もちろん、何の部活にも所属せず、いわゆる帰宅部だった人もいると思いますが、野球やサッカー、バスケなどのスポーツや、ブラスバンドとか将棋など、文科系の部活に打ち込んだのが、青春の思い出となっていると懐かしむ人も多いに違いありません。
最近は、教員の負担が問題となり、長時間労働を防ぐために地域移行にする改革などが話題になっています。たたでさえ、たくさんの仕事を抱えて忙しい教師に、休日まで出勤させるのは酷と言えば酷でしょう。一方で、教師以外の指導者を雇えば、保護者の負担が増えかねません。
では、部活を無くせばいいかと言えば、そうとも限りません。学校での勉強以外の課外の活動として、共通の趣味や関心を持つ仲間が集まるグループに、任意で所属して活動するというのは貴重な経験です。年齢の違う先輩後輩とのコミュニケーションも含め、団体行動の経験は、当人の成長にも直結するに違いありません。

やってみたかったスポーツなどを始めるきっかけにもなります。中には将来の職業につながる生徒もいるでしょう。中学生や高校生が時間とエネルギーを持て余し、非行に走ったり、繁華街のたまり場等へ出かけて、犯罪に巻き込まれたりすることを防ぐことにもなるでしょう。
日本では、学校の課外活動としての部活がほとんどだと思いますが、諸外国では学校単位ではなく、地域のクラブチームなどに所属する例が多くなっています。欧米などでは、プロ選手を輩出するような有名なクラブチームをはじめ、受け入れる団体が各地にいろいろあります。

それは、スポーツクラブとは限りません。アメリカ・アリゾナ州の州都フェニックスには、放課後の活動としてティーンエイジャーを受け入れる自転車店があります。その名も、“
Phoenix Bikes”です。非営利団体で、青少年教育プログラムとフルサービスの自転車のプロショップ、および小売店を兼ねるお店です。
ここでは学生が、自転車の基本的な整備を学びます。自転車のABC、すなわちエアー、ブレーキ、チェーンといった基本的な項目から始まり、自分で修理やメンテナンスが出来るようになっていきます。自転車を分解したり、パーツを組み上げて完成させるスキルも学べます。

いわば自転車部ですが、単なる自転車好きだけが集まるわけではありません。アリゾナ州では、16歳半からクルマの免許がとれ、親からクルマを与えられている生徒がいないわけではありませんが、多くの学生にとって、現実的な移動手段は自転車ということになるでしょう。
その修理やメンテナンスを学べるのは、学生にとって実用的です。それだけではありません。自分の自転車を購入する資金がない学生は、技術を習得した後に、作業して組み立てた自転車を、無料で持ち帰ることが出来るようになっています。盗んだりせずに、合法的に無料で自転車を手に入れる手段でもあるわけです。

アメリカでは、クラブ活動として地域のスポーツクラブに所属する場合、シーズンごとに違う部活動に所属することも多いと言います。“
Phoenix Bikes”も12週単位で所属でき、同じシーズンを他のスポーツクラブと同時に所属して活動することもできます。女子学生もいます。
技術を習得すると共に、廃品や中古、寄付された自転車のパーツを組み合わせ、自分の欲しかったバイクに作り上げて手に入れる生徒もいます。一方で、興味を深め、さらに高度なテクニックを学ぶために、次のシーズンに進む生徒もいます。趣味でもいいし、将来の進路など実益を目指してもいいわけです。

年間を通じて、数百人の若者が集まります。“Phoenix Bikes”の活動は人気があり、最初は誘われて乗り気でなかった人が夢中になったり、自転車を手に入れるのが目的だった人が、さらに高い技術習得を目指すこともあります。一日中、学校で座学ばかりなので、早く来たくて仕方ないと話す生徒も多いそうです。
自転車好きという共通点を持つ、学校外の同じ世代の友だちが出来ることも大きな魅力でしょう。もちろん、自転車が趣味という人ばかりではなく、他のスポーツと両立させている人も少なくないわけですが、自転車の整備や組み立ては、彼らにとって身近で、挑戦しがいのあるテーマと感じるようです。

そして、自分が無料で自転車を手に入れられるだけではありません。自分たちが修理した自転車は、難民など困っている人にプレゼントされます。ボランティアとして店頭に立つこともあります。こうした活動に喜びを感じ、地域のためにもなっていることを誇りに感じるようになる生徒も少なくありません。
フェニックスの学生の中にも、いろいろな人がいます。人気スポーツが苦手な人もいるでしょう。手先が器用で職人的な活動が性に合う人もいると思います。学校で周囲の生徒と上手くいかず、仲の良い友達ができずに孤立しているような生徒に、居場所を提供する形になっていることもあるようです。

技術習得だけではありません。休日に部員同士でグループライドを楽しんだり、ジュニアレースに挑戦することもあります。ショップでの作業に忙殺されることなく、トレイルや地元の道路に繰り出すことも多いのです。それは、法規や正しいライディングエチケットを学ぶことにもなっています。
まさに、自転車の力を利用して、若者がコミュニティで情熱や目的、場所を築くのを支援するのが、この“Phoenix Bikes”のミッションです。非営利団体として地域から寄付金や不要になった自転車の寄贈を受ける一方で、再生した自転車を困っている人に提供するなどの社会奉仕活動にも力を入れています。

ショップとして中古の自転車を再生して販売したり、市民にメンテナンスサービスを提供しています。地域で自転車を必要としている人が、この店で買ってくれるお陰で、学生へのプログラムを提供することが出来ます。ボランティアで学生への指導をかって出る人もいます。地域でのイベントなども開催しています。
なかなか有意義な団体と言えるでしょう。もちろん、このような「部活」が、すぐそのまま日本で出来るとは限りません。しかし、少子化などで困難な地域も増える中、これまで通りの学校ごとの部活にこだわらず、地域を巻き込んだり、従来のスタイルに囚われない部活を模索してもいいような気がします。
◇ 日々の雑感 ◇
先週起きた安倍晋三元首相が銃撃されて死去した事件は衝撃的でした。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
Posted by cycleroad at 13:00│
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