人類は少なくとも4百万年前には直立二足歩行をしていたことが化石などから明らかになっています。専門家によれば、人類が直立二足歩行を始めたわけではなく、直立二足歩行をしたからこそ人類になったと言います。それほど、人類にとって重要な要素です。
直立したため両手を使うことが可能になり、道具を使えるようになったこと、それが脳の発達を促しても重い脳を支えられるようになったこと、言語を使うようになったこと、全て直立二足歩行をするようになったからこその進化だというのです。二足歩行が先にあって、類人猿から人類へと進化したというわけです。
樹上生活から大地に降りた時、なぜ直立二足歩行をするようになったかには諸説あります。肉食獣に襲われる危険があったため、少しでも遠くを見る必要があったとか、猿のような中腰よりも多く、重い食べ物が運べたからとか、おそらくそれら複合で直立二足歩行をするようになったのでしょう。
骨格の変化で、人類は出産に難儀したり、腰痛に悩まされるようになったなどデメリットもありますが、重い脳を支えられるようになり、声帯や気道の構造変化で発声できる音の種類が広がって言語につながり、前足が自由になって道具の使用や投擲が出来るようになったなど、人類として決定的なメリットを得ました。

それくらい直立二足歩行は人類にとって重要なことであり、4百万年、一説には7百万年前から、そのほとんどの年月を歩いてきたことになります。歩くことと人間の身体には密接な関係にあることも容易に想像がつきます。少なくとも、歩くことが身体に悪いという話は聞いたことがありません。
歩くことの健康効果を指摘する専門家は大勢います。肥満の防止、生活習慣病の予防、骨を強くする、高血圧を防ぐ、心血管疾患のリスクの低減、腸内環境を整える、不眠を防ぐ、姿勢が良くなる、腰痛や肩こりの軽減、抗酸化作用やアンチエイジングにつながるなど、多くのメリットが指摘されています。
ストレスの解消や、うつ病の抑止・改善になるなど、精神面での健康にも貢献するとされます。脳の働きを良くするという効果も指摘されます。昔から、哲学者や作家、音楽家などが歩き回りながら考えた、着想を得たなどの話を聞きます。実際に悩んだ時など、歩くと考えがまとまると感じる人もあるのではないでしょうか。
いずれにしても、歩くことが身体やメンタルの健康にいいのは間違いないでしょう。ウォーキングによって、病気の9割は防げると言う医者もいますし、歩かない人と比べて年間の医療費が約15万円安かったという調査もあります。寿命が長くなるという海外の研究もありますし、今も人間が歩くことによるメリットは明らかです。

ただ、交通手段の発達などによって、現代人が歩く距離は減っています。コロナのテレワークで通勤が減ったぶん、更に減っているかも知れません。ちなみに、1日に1万歩歩くことを目標にしている人もいますが、江戸時代の庶民は平均して3万歩歩いていたそうです。特に先進国では共通の健康上の懸念となっています。
これは働く世代に限りません。高齢者にとっても健康増進は重要な課題です。医療や介護費用の増大につながりますし、個々人にとっても出来れば健康で長生きしたいのは当然です。高齢者も積極的にウォーキングなどを取り入れることで健康増進、健康寿命を延ばせる可能性があります。
一方で、高齢になるほど歩く力が衰えるのが問題です。個人差はありますが、一般的に年をとるほど足腰が弱ります。骨が弱くなったり、筋肉が衰えたり、関節などの機能が落ちます。無理に歩こうとすれば故障につながったり、段差などで転倒して骨折したのが原因で寝たきりになるケースも多いと言います。
歩行がしづらくなれば、外出頻度が減り、余計に全身の筋力の低下や運動不足につながります。人付き合いの減少に伴って、意欲の低下やメンタル面にも影響します。いわゆるロコモティブシンドロームとならないためには、なるべく歩行能力の低下を防ぐことが重要となります。

カギになるのは、
歩行効率です。一般的に
高齢になるに従い歩行効率が低下します。機能的な問題もありますが、同じ距離を歩くのに必要なエネルギー量が増えてしまうのです。このことにより、どうしても歩行速度が低下し、歩幅が狭くなり、両足での支持が長くなり、腕振りが減少し、歩行の不安定性が増すと言われています。
平たく言えば、歩くのが大変になるわけです。そうなると疲れますし、どうしても身体活動が減り、筋力や筋肉量の低下、有酸素能力の低下につながります。ケガや足腰の故障、痛みなどにつながれば、それがさらに歩行効率を下げる悪循環です。つまり歩きたくても歩けない状態になっていくことが問題となるわけです。
高齢になれば、あるいは加齢に伴って、歩行効率が落ちるのは避けられないと考えられます。当然ながら個人差もあるはずですが、その低下割合と生活習慣や生活空間、またそもそもの歩行能力などと、どのような関係にあるのかは、よくわかっていませんでした。

ところが、最近の研究で、歩行効率をあまり下げないですむ方法が明らかになりました。アメリカの
南カリフォルニア大学、フンボルト州立大学、トゥーロ大学などの研究者による報告で、“
Journal of Aging and Physical Activity”という科学誌に発表されました。
その方法とは、自転車です。自転車自体が健康にいいことは、これまでにも多くの研究で明らかになっています。このブログでも多々取り上げましたし、その健康上のメリットは多くの専門家も認めています。しかし、歩行効率を衰えさせないという点でも、自転車が有効だとわかったのです。
研究方法の詳細やエビデンスは、
リンク先を参照していただくとして、自転車に乗る高齢者の歩行効率の低下割合が、自転車に乗らない人よりも大幅に低かったのです。ペダルをこぐ能力、自転車に乗る能力ではありません。歩行の効率と関係しているというのです。

週3回、少なくとも30分自転車に乗る65歳以上の高齢者は、ウォーキングをしている人と比べても、歩行効率の低下が、有意に少ないことが明らかになりました。歩く能力を維持するためには、歩くよりも自転車に乗るほうが効果的ということになります。
通勤や移動などでの自転車の利用でもいいのですが、運動のため、運動を意識して自転車に乗っている高齢者の歩行効率の場合、20代の成人と同様だった例も確認されています。65歳以上になっても、20代と同じくらいの歩行効率が保てているということになります。
20代の若者と同じとは驚くべき結果です。たしかに、自転車に颯爽と乗っている高齢者が、自転車を降りてもスタスタ歩いていたりします。ではありますが、自転車に乗っていることが、歩くことにもいい影響を及ぼしているとは思いませんでした。もちろん、健康長寿につながっているのは言うまでもありません。

その理由、仕組みはまだよくわかっていません。しかし、研究者は人間の細胞の中のミトコンドリアに答えがあるのではないかと考えています。生物学的な理由はともかく、自転車に乗る高齢者は、自転車によって健康になるだけでなく、活発に歩けることでも長生きできるということになります。
例えば、駅まで行くのに自転車を使うと、そのぶんラクになるので歩いたほうが運動になると考えている人もいるでしょう。歩くより自転車のほうがエネルギー効率がいいので、そう考えるのは正しそうに思えますが、自転車に乗ったほうが、歩行効率が良くなる、歩行に必要なエネルギーが増えなくなるのです。
人類は文明の発展でクルマなどを使うようになり、特に直近の100年くらいで急速に歩く距離が減りました。でも、自転車については、必ずしも歩くことのメリットを減らすものではないことになります。特に年齢を重ねる中で、いつまでも歩くために、自転車は役に立つようです。
◇ 日々の雑感 ◇
ロシアの反戦市民グループがロシア国内の主要な線路を破壊し犯行声明を出しています。こうした犯行は既に6件となり、いよいよプーチン大統領への不支持、反戦の世論、民心の離反が広がりつつあるのかも知れません。
Posted by cycleroad at 13:00│
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