自転車レーンや自転車専用道など、自転車の走行空間としてのインフラは当然重要ですが、自転車は常に走行しているわけではありません。目的地に着いた場合に駐輪する場所も必要です。駅や公共施設、人が集まる商業施設などには、駐輪場の設置が求められます。
ふだん、人々が意識してなかったとしても、駐輪場はインフラとして必要なものです。自転車で出かけても駐輪出来なければ困ってしまいます。イギリスのイングランド東部にある、Norwich 市では、今月9日から21日まで市庁舎やその近隣エリアの
駐輪ラックが使えなくなり、SNS上などで物議を醸しました。
8日に亡くなったエリザベス女王の服喪期間だったからですが、女王が亡くなられたスコットランドのバルモラル城、一時安置されたエジンバラ、国葬が行われたロンドンのウェストミンスター寺院、葬られたウィンザー城とは全く地理的に関係ありません。ご遺体の運ばれた経路ですらないのに、という疑問があったようです。
市民に喪に服する気持ちがないわけではありません。しかし、2週間近く閉鎖し、その間に駐輪されたら撤去するとの告知が貼り出されたことに戸惑いもあったようです。一部、献花台などの近くという事情もあったようですが、とくに警備上の理由があるわけでもなく、市の対応に疑問や反発の声が上がりました。
これが日本であれば、話題にもならなかったかも知れません。駐輪ラックが使えなくても、どこかに置いておけばいいと考えると思います。しかし、イギリスでは、駐輪ラックに固定できないと盗難を防げません。SNSで炎上したのは、駐輪ラックが日常的に必要とされる自転車インフラであることを示しています。
日本でも、商業施設の駐輪場などに有料の駐輪ラックが設置されていることがあります。とめて一定時間なら無料の場合も多いようです。しかし、多くは駐輪ラックなどは無く、せいぜい白線でボックスが描かれ、その中にとめるようになった場所が多いのではないでしょうか。(下の左はオランダ・アムステルダム中央駅の駐輪場)
日本の自転車は、ママチャリが圧倒的多数を占めているため、ほとんどにスタンドがついています。そして馬蹄錠などのカギが一般的です。ラックなどがなくてもスタンドで自立しますし、固定物にチェーンなどで施錠するニーズがほとんど無いからなのでしょう。
スポーツバイクでスタンドがついていなかったり、固定物につなげて駐輪したい人は日本では、ごくごく少数派です。このあたりの事情も欧米とは違うわけですが、駐輪ラックなどのインフラが少ないのも、日本特有のママチャリが標準になっていることから来る、一種の弊害と言えるかも知れません。
駐輪ラックなどの無い歩道にとめるため、乱雑になりがちです。上の左の写真では、きれいに整列されていますが、これは駐輪指導員が並べ直したものと思われます。右は欧米の駐輪場です。分かりづらいですが、よく見るとUの字を逆にした形の駐輪ポストが一定の間隔で設けられており、それに沿ってとめられています。
欧米の都市では、駐輪場以外にも、建物の外壁や敷地内などの駐輪スペースに駐輪ポストやラックが用意されている場所が少なくありません。ポールやラックに施錠できるのは、自転車利用者のニーズに沿ったインフラであると同時に、それに沿って駐輪されるぶん、乱雑に置かれないのもメリットと言えるでしょう。
逆に言うと日本では、駅前のスペースや歩道上にポールやラックなどが設置されていないため、また固定物に施錠しないため、乱雑になりがちです。通行の邪魔になったり、美観を損なうと感じられたりして、放置自転車として撤去・移送されるということになるのでしょう。
ママチャリが必ずしも駐輪ラックなどを必要としないため、その整備が進まないということもあるのでしょう。結果として駐輪スペースでない場所だったとしても無造作に置かれてしまいます。下手にラックなどに施錠されないほうが、撤去・移送しやすいという事情があるのかも知れません。
欧米では自転車インフラとして、独立した駐輪場が整備されている都市は多いですが、そうでなくても道端のちょっとしたスペースに駐輪ラックが置かれて、自転車利用者の利便性を高めていたりします。構築物に固定して施錠できるので、安心して自転車がとめられます。厄介な将棋倒しも起きません。
近年は環境負荷の面からも、自転車での移動を奨励する都市が増えています。自転車レーンなどの走行空間ももちろんですが、駐輪スペースというインフラ整備も欠かせません。街が走りやすくて、駐輪しやすいということが、自転車の活用につながります。
例えば、写真は
スウェーデンの、Nola 社の製品ですが、ロケーションに応じて設置できるよう、さまざまなポールやラックが用意されています。駐輪ポストや、道路の仕切りに使うようなポールでも、チェーンなどで施錠できるようなデザインになっています。
ちなみに、同社の製品には
バイカーズレストと呼ばれる製品もあります。これは、信号待ちをするサイクリストが、地面に足を着かないで済むようにしたフットレストです。これが、信号のある交差点などに設置されていたら、ありがたいと感じるバイカーは多いと思います。
ママチャリだと、べったり足の裏が地面に着くスタイルで乗っている人がほとんどでしょう。しかし、スポーツバイクの場合は、サドルを上げ、ペダリングしやすい高さで乗ります。そのため、停止する時はサドルから降りるような形で、いったん地面に足を着かなければなりません。
しかし、このバイカーズレストが設置されていれば、サドルにまたがったまま信号を待てるというわけです。手で持つハンドル部分もあります。親切な構造物ですが、これも自転車利用を快適にする、インフラの一種と言えるかも知れません。
駐輪スタンドには、屋根が取り付けられたものもあります。別のメーカーのものですが、デンマークにある駐輪スタンドには、頑丈そうで、緩やかな曲線の優美な屋根が取り付けられています。実はこれ、風力発電のタービンの羽根を再利用したものです。
風力発電のタービンブレードは、ガラス繊維やガラス強化ポリマーなどの素材でできています。これまで埋め立てるか焼却処分されていましたが、切断して駐輪スタンドの屋根として利用しているのです。廃棄物や焼却による温暖化ガスを減らし、省資源にもなる工夫です。
素材が強度と耐久性に優れていることに加え、羽根ならでの優美な流線形は、風の抵抗を小さくする効果もあります。以前、大阪を襲った台風の被害で、駐輪スタンドの屋根が柱ごと飛ばされて舞い上がる映像を見たことがありますが、この屋根なら強風にも強そうです。
オランダの、Apeldoorn 市の図書館にある駐輪ラックには、半円形の板が2枚取り付けられています。これは跳ね上げ式で、サドルが濡れないようにするためのものです。シャレているだけでなく、これも自転車王国ならではのユーザーへの思いやりと言えるでしょう。
日本では馬蹄錠とスタンド付きのママチャリがスタンダードとなっているがゆえの状況、すなわち駐輪スタンドやラックが必要とされず、駐輪インフラが乏しい面があります。それがどこでも勝手な場所に乱雑に駐輪される背景となり、結果として撤去・移送のいたちごっこになっています。
日本では環境面から自転車の活用を進めようという機運が高まらず、自転車インフラの整備も遅々として進まないわけですが、駐輪インフラは、放置自転車の撤去移送による税金の垂れ流しを止める点でも意味があります。その面からも、駐輪インフラを増やすことを考えるべきではないでしょうか。
◇ 日々の雑感 ◇
岸田政権の支持率が急落しています。国葬や旧統一教会の問題等の影響でしょうが、総理は丁寧な説明と繰り返すだけ、同じことを何度も言うのを丁寧な説明とは言いません。国民の理解を得るような釈明をすべきでしょう。
Posted by cycleroad at 13:00│
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