一般的には移動やスポーツの手段、娯楽や趣味の対象ですが、ビジネスや商売のための運搬などに使う人もいます。直接的に、自転車の製造や販売に携わる人もあるでしょうし、世界的に取引されますから、輸入や流通に関わる人もいます。自転車には産業としての面もあります。
コロナ禍で自転車の利用が伸び、物流の混乱などもあって、世界的な自転車の品不足が起きています。アメリカの自転車メーカー、
Guardian Bikes 社は自転車の生産を中国に依存している状態を見直し、アメリカ国内、インディアナ州・シーモアに工場を建設すると発表しています。

アメリカでは、例えば年間およそ1100万台の子供用自転車が購入されます。その96%、1050万台は中国からの輸入です。エネルギーやハイテク製品など戦略物資ほどには問題になりませんが、生活必需品である人もいて、この中国依存のサプライチェーンは脆弱で持続可能ではありません。
人件費の違いからアメリカ国内の生産は必ずしも最適とは言えませんが、高度に自動化した工場として設計することで、コストを下げる計画です。Guardian Bikes 社は、中国の格安で粗悪な自転車が流入するのも好ましくないことであり、子どものためにも高い品質と安全性の高い商品を展開したいと考えています。
日本の自転車市場では、格安粗悪な中国製ママチャリが席捲していますが、EUは以前から、自転車の品質と安全性の問題から中国からの輸入を問題視しており、同国の自転車に対しては高率の関税を課しています。アメリカでも、今回の品不足、サプライチェーン見直しの観点だけでなく、安全性にも視線が向いているようです。
昨今は交通渋滞、環境問題、市民の健康などの観点から自転車の活用を推進する都市が増えています。自転車に乗る市民も増えています。行政による自転車レーンなどの整備は交通事故を減らし、市民にとって安全になることでもあるので、歓迎すべき傾向と言えるでしょう。

ただ、中にはビジネスの立場から、自転車レーンの整備に反対する人たちもいます。整備される自転車レーン沿道の商店主たちです。以前から、自転車レーンが整備されるとクルマが停めにくくなるため、売り上げが落ちるという見方がありました。明確な根拠はなく、都市伝説みたいなものでしょうか。
最近でも、アメリカ・マサチューセッツ州のケンブリッジ市だとか、ニュージーランドの首都ウェリントンなどでは自転車レーンの整備計画に反対運動が起きています。ウェリントンでは法廷への提訴にまで至っています。地元の商店主たちにとっては死活問題となりかねないので、問題視するのは理解できます。
公的なインフラですから、出来てしまってから撤去を求めるのは困難と思われます。自転車インフラの商業施設への影響については、場所によって条件なども違うでしょうから、一概に断定することは出来ません。ただ、ほとんどはクルマでくる顧客が困るという想定が反対する根拠となっています。

沿道の事業主が駐車スペースを失うことに不安を募らせるのは理解できます。しかし、これまでに自転車レーンが整備された地域の、整備前と比較した
詳細な学術的調査によれば、ほとんどのケースで、中立から肯定的な結果が見られることを報告しています。
つまり、影響が無いか、むしろいい影響があったと結論づけています。例えば、カナダのトロント市のある商店街では、136のパーキングスペースが撤去されて自転車レーンとなりましたが、経済的な悪影響は見られませんでした。それどころか、各店舗の売り上げも来店客数も増加しました。
北米の調査だけでなく、
ヨーロッパの調査でも同様の結論が出ています。自転車インフラと、路上の駐車スペースならば、地元の商店主や事業主は、必ずクルマの駐車スペースを支持すると言います。ビジネスをしている人たちの直感なのでしょう。しかし、事実はこれに反します。
どの調査を見ても、自転車レーンを整備した後のほうが売り上げも顧客数も増えるという結果が出ています。多くの商店主は、クルマで来る顧客の割合を過大に評価しているのが原因と見られます。つまり、それほどクルマで来る客は多くないということです。
商店街でのショッピングはローカルであり、遠くからクルマで買い物に来る人は多くないのです。駐車スペースにクルマがたくさん止まっていたとしても、それは近隣への用事などもあり、買い物客とは限りません。また、実際の商店街の商圏は考えるよりも狭く、クルマが止めにくくなることの影響は小さいということです。
顧客の大半は商店街から1キロ以内に居住しており、商店主たちは、顧客の移動を大きく誤解していると指摘しています。むしろ自転車レーンが出来たことで、来店回数が増えたり、少し離れた人が来るようになったり、違う場所を通っていた人をレーンが呼び寄せたりした結果、売り上げが上がることになるのでしょう。

場所によって特殊な条件などがあるかも知れませんので全部そうだとは言いませんが、ほとんどのケースで自転車レーンが出来ると、地域のビジネスにはプラスということになるようです。つまり、ビジネス面から考えても、もっと地域への自転車レーンの整備を支持すべきということになります。
自転車がビジネスにもいいのは、都市部だけとは限りません。アメリカ・アーカンソー州の
ベントンビルは20年前、無名の田舎町でした。それが今では、世界のマウンテンバイクの首都と呼ばれるくらい知られるようになりました。ちなみに、世界最大のスーパーマーケットチェーン、ウォルマートの発祥の地でもあります。


“
Slaughter Pen”“
Bella Vista”など有名なトレイルのネットワークが何百マイルにも渡って続いており、MTB愛好者にとっては天国のような場所です。ビジネスとしてアーカンソー州北西部の経済成長に、自転車が大きな貢献をしたのは誰もが認めるところです。
2017年の調査によれば、この地域に年間1億3700万ドルの経済的利益をもたらしました。関連を含む経済効果という意味では、もっと大きいのは間違いありません。地域によっては、自転車はビジネスとして大きな役割を果たしているということになります。


ベントンビルだけではありません。ノースカロライナ州のチェロキーの“
Fire Mountain Trails”なども地域経済に大きく貢献しています。地域の人だけでなく、周辺からもトレイル客を多く引き寄せており、その土地の地形や特徴を活かした開発として、他の地域の参考になるでしょう。

限られた場所の特典ではありません。それだけの国の大きさ、人口があるわけですから、同じような施設やトレイルコースを設置することで、経済波及効果を見込める場所は、まだまだあるはずです。スキー場や海水浴場だと地形や気象条件等で限られますが、MTBはそれほど場所を選びません。まだまだ設置する余地はあるはずです。
実際にミシガン州・シーブウィングという村では先々月、村議会に
トレイルコースの設置提案が出されました。提出したのは、Bentley Bumhoffer 君という、なんと11歳の子供です。提出された計画図も、見たかぎり子どもの描く絵にしか見えません。
11歳の子供が遊び場が欲しかっただけと言われればそれまでですが、彼は自分の地元に専用のトレイルコースがないのを疑問に思ったのです。計画案を見ると、それなりに考えられています。村議会はこの提案を受け入れて協議を始めることにしました。

( ↓ 動画参照)
製造や販売だけが自転車ビジネスではありません。街の自転車レーンや郊外のトレイルコースがお客を引き寄せたり、MTBパークといった施設が大きな経済効果を生むこともあります。自転車は近所への足やレクリエーションだけではありません。もっとビジネスや経済面での秘められたポテンシャルに注目すべきかも知れません。
◇ 日々の雑感 ◇
安倍晋三元総理の国葬の是非が論じられています。根拠となる法律がなく、沖縄返還を果たしノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作元総理でも国葬ではなかったと聞くと、たしかに国民葬でいい気もします。非業の死を遂げた事のショックや一時の感情での拙速な決定は、かえって議論を招き故人への反感や禍根を残すような気がします。