April 06, 2022

都市計画のお手本になる都市

ガソリン高が続いています。


もともと高くなっていた原油価格が、ロシアのウクライナ侵攻でさらに急騰したこともあって、原油高が世界を揺らしています。原油高は原材料費や輸送費などを通して、さまざまなものの価格に波及します。身近なガソリンの価格が毎週のように上がるのを実感している人は多いでしょう。

毎日、クルマで通勤する人にとっては頭の痛い問題です。ガソリンスタンドの価格表示が頻繁に替えられている国、地域は多いはずです。ノルウェーのオスロのガソリンスタンドも例外ではありません。ところが先日、思わず目を奪われるような看板が出ました。なんと、0クローネです。

GsGs

よく見ると、自転車は0クローネというアピールです。自転車マフィアと名乗る人が、ゲリラ的に置いたものです。ガソリン高の中、自転車に乗るという選択肢を示唆しているわけです。もしかしたら、ふだん乗らない人が、これを見てしばらく自転車に乗り換えようと考えたかも知れません。

これを見て、似たような看板を作る人も出ています。市民としては、ガソリン高をどうすることも出来ないわけですが、節約と高値への反発の気持ちをこめて、ガソリンを使うのをしばらくボイコットするのもアリでしょう。距離的に無理だと思っても、やってみると意外に自転車で代替できたりします。

GsGs

自転車は渋滞も関係ありませんし、都市部などでは下手をするとクルマより早く着きます。運動不足を解消し、健康増進にも寄与します。ガソリン代がかからないだけでなく、クルマと比べてイニシャルコストもランニングコストも比べ物にならないくらい安く済むので、乗り換える人も出てくるかも知れません

都市部の移動であれば、十分に交通手段として機能します。前回、ドイツのベルリンで、クルマを都市部から排除しようという活動について取り上げました。ヨーロッパの都市では、本気でクルマの使用をやめ、自転車にシフトしようと考えている街が増えています。

GroningenGroningen

多くの市民に自転車の活用を促すためには、自転車に乗りやすい都市にすることが求められます。ヨーロッパには、自転車レーンなどの自転車インフラの整った自転車先進都市がいくつもありますが、ベルリンが目指しているように、クルマの都市部への乗り入れを禁止して、徒歩と自転車の都市部にするのが理想的です。

そのお手本となるような都市がオランダにあります。自転車都市として名高い、Groningen(フローニンゲン)です。オランダ北部の商工業の中心都市で、紀元前4千年くらいから人が住んでいたと思われる古い街でもあります。自転車都市が多いオランダでも、特に自転車に乗る人が多い街です。

Photo by Rickazio,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

市民の多くはクルマを所有していません。クルマが不便な街であり、自転車のほうが圧倒的に便利だからです。通勤も買い物も、街の移動は全て自転車です。街がコンパクトということもあって、自転車で十分かつ便利に移動できます。この街に住むと自然と自転車好きになるようです。

軍事的な要衝、北の要塞都市として発展してきた歴史もあり、街が周辺部に拡大しませんでした。そのことがコンパクトシティになった背景にあります。学生が多い街ということもありますが、自転車の利用者は人口の50%とされ、とにかく自転車で走っている人が多いことに、初めての来訪者は衝撃を受けます。

GroningenGroningen

GroningenGroningen

中心部でクルマはほとんど走っておらず絶滅したかのようです。自転車しか入れない道路も多く、都市部の区域から区域へのクルマでの移動は禁止され、周辺部を通って大きく迂回する必要があるため、車道があってもクルマがあまり走っていない道路も少なくありません。クルマは不便だからです。

もちろん、クルマが走れないわけではありませんが、クルマのパーキングは周縁部に設置されていることが多く、イヤでもパーク&ライドを迫られます。クルマを利用したり、所有したりする意味がないと誰もが感じることになります。これは、都市計画として最初から考えて決められているのです。

GroningenGroningen

GroningenGroningen

都市計画として、クルマをなるべく排除するのは、人々が快適に暮らせる市街地を提供するためです。その中で自転車が魅力的な移動手段となっているわけです。最初は反対する人も多く、商売にもマイナスで街として立ち行かないと主張する人も多くいました。

しかし、計画を実施してみると、市民はうまく適応し、実にうまくいきました。1970年代の話です。クルマは使いづらくなりましたが、その代わり、住みやすくて静かな街が実現し、今では、これが当たり前になりました。当時の行政担当者は、かなり先見の明があったと言えるでしょう。

GroningenGroningen

人々の移動の50%は自転車です、中心部では60%に迫ります。市民は当たり前のように自転車を使うので、ガソリン代どころか電車賃もバス代も払う必要がありません。実に経済的であり、原油高になっても困る事はありません。一方で、自転車は必需品です。

当然ながら駐輪場もあちこちにあります。盗難を防ぎたい人向けに管理人のいる有料の駐車場もあります。他の街から電車などで来た人のために、シェア自転車も整備されています。通勤で最寄り駅まで自転車を使い、電車など公共交通を乗り継いで、着いた先で自転車に乗るわけです。

GroningenGroningen

電車を降りてバスなどを使うことも出来ますが、自転車ならば待つ必要もありません。自転車に乗れるならば、自転車のほうが、どこへ行くのも早く、借りるにしても便利で簡単です。市内の移動に自転車を選ぶ人が圧倒的に多いのも道理でしょう。サイクリストにとっては桃源郷です。

関係者は、本当の自転車都市をつくるなら、都市部の制限速度を30キロにするとか、ところどころに自転車レーンを整備するとか、中途半端ではダメだと言います。街ごと徹底的に自転車の街にすべきなのです。街のどこからでも、少し行けば高品質な自転車インフラにアクセスできることも重要です。

GroningenGroningen

フローニンゲンで市民は、幸せな気分で自転車で走れます。子供たちが安全に自転車に乗っているのを見るのも最高です。街の企業や雇用主は、自治体にそれぞれの自転車プランを提出する必要があります。例えば、自転車通勤者用にシャワーやロッカーを設置するとか、出来る範囲で構いません。

補助や手当を出すのも歓迎されます。自転車を使わない人に、なるべく自転車に乗るよう促したり、乗りたくなるような取り組みが求められます。商業施設などでは、自発的に巨大な駐輪場や独自の敷地内の自転車道を設置するところもあります。街を挙げて自転車推しなのです。

GroningenGroningen

市民は、例えばイケアに家具を買いに行くのも自転車です。大きな荷物はカーゴバイクを貸してくれます。引越などもたいていは自転車で済みます。市民は自転車に乗ることで、市民同士の交流があったり、コミュニケーションをとりやすいのもいいと感じています。すれ違っても表情が見えますし、声をかけられます。

フローニンゲンに来ると、多くの人が自転車に乗っていますが、街が静かなことに気づくと言います。いかに他の街はクルマの騒音が大きく、そのことに麻痺してしまっているか気づかされるのだそうです。自転車に乗ってもクルマがすぐそばをすり抜けることもないので、安全で事故もなく楽しく乗れるのも特徴です。

GroningenGroningen

自転車の街になったおかげで、生活が穏やかになり、街全体が魅力的になったと言います。自転車に乗るのが便利というだけではなく、市民は街が住みやすくなったと実感しています。静かで健康的で、他より楽しく気持ちのいい街だと市民は確信しています。

もはや、市民は自転車に乗ることについて考えることはありません。ほかの街の人が歩くのに足について考えないのと同じです。自転車は、もはや特に意識されることもないくらい身近で自然なものです。そして、自転車に乗るには世界で最高の街だと、日々実感しています。( ↓ 動画参照)



自転車の街は、原油高に強いだけがメリットではありません。自転車に乗らない人には、ピンと来ないかも知れませんが、住環境としても理想的な街だと思います。世界の多くの街のようにクルマ優先ではなく、人間が優先だからです。自転車先進都市と言うより、人間優先都市と言うべきかも知れません。

これは日本の人口減少や過疎化に悩む地方都市でも、コンパクトシティのモデルになりそうです。近年、日本でも観光振興の目的から「自転車の街」を名乗るところが増えていますが、考え方は大きく違います。住民にとって真に素敵な街を目指し、このくらい徹底してみる手もあるのではないでしょうか。




◇ 日々の雑感 ◇

ロシア軍の残忍な虐殺行為が次々と明らかになっています。これでは停戦が実現しても経済制裁は解除されず、経済的に苦しくなる一方です。指導部はロシアという国の将来を閉ざす行為をさせてしまったことになるでしょう。

このエントリーをはてなブックマークに追加

 デル株式会社


Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。



 楽天トラベル

この記事へのコメント
cycleroadさん,こんばんは.

未だにこの国では「自転車は歩道通行」を前提として,自転車は弱者らしくしろと言わんばかりの道路建設が続けられていることを嘆かわしく思っております.

都市交通ないし地域間交通に自転車を活用する気が当局者にあるなら,誰もが自信を持って「自転車が好きです」と言える環境造り,さらにスポーツとして子ども達に夢や希望を与えられる存在にしなければなりません.

小中学校で自転車利用を禁止されるような地域は到底「住みよい」とは言えませんね.



Posted by マイロネフ at April 08, 2022 21:00
マイロネフさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自転車が好きかどうかではなく、より良い都市環境、商業・居住環境が実現するかということだと思います。
つまり、非効率になる都市部ではクルマを排除することが重要です。その結果、徒歩や自転車が乗りやすい環境になるということでしょう。
もはや感覚が麻痺していますが、クルマが街を走りまわっていることで、人間は死の危険にさらされ、常に注意を強いられ、大気汚染にさらされ、騒音にさらされているわけです。
少なくとも都市部ではクルマを排除すれば、より人間らしい暮らしが実現するでしょう。間違ったクルマ優先を止め、人間優先にするべきとの考え方です。
クルマで危ないから自転車禁止というのは本末転倒です。徒歩や自転車でゆったり快適に移動できる環境にするため、クルマは明確に区分けをするということでしょう。
Posted by cycleroad at April 09, 2022 13:50
 
※全角800字を越える場合は2回以上に分けて下さい。(書込ボタンを押す前に念のためコピーを)