境研究所、オランダ・ユトレヒト州、データ解析の、Civity 社と組んでプロジェクトを開始しました。

Snuffelfiets(Sniffer Bike)”というプロジェクトです。自転車を使って大気汚染の状況をモニターしようというのです。最初はたった10人のサイクリストが装置を自転車に装着しただけでしたが、2年後の2019年には、その数、500人までに増えました。

それまでも、大気汚染の状況はモニターされていました。しかし、観測所など決まった場所にある固定された機器だけでした。それでも全体的な傾向はわかるでしょうが、データとしては貧弱と言わざるを得ません。もしかしたら、少し離れた場所で濃度が著しく違っていたとしても、それを掴むことは出来ません。

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このプロジェクトで、500人のサイクリストは合計75万キロの距離を走行し、データ量は20GBに達しました。オランダ国立公衆衛生環境研究所は、このデータを徹底的に分析した結果、それまでの固定の大気観測所のデータだけでは不十分であり、このモバイルセンサーによる観測が貴重なデータであると認めました。

大気観測所を国中に設置することは出来ません。しかし、サイクリストが乗る自転車に取り付けておけば、少なくとも道路に沿って、かなり細かい部分まで観測できます。少し離れただけでも違うかも知れませんし、同じ場所でも、天候や風向・風速などによって、少しの時間差で変わる可能性もあります。

過去7年間の実験の経験や知見を融合し、さらに性能を向上させた新しい、“SODAQ AIR”を開発しました。自転車のベルよりは多少大きいですが、取り付けてもそれほど邪魔になりません。PM2.5、1.0、10などの微粒子状物質の濃度だけでなく、温度や湿度も10秒ごとに測定します。

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このデータは1時間ごとに通信回線、LTE-M と、NB(ナローバンド)-IoT のネットワークを通してアップロードされます。アップロードされたデータは地図上にプロットされますので、自分の家や地域の状況を把握することが出来ます。希望があれば、個人の家や庭などに固定で取り付けておいて静止データも取得出来ます。

アップロードされるデータは、GPSで場所と時間が特定されますが、完全に匿名性が守られます。自分のデータだけでなく、他人のデータを含めて、より精度の高い情報が得られるわけです。住んでいる場所だけでなく、地図に沿って、よく通る場所の汚染状況をチェックすることも可能です。

ちなみに、加速度センサーも搭載しているため、スピードによってPMセンサーを制御しています。当たり前ですが、自転車はいろいろな速度で走行します。速ければ、それだけ粒子状物質もたくさん入ってくるでしょうから、同じように測定していては正確なデータが得られないからです。

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“SODAQ AIR”の本体には、LEDがついており、空気の質が良好な場合は緑色に点灯しています。PMのレベルが低いことを表します。黄色になると濃度がそれなりに上がったことがわかり、赤色になると、かなり高いことがわかります。見た目や臭いでわからない場合でも大気汚染の状態がリアルタイムにわかるのです。

いつも赤い場所なら、避けることも考えられるでしょう。皆のデータがアップロードされた地図と併せて、通勤ルートを検討することも出来ます。個人にとっても、それなりのメリットがあります。でも、これは個人向けに大気汚染の被害を避けるためだけのものではありません。

多くのサイクリストに取り付けてもらうことで、より多くの場所の頻度の高いデータを広く収集するのが目的です。大気汚染の状況を分析することで、その発生源や汚染レベル、時間推移など現状把握から、抜本的な解決策を導き出したり、少なくとも関係者や政策決定者に判断材料を提供することが出来るはずです。

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すでに、オランダだけでなく、ノルウェーやスウェーデン、イタリア、フランスなどでも使われています。大気汚染はグローバルな問題であり、自国だけでは解決できません。全世界でこの機器が使われ、より広範にデータ収集されることを目指しています。

空気の質だけではありません。気温や湿度などの細かい分布も把握できます。これはヒートアイランド現象の分析や対策、あるいは熱中症対策にも役立つことが期待されます。サイクリストと、サイクリングルートのネットワークが、さまざまなデータと、それによる知見をもたらすというわけです。

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ちなみに、リチウムイオン電池ではなく、再充電可能なスーパーキャパシタが使われ、時間経過で電力が減衰しせず、電池の寿命と耐久性も向上しています。それでも新しい“AIR”は、初期のものの半分程度の価格まで下がりました。少しでも多くの人に取り付けてもらうため、クラウドファンディングも行っています。

また、世界に広げるため、この“AIR”は、リエイティブコモンズライセンスとなっています。デバイスの回路図へのアクセスは、個人や研究機関、非営利団体などに無償で提供されています。同社から買わなくても、他の国で製造したり改良したりすることも出来るのです。

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もちろん、得られたデータは無償で公開されています。どこの国のどんな機関でも、大気汚染を改善するために、役立ててほしいと考えています。言ってみれば、世界の空は全部つながっており、一つの国で大気汚染物質の排出を減らすのではなく、世界中で取り組んでほしいからです。

SODAQ 社は、アフリカの農村部であっても気象観測ができ、それを太陽光発電システムの効率的な運用に結びつける機器などを開発しています。そのノウハウが“AIR”にも生きています。一貫して、地球の環境を改善するため、より良い環境、より良い世界をつくることを目指している会社なのです。

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ヨーロッパでは、大気汚染を意識しているサイクリストは相対的に多いと思います。それ向けの製品が販売されたりもしています。この機器を使うことで、個人の健康や被害の軽減にとどまらず、世界の人のための環境改善に貢献できる可能性が出てくるわけです。

一人ひとりの出来ることは小さいと思いますが、それが合わされば世界の人の健康を阻害する要因、ひいては死者を減らすことになるかも知れません。自転車に乗っているだけで、大気汚染の改善や、自分も含めた世界中の人々の健康増進につながるとしたら、なかなか素敵なことではないかと思います。




◇ 日々の雑感 ◇

オミクロン株の市中感染が懸念されています。隔離中に他人と会わないと誓約したのに守らなかったアメリカから帰国した20代の女性、この人と2日間も会って発熱したのにサッカー感染し、他の観戦者に広げた20代の男性、この2人の行動、故意か軽率かわかりませんが、もし感染拡大すれば日本中に甚大な損害を与えかねません。

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