September 21, 2022

新しい自転車が生まれる場所

南アフリカ共和国最大の都市はヨハネスブルグです。


同国の首都ではありませんが、北東部に位置するハウテン州の州都で、都市圏人口1050万人を擁しています。そのヨハネスブルグ郊外に、ソウェトという地区があります。アパルトヘイト政策によって迫害されたアフリカ系住民の象徴的な地区として知られています。

かつては黒人専用の居住区、最大のタウンシップだったこともあり、トタン屋根のバラックが立ち並ぶなど、白人との経済格差が色濃く残っていました。ただ、最近は観光地化してきたこともあって治安も改善してきており、新しい南アフリカを反映するような地区となっています。

Photo by ign11,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.Photo by Andras Osvat,under the GNU Free License.

さて、そのソウェトが発祥と言われるカルチャーとして、一部の人がクルマをスピンさせて楽しむというものがあります。いわゆるドリフト走行のように後輪を横滑りさせながら、クルマをその場で回転させるものです。使うクルマは、南アフリカでも生産されているBMWです。

現地では“Gusheshe”というスラングで呼ばれる、BMW325iSなどが使われ、地元の若者がスピンさせたりテクニックを披露します。同乗者がパフォーマンスを決めたりするのも含めて、集まった見物客が楽しんでいます。一部では熱狂的な人気があるようです。





ソウェトでは、より若い少年たちにとって憧れの的になっています。ただ彼らは、クルマを運転したり所有するには若すぎます。そこで少年たちは、自転車を使って同様のことを始めました。普通の自転車では難しいので、独特の改造をしています。

ヨハネスブルグ在住のアメリカ人で、ライター・写真家・ブロガーでもある、Heather Mason さんの“2Summers”というブログに、そのことが詳しく書かれています。彼女は最近、ソウェトに出かけた時に、彼らの独特の改造自転車を目撃しました。

in Sowetoin Soweto

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フレームを何台分かつなげて溶接し、非常に長いホイールベースとなっているのが特徴です。サドルは無いのが普通です。なぜなら、なるべく重心を前にするため、身体をハンドル側に極端に傾けて乗るため不要なのです。これによって、後輪への荷重が小さくなり、横滑りしやすくなります。

さらに、後輪のタイヤにはペットボトルを切ったものを取り付け、摩擦力を低く、滑りやすくしています。こうすることによって、自転車をその場でスピンさせやすくするわけです。多くはタイヤが小さく、車高が低くなっているのも特徴です。バランス的な部分もあるのでしょう。

in Sowetoin Soweto

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前に身体が傾き過ぎて、転倒しそうに見えるほどです。知らない人が見たら、何をやっているのかと訝しがると思いますが、これが彼らにとって『クール』なのです。回転するのが楽しいというより、周囲に集まってくる観客や友人たちに向けて見せびらかしたり、ワザをアピールするのが楽しいのでしょう。

独特のムーブメントです。しかし、見方によっては新しい自転車の楽しみ方であり、彼らにとって、一種のスポーツであるのかも知れません。おそらく、BMWに乗るまでの「つなぎ」なのでしょうけど、彼らにとっては、これが今楽しいに違いありません。





すでにトレンドとして、南アフリカの他の町にも広がっています。それどころか、なんとインドでも同じような自転車で楽しんでいる若者たちが既にいます。電飾を取り付けたりしていますが、やたらにホイールベースが長く、サドルにまたがるのではなく、前方に身を投げ出すように乗るスタイルは一緒です。

ソウェトだけの流行りではなくなり、遠くインドにまで飛び火しているようです。キレイに色を塗ったりしていますが、やはり手作りです。このムーブメントが広がっていくならば、新しいタイプの自転車として、どこかのメーカーが量産して販売するようになる可能性だって否定できないでしょう。





これまでにも新しい自転車を生み出してきた人たちがいました。例えば、自転車メーカーやビルダーといった自転車製造に携わる人達です。自転車を使いやすくしたり、特定の用途向けに便利にしたり、レースに勝つためにデザインしたりなど、広い意味で、自転車の改良に工夫をこらしてきた関係者は少なくないでしょう。

ただ、それだけではありません。例えば、1970年代初期にアメリカ・カリフォルニア州の子供たちが、大人達のオートバイで競うモトクロスにあこがれて、自分たちが乗れる自転車、20インチのクルーザーバイクを使って競技のマネ事をしたことから誕生したのが、BMXとされています。

in Sowetoin Soweto

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マウンテンバイクも、今は広く乗られていますが、元々は1970年代後半、やはりアメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のマリン郡で、ヒッピーと呼ばれた人達がビーチクルーザーや実用車などに太いタイヤをつけて急勾配の山を下り、タイムを競った遊びが始まりと言われています。

最近はネットでも、アメリカで人気のあるチョッパーハンドル型の自転車が売られたりしています。姿勢が前傾にならず、空気抵抗的には不利ですが、これもチョッパーと呼ばれる、フロントフォークを極端に伸ばしたスタイルのオートバイにあこがれた子どもたちの間の人気から生まれたのでしょう。

in Sowetoin Soweto

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それまでの自転車の常識とは違ったり、必ずしも合理的とは思えないタイプの自転車も生まれているわけですが、これは単に実用性や効率を追求していては出てこないものでしょう。子供たちの遊びとか、大人のすることへの憧れといった部分が、新たな自転車のタイプを生むこともあるわけです。

そう考えれば、このソウェト発祥のスピンバイク (スピニングバイクだと別の意味になってしまう。) が、新しいカテゴリーの自転車となり、世界的な流行になったり、それこそ五輪の新種目にならないとも限りません。もしかしたら、私たちは新しい自転車競技の誕生を目にしているのかも知れません。




◇ 日々の雑感 ◇

ウクライナ南東部でのロシア編入の是非を問う住民投票、マクロン大統領は悲劇的というよりパロディと批判しています。国際社会は認ないでしょうが、これはロシアが軍事的苦境に陥りつつあることを示しているのでしょうか。

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