November 23, 2022

市民の要望はEV化ではない

COP27が閉幕しました。


前回もCOP27について取り上げ、移動についての温暖化対策という話になると、どうしてもEV化の話になり、いつまでに化石燃料車の販売を禁止にするか、といった話ばかりが聞こえてくると書きました。各国の産業政策もあって、温暖化の実際の効果より政治的な意図が前面に出てくる点は否めません。

しかし、ヨーロッパでは実効性のある温暖化対策として、EVよりもカーフリーをという声が大きくなっています。EVに買い替えさせるのではなく、なぜクルマを減らして、自転車や公共交通にシフトしないのかという抗議活動も増えています。都市部への自家用車の乗り入れを抑制すべきとの主張です。

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温暖化対策だけでなく、交通安全を主張する団体なども、自転車の活用推進と安全、そのためのインフラ整備、都市部でのクルマの利用の制限などを求めて、デモを行っています。ドイツでは、有名な高速道路、アウトバーンを占拠し自転車で行進するデモ活動まで出現しました。

ドイツの首都ベルリンでは、市内にクルマのは入れない大規模な制限地域を制定しようとしています。このイニシアチブをとる、AutoFrei Berlin という団体は、署名活動から住民投票を経て、88平方キロメートルという地球上で最大のカーフリーエリアを実現しようとしています。

HessenHessen

温暖化対策だけでなく、なぜこんなにクルマが優先されなければならないのかという根本的な疑問があります。渋滞をひきおこし、地価の高い都市部に違法駐車し、経済的に無駄なばかりではなく、歩行者やサイクリストを死傷させている現状はおかしいと主張しています。同様の主張は欧州各国で広がっています。

こうした市民の意見を受けて、ヨーロッパ各国は自転車の活用推進を打ち出しています。COP27のような国際会議では、どうしてもEV化や化石燃料車の廃止という議論になりがちですが、EV化ではなく、クルマ使用を減らしての自転車の利用推進を打ち出さずには理解が得られにくくなっていることを十分に認識しているのでしょう。

フランスBruges

7 億トン7 億トン

ベルギーのブルージュでは、自転車に乗る人々の安全を高めるため、市内の制限速度を30キロに引き下げました。ゾーン30などと呼ばれ、この規制自体はヨーロッパでは珍しくないのですが、ブルージュでは、さらに市内中心部でクルマは自転車を追い越してはいけないという規則まで制定しました。

つまり、自転車が時速20キロで走っていたら、それよりも遅い速度で走る必要があるのです。日本では考えられない話ですが、クルマは自転車の速度にあわせ、その後について走らなければならないことになります。自転車に優しい環境づくりの一環です。都市部では自転車が優先ということを明確に打ち出しているのです。

This image is in the public domain.Pedal Power

ブルージュについては、多少特別な部分もあります。中世の街並や石畳の道が残り、あまりスピードを出すような街ではありません。私も以前、自転車でブルージュの街を走ったことがありますが、規則がなくてもクルマは、それほどスピードは出さずに走っており、自転車追い越し禁止が可能な街と言えます。

ただ、この規制はブルージュに限らず、アントワープやルクセンブルグなどにも波及しつつあるようで、都市部では、徒歩や自転車を優先にすべきとの意識が広がっています。温暖化対策としてもクルマの利用を減らし、都市部への流入は抑制しようという方向性です。

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フランス政府は、自転車利用の拡大を推進するため、約2億5000万ユーロを拠出して補助金を創設しました。これは、ガソリン車を下取りに出して、電動自転車を購入した人に、1台あたり4千ユーロを支給するというものです。直接的に自転車への乗り換えを促進しようとしているのです。

これは、オランダ、ドイツ、デンマークといった自転車先進国に追いつくためには、より思い切った方策が必要だと当局が判断したからと報じられています。パリなどの都市にも、自転車レーンなどの整備を意欲的に進めていますし、クルマから自転車への転換を進めています。

CO2€4,000

イギリスでも、自転車の利用を促しています。実はイギリスで、通勤などの市民の毎日行う移動の50%は、3.2キロ未満です。十分に自転車で代替できます。もちろん、全てとは言いませんが、代替可能な移動を自転車にするだけで、全体では大きな効果を生みます。

世界中で一日の自転車での移動は、わずか5%に過ぎません。世界の人々がオランダ並みに自転車に乗れば、世界の炭素排出量は7億トン近く減少します。しかも、市民の健康面に大きな利益をもたらします。自転車で通勤する人は、がんになるリスクが45%低下し、心血管疾患のリスクが46%低下するとされています。

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イギリス政府に加え、スコットランドやウェールズ、北アイルランドなども、自転車利用を広げるために、Pedal Power や、CYCLING UK といったNPOに資金を提供し、いかに自転車が気候変動への取り組みとして効果があるかといった啓発を行っています。インフラ整備だけでなく、実際に乗ってもらわなければ意味がないからです。

ヨーロッパ各国は、さまざまな形でクルマの利用を抑制し、自転車の利用を推進すべく動いています。実は日本政府も環境に優しい自転車社会を目指すなどと打ち出しています。しかし、相変わらずクルマ優先であり、自転車の交通ルール無視や、交通事故などの問題に隠れ、気候変動などという視点は、ほとんど話題になりません。

国土交通省国土交通省

気候変動対策と言わないまでも、これだけ自転車に乗る人が多いのに、都市ではクルマが優先され、自転車の走行環境は貧弱で、事故で多くの命が失われています。私たちもヨーロッパのように、政府に都市部のクルマ優先を転換し、歩行者や自転車の安全重視、そのための環境整備を強く要望していくべきではないでしょうか。




◇ 日々の雑感 ◇

いよいよ日本の初戦、ドイツ戦です。簡単なことではありませんが、何とか勝ち点1をあげてもらいたいものです。

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この記事へのコメント
cycleroadさん,こんばんは.

以前にも1回触れたかと思いますが,今回の貴記事で取り上げられたヨーロッパ各国のように日本で自転車の効率的な活用策が進まないのは,彼の諸国と比べ降水量が多いことや,夏は高温多湿という日本の気候風土の影響も否定はできないと思います.

せっかく自転車専用レーンを整備しても1年の内約半分程が雨や雪で使えないとなると,それに対する市民の理解や支持を得るのはやはり難しいと感じます.実際に当地長野でもせっかくの自転車レーンが雪捨て場に利用される事もありますし.

年間の気温や降水量の比較データがどこかにあれば,それに応じた対策の立て方も出てきそうに思えるのですが.
Posted by マイロネフ at November 23, 2022 20:34
cycleroad様こんにちは

ブルージュの自転車への追い越し禁止のお話しについて、日本国内でも交差点付近は本来同様の規制がかかっているようです。
恥ずかしながら以前警察官から、交差点付近は追い越し・追い抜き禁止なので発信直後の速度の遅いクルマを自転車が追い抜く事は違反になる旨指摘を受けた事が有ります。
上記を厳格に運用するのであれば交差点付近に自転車が居る場合、クルマは交差点付近の範囲を外れるまでその自転車を追い抜けない事になります。
実行した場合、巻き込み事故は無くなるでしょうが、自転車の多い場所では渋滞が酷いことになりそうですね。
Posted by ta_iso at November 24, 2022 10:51
マイロネフさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
たしかに日本の降水量は多いですが、雨でも気にせず乗る国もありますし、冬でもレーンの雪かきを徹底して一年中自転車通勤をするような国もあります。
日本人は、極端に濡れるのを嫌う民族と言われています。雨が降れば、徒歩でもあまり傘をささない国もあって、外側が濡れるのは仕方ないと考える国もあります。
データを比較したとしても、それだけではなく、国民性や考え方の違いも大きいと思います。
Posted by cycleroad at November 26, 2022 14:04
ta_isoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
道交法30条の規定でしょうか?
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(追越しを禁止する場所)
第三十条 車両は、道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、他の車両(軽車両を除く。)を追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない。
一 道路のまがりかど附近、上り坂の頂上附近又は勾こう配の急な下り坂
二 トンネル(車両通行帯の設けられた道路以外の道路の部分に限る。)
三 交差点(当該車両が第三十六条第二項に規定する優先道路を通行している場合における当該優先道路にある交差点を除く。)、踏切、横断歩道又は自転車横断帯及びこれらの手前の側端から前に三十メートル以内の部分
--------------
この条項ならば、軽車両を除くとありますので、自転車がクルマを追い越すのは禁止ですが、クルマが自転車を追い越せないわけではないと思います。

ブルージュの規制は、ニュースなどを見る限り、例え自転車を先頭にして渋滞になろうが、自転車を追い越してはいけないという話のようです。

他のヨーロッパの国でも、ゾーン30規制の市街に入ると極端にスピードを落とします。私は現地でクルマを運転していて、気づかずに前車に追突しそうになったことは1度や2度ではありません(笑)。
つまり都市部では、本当に徐行して、歩行者や自転車を優先するという思想なのです。大都市でない限り、30キロ規制の区間は、やがて通り抜けるので、渋滞気味になることはあっても、その間はそういうものだと思って走っているのでしょう。
Posted by cycleroad at November 26, 2022 14:26
cycleroad様こんにちは

ご教授ありがとうございます。
これだと自転車は追い越せないけれど、他の車両は自転車を追い越せる感じですね、口頭で指摘を受けただけできちんと調べていませんでした。

私は海外へ行った経験は無いのですが、きちんと速度規制が機能している地域というのは羨ましいですね、私が済む地域では自動車は、制限速度より早く走るのが当たり前です、走行速度の60キロが70キロになったところで信号次第で大して到着時間は変わらないと思うのですが・・・
ヨーロッパに定着している思想が積み重ねた文化なのか、罰則によって実現されたものか分かりませんが、しかるべき方々は参考にして欲しいものです。
Posted by ta_iso at November 28, 2022 14:41
ta_isoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
いえいえ、ご教授だなんて。それはないような気がして調べてみただけです。
例えばオランダのような今は自転車王国でも、1970年代くらいのモータリゼーションの頃にはクルマによる自転車の死傷者が増えて大きな社会問題になっていたそうです。
それをいろいろな努力により半世紀かけて改善してきたということなのでしょう。
市民の成熟度という点でも日本より先行していると思います。日本はクルマの邪魔にならないよう自転車を歩道走行にしてしまったという致命的な失敗もあり、クルマは道路での王様のように勘違いさせ、スピードを出して我が物顔、交通弱者保護の意識が乏しいといった点で、半世紀は遅れていると思います。
文化的にも、日本と違って自転車を子供や主婦の乗り物と見下すような風潮がなく、ロードレースがサッカーと並ぶくらい人気なこともあって好意的で、環境負荷の少ない有益な都市交通の手段として認識されていることも背景にある気がします。
日本のように、自転車が車道を走るなんて邪魔だとドライバーが驕ることなく、車道で共存するのが当たり前という常識から、スピードを落とす、弱者優先が根付いているということのようです。
Posted by cycleroad at November 29, 2022 14:01
 
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