
ロシアによるウクライナ侵攻から100日が過ぎました。
この間の戦況については、日本を含む世界に向けて報じられています。湾岸戦争の時も、テレビがリアルタイムに中継映像を流し、初めて世界が目撃する戦争と言われました。ウクライナ戦争では、さらにスマホやSNSによって、戦場やその近い場所での、よりリアルで人間の目線からの映像も届いています。
現代の戦争が目の前で展開している感があります。サイバー攻撃やドローンなどの無人兵器、SNSによる発信で世界の世論に訴える情報戦など、新しい面もたくさんありますが、相変わらず戦車やりゅう弾砲が対峙し、砲兵や狙撃兵が最前線で戦うような、前世紀と同じスタイルの戦争が展開されているのも事実です。

軍事に疎い一般市民が聞いたこともなかった武器、例えば、対戦車ミサイル・ジャベリンが正確に敵の戦車を撃破する映像などが流れます。他にも、スティンガーとかバンカーバスター、スイッチブレード、キンジャール、ネプチューン、ハープーンなど、さまざまな兵器が登場しています。
それらと比べて、あまり報じられることはありませんが、実はこの戦争では自転車も使われています。電動の自転車、e-bike です。ウクライナの兵士が移動するのに、電動の自転車が使われているのです。見た目はオフロードバイクかマウンテンバイクのような、e-bike です。

これに、それこそ対戦車ミサイル・ジャベリンをくくりつけるなどし、最前線への移動に使っています。ウクライナの戦費が足りないから自転車で代用しているわけではありません。電動自転車であることによるメリットも多く、あえて電動自転車が選ばれています。
当然ながら、徒歩で移動するより高い機動力が発揮できます。舗装道路でない、林の中の狭い獣道のようなところでも移動できます。オートバイと違って、大きな音を出さないため、静かに移動できるのもメリットで、敵に見つかる可能性が小さくなります。

さらに、オートバイのように熱を出さないため、熱を探知するドローンなどの追尾攻撃を受けにくい利点もあります。熱画像や赤外線システムによって発見される確率も下がります。小型・軽量で小回りがきくため、電動自転車ならではのミッションも可能にすると言います。
前線の拠点から、敵の最新の位置情報を受けて、素早く移動し、対戦車ミサイルを発射したり、砲撃したりします。ロシア側も攻撃を受ければ、位置を確かめて砲弾で反撃してくるわけですが、その前にすぐに移動して被弾を防ぐという戦い方が有効なのだそうです。( ↓ 動画参照)
事実、侵攻当初、首都キーウ近郊には林間地帯も多かったため、進軍するロシアの戦車や戦闘車両を撃破するのに大いに貢献したと言われています。静かで素早く、戦闘員単位で移動するために、まさに持ってこいなわけで、電動自転車が使われるのも納得です。
そのほか、偵察任務にも向いています。ロシアの将官クラスが多数狙撃されているのもニュースになっていますが、この狙撃手の移動にも使われています。地雷除去や、医療物資の配布など、いろいろな任務に使われ、実は重要な役割を果たしていることになります。

ウクライナの西部、テルノーピリにある、
ELEEK 社などによって製造され、軍に提供されているものが多いようです。同社は民間の会社で、戦争が始まってショックを受けましたが、すぐに自分たちが出来ることを理解しました。最初は数台しか軍に手渡せませんでしたが、すぐにミリタリーバージョンの量産を開始したのです。
実は自転車は、昔から戦争で使われてきました。第一次世界大戦と第二次世界大戦では、すべての国の軍隊で広く使用されたとされています。もちろん、必ずしも自転車が向いている任務ばかりではありません。しかし、軍隊が使うのは、戦車や装甲車だけではないのです。

スイス軍の自転車部隊が有名ですが、ドイツやフランスなど各国の部隊で使われています。旧日本軍も例外ではありません。日中戦争では5万人の自転車部隊を動員したとされていますし、太平洋戦争でも、マレー半島攻略作戦で自転車での部隊移動が功を奏したと言われています。
どこの国の軍隊でも、空挺部隊と言えば精鋭中の精鋭です。前線をはるかに超えて、敵の後方にパラシュート降下して戦ったりするわけですが、その空挺部隊の移動用にも自転車が使われる場合があります。アメリカ軍で正式採用されている軍用自転車、PARATROOPER などが有名です。( ↓ 下の写真)

アメリカ国防総省高等研究計画局(通称DARPA)と言うと、最先端の科学技術を使ったハイテク兵器とか、無人攻撃兵器を開発しているイメージがありますが、今でも軍用の自転車を開発しています。さすがに近年は電動自転車ということになりますが、ステルス機能の高い戦場用の自転車などが開発されています。
一般的な感覚からすると、GPSによる精密誘導兵器とか、AI搭載の無人攻撃機など最先端技術が使われるのが現代戦だと思います。しかし、昔も今も自転車でこそ実現できるミッションがあるわけです。ウクライナで電動自転車が使われるのも当然ということになるのでしょう。

もちろん、平和であるのが一番であり、戦争で使う自転車を礼賛したいのではありません。戦争など無ければいいに決まっています。ただ、ここで書いたのは、ウクライナ軍はあらゆる手段を使い、さまざまな方策を用いてロシア軍と戦い、善戦しているという事実です。
内戦やゲリラ戦ならともかく、21世紀に入って国同士の侵略戦争が起きるとは思わなかったと言う軍事専門家は少なくありません。事実、第二次世界大戦の終結以後に、国際的に承認された国家が、外国からの侵略により地図から消えたことは一度もありません。専門家ですら意外な侵攻だったわけです。

先日のダボス会議では、アメリカのキッシンジャー元国務長官が、自国領土を割譲してでもロシアとの和平交渉の道を探るべきだと提言しました。今年99歳の歴史上の人物と言うべき人が、今また登場したことにも驚きますが、一刻も早い和平、停戦を探るべきだとする考え方はわかります。
しかし、これにウクライナのゼレンスキー大統領が猛反発し、「キッシンジャー氏のカレンダーは2022年ではなく1938年のままであり、ダボスではなく当時のミュンヘンの聴衆に向け話をしていると考えているようだ。」と指摘したのも当然で、割譲される領土に住む国民のことを考えていないという主張も、その通りでしょう。

1938年にイギリス、フランス、イタリアとドイツはミュンヘンで協定を締結し、ナチスドイツのヒトラーにさらなる領土拡張を断念させるため、当時のチェコスロバキアの領土を与えることにしました。それが結果として、どのようなことになったかは歴史が証明しています。
プーチン大統領はウクライナをネオナチだとし、ロシア人に対するジェノサイド(集団殺害)が起きているなどと侵攻の理由に掲げています。しかしプーチン氏が主張する非ナチ化こそ、むしろナチズムのように、一方的に侵攻し、無差別に一般市民を虐殺しているのも確かでしょう。

もし、領土を割譲して停戦したとしても、ジョージアなど今までの例を見ても、大ロシア主義にとりつかれたプーチン氏が、それで止まるとは到底思えません。ゼレンスキー大統領が主張するように、領土を割譲したことが、いずれ更なる侵略を招くに違いありません。クリミア半島の時と同じです。
下手に譲歩して停戦しようものなら、今より確実に悪い未来が待っているとのコンセンサスが国民にあるのでしょう。国際社会に対しても平気で嘘をつき、人道回廊を設置したとして標的にし、学校でも病院でも攻撃し、戦争犯罪もお構いなしのプーチン氏が信用できないのは当然です。( ↓ 動画参照)
世界では、権威主義の台頭により、民主主義の国のほうが少数派になっています。もしこのロシアによるウクライナ侵略が成功すれば、冷戦後の世界秩序は崩壊し、多くの国がプーチンを模倣することになりかねません。このような征服、版図の拡大を夢見る独裁者は大勢います。もちろん、その中には中国も含まれます。
民主主義国は軍事費を増大させる必要に迫られ、福祉や教育その他にかけられる予算は減ります。ナショナリズムも高まり、紛争が頻発し、食料危機も顕在化し、分断された世界になります。気候変動対策など、世界で協力するどころではなくなります。世界中の人が不幸になり、その将来が脅かされることになるでしょう。

それくらいの分水嶺、歴史的に重要な局面にあると多くの識者が指摘しています。日本の著名人にも早く降伏して人命を救えと言う人がいます。しかし、それは当事者が決めることであり、日本が敗戦した時とは相手が違います。いま事実上の独裁者に屈服するのは、ウクライナだけでなく、世界の将来に禍根を残すと思います。
◇ 日々の雑感 ◇
今日午前には北朝鮮が8発もの弾道ミサイルを発射しました。こんな国が近くにあることも憂慮すべき事実です。