公共の仕事として幅広い分野をカバーしていますが、警察や消防・救急なども自治体の役割です。国によって仕組みが違うこともありますが、国と地方自治体の自治警察、自治体消防が役割を分担しています。警察は各都道府県警察(東京都だけ呼び方は警視庁)ですし、消防は東京消防庁とか、横浜市消防局といった具合です。
多くの自治体では、財政に余裕があるわけではないので、予算の中でやり繰りを迫られます。しかし警察や消防の予算は、減らすと治安や市民生活の安心に直結するので、削減は簡単なことではありません。人件費を減らす、すなわち人員を減らすのも、仕事の性質上難しい部分があるでしょう。
海外も事情は似たり寄ったりです。例えばアメリカ・ニューヨークであれば、ニューヨーク市警やニューヨーク市消防局といった組織ですが、都会を管轄しているからと言って、潤沢な予算に恵まれているわけではありません。実際に警察官によるストライキが起きることもあります。
人員は簡単に増やせないので、限られた人員で多くの業務をこなさなくてはなりません。そこで最近は、IT技術なども活用し、仕事の効率化を工夫することになります。例えば、近年はスマホを持つ人が大多数です。SNSなども普及しており、これを利用しない手はありません。
例えば、ニューヨーク市内では、バスやトラックの駐車時のアイドリングは禁止されています。ディーゼルエンジンからの排出物は、喘息や呼吸器系の疾患、心血管障害などの健康問題の原因になるからです。しかし、その取締りに警察官を割くのは困難です。
巡回中に見つければ、あるいは取り締まることも出来るでしょうが、他の交通違反や頻発する犯罪にも対応しなくてはなりません。そこで導入されたのが、市民による「
空気苦情プログラム」です。市民はアイドリングしているトラックなどを目撃したら、オンラインで通報できるようになっています。
一般の場所では3分以上、学校に隣接している場所では1分以上だと違反になります。電話での苦情も受け付けていますが、呼吸器系の疾患があるなど、よほど意識している人でないと、忙しいのにいちいち通報しないでしょう。そうした人は限られるでしょうし、すぐに出動して取締りに間に合うとは限りません。
そこでオンラインで簡単に通報できるようにしました。乗用車と公共の車両、および軍の車両は適用外ですが、バスやトラックがアイドリングしたまま駐停車していたら、それをビデオで撮影し、ナンバーなどがわかるようにして苦情を申し立てることが出来ます。これなら証拠を確保した上で、後から検挙できます。
これでも、必ずしも効果があるとは限りません。いちいちビデオを撮って通報しているほどヒマじゃないという人は多いに違いありません。そこで、ニューヨーク市環境保護局は、市民の通報に対して金銭的な報酬を支払うことにしました。その金額は、違反者の支払う罰金の25%です。
初めての違反に対する罰金は350ドルなので、25%は87.5ドルです。1ドル135円なら1万2千円弱であり、通報のモチベーションとしては十分でしょう。罰金は再犯の場合、さらに高くなります。市民の中には、何万ドルも稼いだ人がいると言います。
市当局としても、通報を受けて検挙できれば違反者に罰金を課すことが出来ます。報奨金はそこから支払うので、費用が持ち出しになることはありません。摘発の人件費を市民に対して、出来高払いで支払うような形で、専任の捜査員を増やす必要もなく、リーズナブルと言えます。
これなら、バスやトラックの運転手の違反を止めさせる効果も期待出来るでしょう。ただ、アメリカです。スマホで3分以上も撮影していたら、運転手に気づかれ、逆ギレされ、ナイフで刺されたりする可能性も否定できません。そうした場合の被害に対して、市当局は責任を負いません。バレないように録画する必要があります。
市民が市民を密告するようなスタイルなので、なかなか日本にはそぐわないかも知れません。アメリカならではのドライさ、合理的な考え方と言えるでしょう。しかし、そうした部分を除けば、予算を増やすことなく、取締りを強化でき、環境を保護し、市民の健康を守れるのですから、賢い方法と言えるかも知れません。
この方法を参考にしたのが、
テキサス州オースティン市議会です。市内の自転車レーンの上に違法駐車しているクルマを排除し、
サイクリストの通行と安全を確保するプログラムを先日、満場一致で承認しました。市内でクルマが自転車レーンの通行を妨害しているのを発見したら、録画して通報できるシステムです。
通報の報奨金は、やはり違反の罰金の25%です。市は自転車レーンの整備のために数百万ドルを費やしていますが、違法駐車のクルマにブロックされるのが常態化しています。一部の違反者のために、サイクリストの利便性や安全性だけでなく、市の交通行政を損ね、せっかくのインフラ整備を無駄にしているのです。
違う形で行政の経費を効率的に使おうとしているところもあります。
フィンランドのヘルシンキです。自転車レーンや自転車専用道などのインフラの損傷の修復や維持のための経費を、なるべく抑える方法を導入し、来月の10日から実施することにしました。
自転車インフラは整備するだけでなく維持していかなければなりません。舗装が剥がれたり、穴があいたり、表示などが消えたりすることもあります。それをなるべく素早く把握し、修復するのも自治体の仕事です。しかし、これにも経費がかかります。
修復が必要な個所を探すだけでも、人手がかかります。限られた人員で市内全てのインフラをチェックしてまわるには、一定の期間もかかります。なかなか損傷が修復されない状態が続きかねません。業者に委託すれば、かなりの予算を確保する必要に迫られます。
そこで、市民に損傷個所を見つけてもらうことにしました。オンラインで情報を収集する自治体は他にもありますが、市民の報告を待っているだけでは必要な損傷個所の把握は難しいでしょう。報告してくれる人もいるかも知れませんが、市民の善意に期待するだけでは運に任せるようなものです。
そこで、同国のスタートアップ、
Crowdsorsa 社と強力して、スマホアプリを使ったゲームを導入することにしました。アプリは無料で誰でもダウンロードでき、ゲームに参加できます。地図上に表示されるコインや果物がある場所を自転車で通り、レーンを動画で撮影してアップします。いわゆる位置情報ゲームです。
コインは0.05ユーロ、ブルーベリーは0.25ユーロ、イチゴは2ユーロなどと決まっており、オブジェクトをゲットする、すなわちそこを通って動画をアップすると現金を稼ぐことが出来るのです。平均すると、1キロ走行するごとに、約2ユーロ稼げると言いますから、相応の金額になります。( ↓ 動画参照)
市はアップロードされた画像をAIで画像分析し、修復が必要な箇所を特定します。懸賞金を支払うわけですが、従来の方法によって人件費や委託費をかけてデータを収集するよりも、ずっと効率的に短い期間で、経費も抑えることが出来るという仕組みです。
“
Crowdchupa”というアプリで市民がゲーム感覚で参加できます。市は調査費用を節減できて、市民はお小遣い稼ぎが出来ます。それだけでなく、参加する市民の健康増進にもなります。一石三鳥というわけです。これも、なかなか賢い方法と言えるでしょう。
同じ方法は、
イギリスのグロスターシャーでも導入され、一足先に今月2日からイベントとして先行して開催されています。地元のサイクリストにしてみれば、どうせ走るならば、これに参加したぶん得をするわけですから、一定の参加者は見込めるはずです。
海外の自治体では、業務の執行に関していろいろ工夫し始めています。日本にはそぐわないものもあるでしょうし、そもそも自転車インフラが乏しい、自転車レーンの修繕維持予算をとっていないなど、比べるのには無理がありますが、行政経費の賢い節減という考え方は取り入れてもいいのではないでしょうか。
◇ 日々の雑感 ◇
アメリカ航空宇宙局(NASA)が未確認飛行物体(UFO)に関する研究チームをこの秋に設置するそうです。UFOが必ずしも地球外のものだとは思いませんが、これだけ目撃例があるのも確かで、何なのかは知りたいところです。