May 18, 2022

自転車都市がリードを広げる

オランダは言わずと知れた自転車王国です。


人口よりも多いと言われるほど自転車が普及し、市民は当たり前のように自転車で移動します。国内にいくつも自転車交通の先進的な都市がありますが、首都アムステルダムも、そのシンボル的な都市です。世界有数の自転車にフレンドリーで、自転車に乗るための環境が充実した都市なのは間違いありません。

歴史のある都市なので、必ずしも道路の幅に余裕がある場所ばかりではありません。でも、その中で自転車レーンや駐輪場などを充実させており、大勢の人が規律が保って走行しています。私も自転車で走ったことがありますが、とても自転車が便利で快適で、乗りやすい街です。

Amsterdam Bike CityAmsterdam Bike City

しかし、そんなアムステルダムも最初から自転車の街だったわけではありません。元々オランダはライン川下流の低湿地帯に広がっていて、国土が平坦で自転車に乗るのに適していたこともあり、比較的使われているほうでしたが、第二次大戦後はオランダでもモータリゼーションの波が押し寄せ、クルマが急速に普及しました。

ヨーロッパの他の国と同じように、オランダ国内の道路にもクルマがあふれ、自転車は隅に追いやられることになります。今のような自転車インフラは全く整っておらず、オランダでも交通事故による死者数が急増し、自転車に乗るのは非常に危険になりました。

Amsterdam Bike CityAmsterdam Bike City

日本では交通戦争と呼ばれましたが、オランダでも深刻な社会問題となりました。この状況に反発した市民が社会運動を起こすようになります。交通事故に加えて大気汚染や渋滞も酷くなり、オイルショックなども背景に、市民の強い要求を受けて、オランダ政府は自転車優先へと大きな方針の転換を図ることになります。

その後も何十年という期間を通し、いろいろな変遷や試行錯誤があって、今の交通手段として自転車を重視する国、自転車王国としてのオランダが出来上がりました。多くの子供の命、自転車に乗る人の命が奪われる時代を経て、政府や自治体が明確に自転車重視へ転換し、自転車王国へと変貌したのです。

Amsterdam Bike CityAmsterdam Bike City

何十年にもわたる、市民の活動によって、勝ち取ってきた環境と言うことも出来るでしょう。近年の環境意識も手伝って、さらに自転車環境を充実させてきました。今や、世界に冠たる自転車都市として、世界の都市のお手本になっています。ウェブサイトなどでも積極的にそのノウハウを公開しています。

日本のサイクリストから見れば、実に羨ましい環境なわけですが、オランダやアムステルダムがスゴイのは、世界的な自転車王国、自転車都市ということに満足していないことです。さらに、もっとより良い自転車都市を目指そうとしています。もうこれで十分と考えそうなものですが、そうではありません。

Amsterdam Bike CityAmsterdam Bike City

Amsterdam Bike City”は、アムステルダム市とアムステルダム運輸局によって設立されたプラットフォームです。地域の交通を監督する管理者、業界の専門家、学生、自転車運動家など、サイクリングに興味のある人のためのコミュニティ、知識共有の場として設置されました。

この“Amsterdam Bike City”の自転車イノベーションラボは、オープンコンテストを実施しています。アムステルダムで自転車の安全性をさらに向上させるためのソリューションを募集するコンテストです。今回のメインのテーマは、『自転車の速度の違い』です。

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近年の電動アシストや、e-bike の普及で走行速度が上がっています。また、ネット通販やフードデリバリーの普及で、カーゴバイクなども増えています。もちろん、高齢者と若年者との脚力の違いからくるスピードの差もあるでしょう。これらいろいろなタイプや速度の自転車の混在に対して、安全のための改革案を求めています。

パンデミックで乗る人が増えた影響もあったのかも知れませんが、オランダでは2020年に229人が自転車事故で命を落としました。これは2019年より24人多くなっています。このうち32%が電動の自転車に乗っており、75%弱が60歳以上でした。こうした状況を受けたメインテーマでもあります。

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革新的なアイディアがあれば、誰でも応募できます。最初は匿名で審査されるので、ビジネス関係者でも学生でもスタートアップでも、素人でも関係ありません。アイディア本位で選ばれる仕組みです。サイトを見ると多くのアイディアが寄せられています。( ↓ 動画参照)

例えば、シンプルなものだと、コミュニケーション用の小さなサウンドベルを導入するというものがあります。通常のベルだと、どけ!と言われているようで、下手をするとケンカになりかねません。鳴らしてもトラブルにならないような音色で接近を知らせるなど、お互いのコミュニケーションをとろうというものです。



潜在的な危険を検出するセンサーを取り付けるという案、自転車レーンを低速と高速に分けるという案、速度差がある場合に自動で減速させるブレーキを取り付ける案、ビッグデータ解析で速度差を視覚化する案、スマホアプリからの振動で速度差を警告する案もあります。

速いサイクリストは主要道路を使い、そうでない人は別の道路を使う案、高齢者が希望する距離をとってもらうためライトで表示する案、スピードの速い人に空いている迂回ルートの選択を促し報酬を与える案、混雑して危険な状態を検知して自動で制限速度を変え標識に表示する案、速度制御機能のあるラバーを敷く案もあります。

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そのほかにも、実にさまざまなアイディアが寄せられています。このコンテストで優勝した人には、2千ユーロが贈られます。さらに4万5千ユーロの予算で、アイディアの検証や発展させる機会が与えられます。アムステルダム市と市の交通局は、当然ながら実施を前提としてアイディアを募集しているのです。

日本では、往々にして自転車にふだん乗らないような人が自転車インフラの整備計画を進めます。これによって、なぜこうなったのか首をかしげるようなレーンが出来たりします。乗る人のことを考えたら、こうはならないだろうという事例がネットなどでも散見されます。

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一方でアムステルダムの自転車政策部局の関係者は、当然のように、普段の生活で自転車を使っていますし、利用者目線から整備計画を立てます。しかし、それでも自分たちが気づかないようなことを広く募集して、それを実現させようと考えているわけです。謙虚な姿勢とも言えます。

今でも十分に自転車走行環境は充実していますが、それに満足していません。さらに安全性を高めよう、もっと良く改良していこうとの意欲があります。何十年もかかって改善してきた取り組みは依然として継続しています。さすがアムステルダム、さすがオランダという気がします。

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日本との違い、その差は大きいと言わざるを得ません。日本の自転車環境は貧弱なばかりか、利用者目線も乏しいのは確かでしょう。予算も少ないわけですが、せめてサイクリストの意見を取り入れれば、限られた予算でも、より効果的な整備ができるのではないでしょうか。

日本の自治体の関係者は、自転車王国オランダ、自転車先進都市アムステルダムを見習おうとすら考えていないでしょう。市民に広く意見を求めることも期待出来ません。自転車乗りとしては、アムステルダムに少しでも近づいてほしいですが、とんでもない、ますます離されていくだけかも知れません。




◇ 日々の雑感 ◇

関東はずっと雨の日が続いており久しぶりの晴れとなっています。出来れば週末も晴れを期待したいところです。

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