ゴミを拾ったり、掃除をする活動のこともありますが、日本では、放置自転車の撤去、移送を指す場合も多いと思います。迷惑駐輪を一掃するキャンペーンとして作業や市民の啓発を行ったりします。つまり、クリーンにする対象は自転車です。迷惑なばかりか目障りで美観を損なうとして目の敵にする自治体も少なくありません。
ところが、同じ都市のクリーン作戦でも、ヨーロッパで行われている、“
The Clean Cities Campaign”は違います。都市のモビリティをゼロエミッションに移行させるのが目的です。対象はクルマ、排気ガスや温暖化ガスを減らして、より住みやすく、持続可能な都市にすることを目指しています。

“
Transport&Environment”という組織のヨーロッパ連合が主導して、さまざまな活動を行っています。中でも問題視するのはクルマです。化石燃料や温暖化ガスを排出しているクルマの削減を呼びかけています。これらのクルマは、都市の環境に大きな負荷を与えているからです。
何度か取り上げていますが、ヨーロッパの都市では大気汚染が深刻です。日本人は中国やインドなどを思い浮かべますが、実はヨーロッパでも大気汚染が深刻な問題となっています。窒素酸化物などの有害物質や、ディーゼル車が広く普及していることもあり、空気中の粒子状物質、PM2.5も問題となっています。
主にクルマを原因とする大気汚染で年間50万人も早死にしていると報告されています。PM2.5は、喘息や肺がんなど呼吸器系の疾患だけでなく、血液に入り込んで、心臓疾患などの循環器系の病気も引き起こし、多くの人の死因になっていると言います。無視できない問題です。

そして、温暖化ガスの排出もあります。こうしたクルマを使っていたら持続可能な都市交通は構築出来ません。クリーンな大気とゼロエミッション・モビリティのためのクリーン作戦、キャンペーンであり、街から排除してキレイにすべき対象はクルマだとしているのです。
さまざまな対策を打ち出していますが、その中には当然ながら自転車の活用があります。人々が自転車を活用できるようにするため、自転車インフラの整備を推進すべきとする立場です。安全で快適に自転車を使うインフラがあれば、人々は自転車を活用することで、クルマの利用を減らせます。
そのうち、ロンドンで展開されているキャンペーンは、少しユニークです。自転車レーンなどの走行空間整備だけではなく、自転車の適切な保管場所も必要だとしています。ロンドン全体に自転車の格納庫の設置を求める新たな流れを作り出そうとしています。

よくあるロンドンの住宅というと、上の写真や、その上の写真のような建物を思い浮かべると思います。特徴的なのは、道路に面していきなり扉があるところでしょうか。集合住宅や賃貸物件などでも同じです。伝統的な街並でもあるわけですが、日本とは構造が違っています。
日本の集合住宅だと、一階に駐車場や駐輪場があったりしますが、ロンドンの典型的な住宅には、自転車の置き場がないのです。全ての住宅がそうだとは言いませんが、自宅前に駐輪場や、自転車を置くスペースがなく、部屋の中に持って入るしかない人も少なくないのです。

もちろん、日本でもスポーツバイクに乗る人など、自転車を室内保管する人もいます。盗難防止や野ざらしで錆びるのを防ぎたい人もいます。でも、ここでは趣味のスポーツバイクでなく、通勤などで使う自転車を出来れば屋外の駐輪場などに置きたいのに、住宅の構造的にそれが難しい人も多いのです。
そのため、
苦労して自転車を保管している人の写真を募集しています。これを示すことで、いかに自転車の活用環境が悪いかをアピールする狙いがあるようです。廊下や居間、寝室だけでなく、バルコニーや窓の外に吊るしたり、バスルームやトイレなどに置いている人もいます。

実際に、ロンドンで盗難防止の機能を備えた自転車保管庫を契約したいとして順番待ちしている人のリストには、6万人以上登録されていると言います。“The Clean Cities Campaign”としては、これは困った状況であり、公共スペースの活用という点でまったく非効率、かつ不公平と考えています。
つまり、クルマの駐車スペースに比べて、圧倒的に自転車用の駐輪格納庫が少ないというのです。1人分のスペースを考えれば、クルマの駐車スペースをとるより、自転車の収納スペースを整備したほうが、よっぽど効率的であり、クリーンで排出ゼロの都市の実現のために貢献するというわけです。

ロンドンの地下鉄の駅などにも駐輪場のスペースは乏しいですが、市内なら職場まで直接行くので、さほど問題になりません。でも、自宅に駐輪する、安全に保管できるスペースがないのは、自転車を活用する上で問題です。なるほど、必要なのは自転車の走行空間だけではないわけです。
ロンドンをはじめ、ヨーロッパの都市では、人々が移動する方法を変えるべき、変える時が来たと指摘しています。人々の健康のため、きれいな空気を取り戻し、温暖化ガスを排出しない持続可能な都市にするため、排除すべきはクルマ、化石燃料車だと、主張は明確です。( ↓ 動画参照)
クルマが多すぎるため、渋滞は酷く、駐車スペースも都市の大きな部分を占有しています。これは都市の土地活用の面でも大きな無駄です。クルマを使うための道路や駐車場を、自転車レーンや駐輪場、人々がゆったりと歩くためのスペース、緑やくつろぎ、都市の憩いの場所に使うべきという主張です。
物流など、全てのクルマの排除は無理ですが、都市での自家用車は減らせます。不便になるのを嫌う人もあるでしょうが、これまで都市では、あまりにクルマ優先の整備が進められてきたのも確かであり、見直すべき時が来ていると主張しているのです。環境や持続可能性を考える上で真っ当な主張、少なくとも考えるべき課題でしょう。

日本で高度経済成長期に問題となった大気汚染は大きく改善されましたが、環境省は、窒素酸化物やPM2.5などは、依然として日本人の健康の脅威だと指摘しています。クルマは交通事故や渋滞の元凶でもあり、それによる経済損失も小さくありません。環境の観点からも、都市でのクルマの利用を考え直すべき時期だと思います。
日本では、環境のために自転車の活用が真剣に必要だとする議論になりません。都市のクリーンキャンペーンと言ったら、放置自転車の撤去・移送です。しかし、ヨーロッパの都市が主張するように、本当に減らすべきは、過剰すぎるクルマであり、車道や駐車スペースなどの空間なのではないでしょうか。

あまりにクルマ優先の都市構造になっています。もうそろそろ、モータリゼーションの時代から、人間本位で、安全で豊かに暮らせる都市を考える時代にシフトしてもいいはずです。目障りでクリーンにすべきは自転車ではなく、本当はクルマではないか、これまで当たり前のように思っていたことを疑ってみる必要があると思います。
◇ 日々の雑感 ◇
まん延防止等重点措置は解除されましたが、ウクライナ情勢、東北で地震、電力のひっ迫警報、原油高、北朝鮮のミサイル発射と懸念が増えています。落ち着かないですが、なるべくストレスをためないようにしたいものです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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