January 27, 2022

都市交通環境を変革する決意

パンデミックが変えたものはいろいろあります。


テレワークなどで働き方も変わりましたし、巣ごもり消費ではネット通販がさらに伸びました。飲食もテイクアウトやフードデリバリーの利用へシフトしました。オフィスを縮小したり、ワーケーションを導入するなど、都市を離れて郊外へ移住する人も増加傾向です。

そのほか、さまざまなことを変えたコロナですが、終息しても以前のように戻らないものも多いと言われています。人々の仕事や生活様式だけではありません。例えば都市そのものも変わっていく可能性があります。例えば、イタリア・ロンバルディア州のミラノです。

Photo by Marco Bonavoglia,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.Photo by Marco Bonavoglia,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

ご存じのようにミラノは、イタリア北部の中心的な都市で州都、ミラノ県の県都でもあります。首都ローマに次ぐ第二の都市人口を有し、都市圏としては最大です。ファッションの都として世界的に有名ですが、航空産業やクルマ産業、精密機械工業なども発達しており、イタリア最大級の商業都市、経済地域でもあります。

パンデミックの初期にはミラノを含めた北イタリアは深刻な状況に陥りました。その後、ロックダウンが解除されても、他の多くの欧米の都市と同様に人々は公共交通機関を敬遠し、自転車で移動する人が増えました。ミラノは急遽クルマの車線を減らし、臨時の自転車レーンを設置して対応しました。

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ミラノ市はイタリア政府に国の交通法規の一部変更を要請することで、仮設の自転車レーンを市全体に急速に拡大させました。制限速度、歩行者と自転車の優先道路の設定といった関連ルールの整備も進めました。ミラノに限りませんが、急速なニーズ拡大に対応するため、都市の交通環境を大きく変えたわけです。

一時的なシフトでしたが、これにより自転車の有用性が実感されました。ミラノはイタリアでも最悪レベルの大気汚染に悩む都市でした。これまでも対策はとられてきましたが、なかなか効果が上がりませんでした。これまではクルマでの移動を好む人が多く、自転車にフレンドリーな政策は支持されませんでした。

Photo by Paolo da Reggio~commonswiki,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.Photo by Traveler100,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

デンマークやオランダの都市のような、親自転車都市にはなりえなかったわけですが、やむなくとった手段により、自転車での移動にする利点が市民の目にも明らかになりました。クルマの交通量が減り、大気汚染が軽減し、対策としての有効性があらためて認識されました。

これから、都市としても取り組んで行かなければならない温暖化対策にも有効なのは明らかです。大気汚染の対策と、温暖化ガス削減という意味では、EVという手もあります。しかし、それだと無くならないものがあります。ミラノが悩まされている酷い渋滞です。

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EVになっても台数が減ったり、クルマに乗る人が減るわけではありません。場所をとらなくなるわけでもありません。仮に全部EVになっても渋滞は変わらないでしょう。自動運転になれば、AIが渋滞を避けてくれる気がしますが、クルマの集中、そもそも台数が多いことによる渋滞には無力です。

パンデミックで、ミラノのスーパーマーケットの形態も変わりました。これまでは、郊外の大規模スーパーに買い物に行くのが一般的でした。それが、ロックダウンで市民は、より近くの店で買うようになりました。ミラノのスーパーは、続々と小型店にシフトしたのです。

MilanPhoto by Stefano Stabile,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

自転車で行ける距離で生活するスタイルが見えてきた面もあります。ミラノ市の人口は130万人ほど、広さは182平方キロほどしかなく、面積的には大きな都市ではありません。端から端までも、直線で15キロほどです。元々自転車でも十分に移動できる都市と言えます。

ミラノの歴史は古く、紀元前のケルト人の町まで遡ります。その後ローマ帝国や中世のミラノ公国などを経て、歴史的な建物が数多く残っています。道路は狭いですが、歴史的な街並を壊して拡幅するわけにもいきません。渋滞が酷いのは当然で、むしろクルマの利用に向いていない都市とも言えるわけです。

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コロナ以前から、ミラノはクルマを中心とした道路交通からの脱却を指向してきました。しかし、これまで計画は支持されず、なかなか進まなかった面がありました。これが、偶然コロナのパンデミックという事態に見舞われたことで、環境が大きく変わったわけです。

ロックダウンで自転車の利用が拡大し、クルマの渋滞は3割から7割5分も減りました。ベンゼンや窒素酸化物などの大気汚染物質も3分の2ほどに減り、交通事故も大きく減りました。市民にも、自転車による移動、自転車都市へ転換するメリットが、はからずも実感された形です。

Cambio BiciplanCambio Biciplan

Cambio BiciplanCambio Biciplan

もちろん、異論もあり反対する人もいるわけですが、ミラノ市は自転車都市への転換を決意しました。パンデミックが決意の背中を押したと言えるかも知れません。今後15年以内にヨーロッパの都市の中でも、最も包括的な自転車道のネットワークを獲得することになる予定です。

その計画が、“Cambio Biciplan”です。予算は2億5千万ユーロ、市内に750キロのクルマと分離された自転車レーンを設置する計画です。環状道路と放射状道路でネットワークが構成され、ミラノの住宅の80%が、この保護された自転車レーンのルートから1キロ以内の距離に位置するようにします。

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生活に関連するサービス、商店だけでなくスポーツや娯楽施設、学校や企業、病院、役所といった施設の8割も、サイクリングラインから1キロ以内でアクセスできるようにします。レーンに面していなかったとしても、最寄りの地点から1キロも走れば、たいていの用事が済むということになります。

ちなみに、ミラノの中心に位置する象徴的な建物、有名なドゥオーモ大聖堂前の広場にも、すでにシェア自転車のターミナルが設置されています。私も行ったことがありますが、この歴史的な景観の中にシェアサイクルが並ぶのは違和感を感じないでもありません。

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例えるなら、明治神宮の境内にシェア自転車が並んでいるような感じでしょうか。古い伝統的な街並とミスマッチな気がしてしまいます。ただ、現地の人には大聖堂も日常の景色であり、伝統的な景観も大切ですが、ここで暮らしている人々の生活、健康、移動の利便性が重要です。

少し前にパリの自転車都市への決意の記事を書きましたが、ミラノも決意しています。歴史があり伝統的な街並を持つ都市が、他のヨーロッパの都市と同様に自転車都市にシフトしていきます。計画名にあるように変革です。パンデミックを契機とした変化ですが、時代の流れもあり、コロナ後も元に戻ることはなさそうです。










◇ 日々の雑感 ◇

つい先日、東京五輪が終わったばかりな気がしますが、気がつけば北京五輪がもう来週に迫っています。東京五輪に続きコロナ禍でのテレビ観戦ということになるわけですが、外出が抑制される点ではいいのかも知れません。

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この記事へのコメント
ちゃんと自転車専用道が整備されている様子が画像等で確認できますね。
「車道で自動車と自転車を混在させる交通施策は致命的な欠陥がある」
これは既に先進諸国の交通施策の常識となっている様子がうかがえます。
Posted by 自転車好き at January 30, 2022 08:22
自転車好きさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃる通りの自転車レーンが必要というコンセンサスは出来つつあると思います。でも、それを古い町並みと狭い道路の多いミラノがやるというのは、ちょっとした驚きであり、ヨーロッパの都市の自転車の活用の本気度がわかりますね。
Posted by cycleroad at January 30, 2022 16:53
 
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