June 29, 2022

飛び越えた自転車の街の将来

山美亜という国があります。


ドイツを独逸と書いたり、オランダを和蘭陀と書いたりするのと同じ当て字ですが、山美亜は、ザンビアです。アフリカ大陸の南部に位置する内陸国家で、首都はルサカ、イギリス連邦の加盟国でもあります。日本人には、あまり馴染みのない国かも知れません。

アフリカには民族紛争や内戦の絶えない国もありますが、ザンビアは世界平和度指数ランキングで163か国中の48位であり、アフリカで最も平和な国の一つとされています。ジンバブエとの国境に世界三大瀑布の一つ、ヴィクトリアの滝があることでも知られます。

ChipataChipata

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ザンビア経済の主力は鉱業で、食料自給率が150%を上回るというアフリカでは希少な農業大国でもあります。さて、そんなザンビアの東部州の州都に、チパタ(Chipata)という街があります。あまり聞きなれませんが、ザンビア第5の都市で、人口は約12万人です。

実はチパタ市民は、このチバタを親しみを込めて、アフリカのアムステルダムと呼んでいます。チパタには空港もあり、鉄道の通っていてクルマも走っていますが、アフリカの田舎町であり、庶民の移動や輸送手段の中心は自転車です。毎日、何千台という自転車が市内を走りまわっています。

ChipataChipata

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もちろん、アムステルダムの景色とは似ていませんが、市民がみな自転車で移動する点は一緒です。ただ、オランダのように、モータリゼーションでクルマの溢れる時代を経て自転車の街になったわけではありません。燃料費が不要で安価な交通手段として自転車に頼らざるを得なかった人が多かったのが実際のところです。

また、ここでの自転車は、経済的な自立を獲得する手段でもあります。ここの若者の多くは自転車を手に入れ、それでタクシーの営業をします。ヨーロッパのようなベロタクシーではなく、普通の自転車の荷台に乗せます。市内には多くの自転車タクシーが走っており、市民からここを訪れたビジネス客まで移動手段にしています。

ChipataChipata

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運賃は安いですが、貴重な現金収入であり、彼らが家族を養い、子どもを学校に通わせるのに十分な収入源となります。営業的には、いかに荷台に、いいクッションを載せるかが稼ぎを左右するそうです。舗装路ばかりではないので、乗り心地に大きく関わるわけです。

チパタで事業をする外国人は、現地で荷物や食料品、その他の資材の運搬にも、彼らを雇います。輸送手段としても大きな存在です。使う方にとっても便利で安価なので、自転車輸送が重宝されているのです。競争原理が働くので、価格設定がリーズナブルになるという背景もあるようです。

ChipataChipata

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自転車によって、多くの雇用が創出されている一方、チパタの青少年はみな、自転車で稼ぐために教育を放棄する傾向があります。学校へ行くより、手っ取り早く稼ぎたいとなるのでしょう。この点は市の将来的な発展にはマイナスであると懸念されています。

チパタの人々にとって自転車は、娯楽やスポーツでもあります。例えば、ふだん使っているタクシー用の自転車で“Chova”と呼ばれるレースをします。このレースがある日は街中で盛り上がり、タクシーや運搬をする人が減ってしまうので、ビジネスにも影響するほどだと言います。

ChipataChipata

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ザンビア政府も、この“Chova”を支援しており、子どもや青少年の育成やスポーツ文化の発展の基礎にしたいと考えています。レースが、青少年を飲酒や薬物や賭博、売春などの非行、非生産的な活動から遠ざけていることを評価しており、スポーツ振興には大きな意義があると感じているのです。

スポーツの中で自転車が選ばれるのも、チパタでは自転車がさまざまな点で大きな存在感を占めているため、当然の流れなのでしょう。同国のスポーツ大臣は、“Choova Bicycle Race”を将来、ツールドフランスに比肩するような国際的なイベントに育てる夢を公言しています。



文字通り、市民生活や市の経済を支える存在となっている一方で、チパタ市長が自転車税の導入を表明するなど、政治的な問題にもなっています。いろいろな面で、「自転車都市」であり、景色は全く違いますが、アムステルダム顔負けの自転車の街というわけです。

アフリカでは、固定電話が普及する前に携帯電話が普及し、先進国が辿ってきたような発展順序を飛び越える現象、いわゆるリープフロッグ現象が見られます。チパタの自転車も、モータリゼーションを飛び越えて自転車の街になったのが、世界の一般的な自転車都市とは違っています。

ChipataChipata

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チパタにはクルマが他の街と比べて少ないため、市民はクルマによる交通事故死傷者が少なく、空気がきれいなのも気に入っています。しかし、今後チパタが経済成長し、豊かになってクルマが持てるようになった時、自転車の街のままでいられるのか、やはりクルマの街になってしまうのかが興味深いところです。










◇ 日々の雑感 ◇

関東では節電の呼びかけが継続しています。梅雨も明けて暑さも厳しく、いつになったら解除されるのでしょうか。

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