February 08, 2022

自転車先進都市を実現する鍵

今やロンドンは自転車先進都市です。


デンマークやオランダなどの、伝統的な自転車都市と比べると、自転車に乗る人の割合や輸送分担率などについては、まだ差がありますが、急速に自転車インフラの整備を進め、非常に短期間に、有数の自転車先進都市に変身した街として、広く認知されてきています。

そのロンドンでは、2030年までに自転車利用を3倍の14%にすることを目標にしています。十分可能な数字です。最近の、“Transport for the Quality of Life”のレポートよれば、この目標が達成されるとロンドンに50億ポンド、およそ7800億円の経済効果がもたらされると報道されています。

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大気汚染の低減によって、よりきれいな空気を取り戻すことで人々の命を救い、健康増進に貢献するだけではありません。雇用を創出し、投資や消費を増やすなど大きな経済的な利益をもたらすとあります。これまで、自転車に乗るようにして何の得があるのかと言う人もいましたが、大きなメリットがあるわけです。

経済効果だけではなく、2030年までにロンドンの温暖化ガスの排出をネットゼロにするという、サディク・カーン市長の公約を果たす上で、費用対効果の高い方法であるとされています。酷い渋滞による社会的な経済損失を減らすことにも寄与します。

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このロンドンの自転車先進都市への変身を主導したのが、イギリスの現首相のボリス・ジョンソンです。ロンドン市長だった当時、2012年のロンドン五輪の開催に向け、「自転車革命」を前面に押し出し、自転車レーンやシェアサイクル、郊外と結ぶ自転車ハイウェイなどの整備を進めました。

ロンドン五輪開催中には、市内の渋滞や交通機関の混雑を回避するため、多くの市民が自転車に乗りました。そして、ロンドンで起きた同時テロで地下鉄やバスを敬遠する動きも手伝い、五輪の後にも多くの市民がそのまま自転車に乗り続けるようになりました。

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それまでのロンドンは、慢性的な交通渋滞と排気ガスによる大気汚染に悩まされていただけでなく、市民の自転車マナーも決して褒められたものではありませんでした。しかし、この自転車都市化が進められたことで、自転車に対する意識も大きく変わり、その有用性に対するコンセンサスが形成されたのも確かでしょう。

ジョンソン市長の進めた「自転車革命」については、これまで何度も取り上げましたので、その中身や経緯は、このブログの過去の記事をご参照いただくとして、昨今の環境への配慮、持続可能な都市や交通という意識など、いろいろな要因も重なって、短期間で自転車の活用が進みました。

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ただ、この先進自転車都市への脱皮を促したのは、インフラの整備だけではなかったと思います。ハード面だけではなく、ソフト面にも背景があったからこそ自転車に乗る人も増えたと、私は見ています。それは教育です。その一つの例として、“Bikeability Trust”があります。

Bikeability Trust”は、イギリスで自転車トレーニングを提供する慈善団体です。主として子供や若者向けですが、大人も含めた自転車教育の先進的なプログラムです。しかし、単に、子どもを自転車に乗れるようにするだけのトレーニングではありません。

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まず自転車に乗れるようにする訓練もありますが、実際に街を走るための知識、交通ルール、事故に遭わないための実用的なテクニックなど包括的なプログラムです。誰もが、サイクリングを安全に楽しむスキルを習得し、一生、自転車に乗ってもらえるようにするというビジョンを掲げています。

自転車に対する理解、例えば自身の健康増進に貢献すること、環境的にもいいこと、社会的な影響など、トータルな理解を深めることも目的です。自転車の構造やメンテナンスの知識は、実際に自転車を購入したり乗るのにも役立ちますし、自転車生活の快適さ、楽しさに直結するに違いありません。

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このブログを読んでいただけるような趣味のサイクリストなら理解していただけるのではないかと思いますが、自転車に対する理解という部分は重要です。例えば、細かいことですが、サドルの高さを適切にするという知識があるだけで、乗り心地は大きく違ってきます。

日本で街をママチャリで走っている人を見ると、多くはサドルが低すぎです。足の力がペダルに伝わりにくく、効率が悪いですし、坂なども上りにくいはずです。足が疲れたり、筋肉痛になったりするので、自転車を嫌いになる可能性も高くなるでしょう。自転車本来のポテンシャルが発揮されず、その良さも実感されません。

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空気圧が低いまま乗っている人もたくさんいます。エネルギーを大きくロスをしているわけで、スピードは出ず、力が余計に必要になります。大きな異音をさせながら乗っている人も見ますが、快適ではないはずです。これら、ちょっとメンテナンスをすれば、自転車に対する印象も大きく違ってくるに違いありません。

日本の場合は、中国製の格安粗悪なママチャリが市場を席捲しているという不幸な事実もあるわけですが、こうした基本的な知識を知り、正しく選べば、自転車に乗る楽しさが実感されるはずです。必ずしも高い自転車に乗る必要はありませんが、その差は大きいと思います。

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きちんとメンテナンスされ適切に調整された自転車に乗ることは大きな違いを生みます。こうしたことを知っているといないとでは、自転車に対する見方が大きく変わってくるでしょう。必ずしも、自転車を趣味にする必要はなく、日常的に乗る義務もありません。でも、そうする人の割合も増えるはずです。

交通ルールを遵守することや、ルール違反をすると、どうして危ないかも理解できます。自分の安全のためだと理解すれば、日本のように交通ルールやマナーを無視して、自分や周囲の危険も顧みず、傍若無人に暴走することも無くなるでしょう。社会の交通秩序も向上します。



このように、自転車に対して総合的な理解を持つのは大切なことです。そのメリットを理解する人が増えれば、自転車を活用する人も増えるでしょう。こうしたソフト面も、自転車先進都市になるために必要なことです。単にインフラの整備、ハード面だけが良くても、自転車に乗る人が増えなければ意味がありません。

自転車に限らず、教育は大切です。子供の頃から教えて育てていくと考えると、迂遠なように感じますが、実はきちんとした教育こそが、結果的には近道だったりします。“Bikeability Trust”のような団体が、自転車に対する総合的な教育を提供しているのは、実は重要なことだと思います。



日本にも類似の団体はありますが、一般的に自転車教育は重要視されていません。せいぜい親が、一人で乗れるように教えるだけです。後は、せいぜい交通量の多い場所では乗るなと厳命するくらいでしょう。親にも知識がないのですから仕方ありません。おそらく学校でも、あって交通ルールを教えるくらいではないでしょうか。

自転車教育なんて、最初に練習して乗れるようになれば十分と考える人が圧倒的多数です。それ以上、基本的な知識も学びません。しかし、そのことが自転車に対する理解の不足となり、交通ルールの無視にもつながっています。正しく効率的に活用できず、自転車の楽しさを知らないなど残念な状況を招いています。

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ロンドンが短期間に自転車先進都市となったのは、自転車インフラの整備も重要な要素です。しかし、それだけではなく、自転車に対する総合的な理解を持った人が増えていったことも大きいと思われます。日本でも、今のルール無視の混沌とした自転車秩序を将来的に正していくために、教育を強化すべきではないでしょうか。




◇ 日々の雑感 ◇

ようやく1日100万回と言い始めましたが遅すぎます。ブースターの遅れが諸外国よりピークアウトが遅れた原因と言われています。在庫もあったのに昨年からの時間を無駄にしたことで高齢者の死亡が増えています。省庁間の調整どころか答弁も満足に出来ないワクチン相任命も含め、岸田首相の責任は大きいと言わざるを得ません。

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