December 02, 2022

すぐ出来る温暖化対策がある

温暖化対策は世界的な課題です。


地球規模で解決しなければならないのですから、先進国から新興国、途上国まで全ての国が協力していく必要があります。しかし、それぞれの国だけで対策を進めればいいわけではありません。一人ひとりの市民レベルでも必要なことはありますし、地方自治体のレベルで推進すべき課題もあるでしょう。

昨今は地方自治体のレベルでも対策が求められており、例えば環境都市を宣言するとか、気候市民会議を開催するとか、産業を育成して必要な税収を確保するとか、官民ファンドを立ち上げて必要な資金を供給していくといった政策提言が行われたりしています。ただ、多くは具体性に乏しく、スピード感がないのは否めません。

東京都は先頃、新築住宅に太陽光発電設備の設置などを義務化する制度を目指すと発表しました。ただ、これは温暖化対策のための条例改正などの基本方針ということであり、2025年の4月施行を目指しています。基本方針ですから、成立しても具体的に動き出すのは、さらにその先ということになるのは間違いありません。

FIAFIA

なかなか地方自治体のレベルでは、政策としての実行が容易ではない部分もあるでしょう。温暖化対策を進めていく宣言をしたり、取り組む企業の支援策を決めたり、将来的な仕組みを整えていくといった態勢を打ち出すにとどまるのは、ある程度、仕方のないところなのかも知れません。

そんな中、新しくレポートを発表した団体があります。“Institute for Transportation and Development Policy交通開発政策研究所(ITDP)という世界的なNPO、非営利の比政府組織です。世界中の都市と協力して、質の高い交通システムと政策的解決策を設計、実施する団体です。

発表したレポートは、“Protected Bicycle Lanes Protect the Climate”、『保護された自転車専用レーンは気候を守る』というものです。物理的にプロテクトされた自転車専用レーンのネットワークが、どのように温暖化ガスを削減するか、炭素排出量、輸送コストを減らし、市民の早死を防ぐか実際に測定して示しています。

Cycling CitiesCycling Cities

自転車インフラの整備は交通政策と捉えるのが当たり前ですが、実は温暖化対策として有益だと示しています。他の交通インフラへの投資と比べても温室効果ガスを大幅に削減しますし、輸送コストを削減し、交通事故死を防ぐという非常に有効性、費用対効果の高い政策であることがわかったと述べています。

その効果は定量的に測定可能です。他の交通インフラ、メトロやバス、新交通システムと比べてもコストは小さく、通常1年以内に元がとれます。その市民に対する健康増進効果も考えると、かかった費用以上の経済的価値を生み出し、それは毎年続くため、他のどんなインフラ整備よりも優れていると主張しているのです。

実際に、コロンビアのボゴタや中国の広州などの都市の自転車レーンのネットワークを調査し、ボゴタで年間2万2千トン、広州で1万6千トンの二酸化炭素の排出防止になっていると推定しています。これは、それぞれの都市で毎年、30万本から40万本の新しい木を植えることで吸収される炭素量に匹敵します。

Cycling CitiesCycling Cities

温暖化ガスの削減だけではなく、さまざまな経済的、社会的利益をもたらします。ボゴタのネットワークの建設には推定1億3千2百万米ドルが費やされましたが、移動する市民は年間8千万米ドルの交通費を節約できたことになります。そして年間300人の交通事故による死亡を防いでいます。

広州のネットワークは、構築に推定6千9百万米ドルの費用がかかり、移動する市民の交通費は年間3千万米ドル節約出来ています。50人の交通事故死を防ぎ、年間5千5百万米ドルの経済的価値をもたらしています。その他の経済効果を含め、年間合計で1億5百万米ドルの利益となります。

これらの経済的利益には、時間の節約や大気汚染の減少、地価の上昇、その他のサイクリングの経済的利益は含まれていません。都市において渋滞の影響を受ける人々のトータルの時間的損失は莫大なものになりますし、大気汚染の減少による呼吸器系疾患の防止効果も小さくないはずです。

Cycling CitiesCycling Cities

レポートでは、この研究による自転車レーン開発による効果や影響を試算するツールなども提供しています。公共投資の温暖化対策としての効果を推定することが出来ます。これは気候変動対策としても時宜を得たものであり、世界中の都市が温暖化対策に取り組む指針となっています。

ソーラーパネルを設置する住民に補助金を出したり、再生可能エネルギーの開発にファンドを通して投資するのが悪いとは言いません。しかし、都市においては、自転車レーンのネットワークを整備することが、非常に効果的で直接的な方法であり、温暖化対策として、まさに自治体がすぐに取り組むべき政策だと言うのです。

この中で指摘されているように、物理的に保護された自転車レーンというのもポイントです。人々、特にこれまで自転車を敬遠していた人にも自転車を使ってもらうためには、安全であることが重要です。ただの自転車レーンでは危険もあります。これなら自転車を使って移動しても安全だなと思ってもらうことが大切なのです。

Cycling CitiesCycling Cities

全体としてネットワークとして機能することも重要です。細切れで、部分的な整備では、都市を移動する手段としては評価できません。地下鉄やバス路線が細切れということはあり得ません。市内の大方の場所へ行くために利用できて、時間的にも結果として効率的である必要があります。

都市部の移動にクルマでなく自転車を使えば温暖化対策になり、健康や交通費的にもメリットがあるというのは誰でも想像がつきます。しかし、残念なことに自転車レーンは、地下鉄やバス高速輸送システム、高速道路などのように主要なインフラとして捉えられていないことも問題だと指摘しています。

つまり、自治体は渋滞対策や交通事故死者削減などのため、自転車インフラ整備の必要性を意識することはあっても、温暖化対策としては見ていないことが多いのです。実は、他のどんな交通インフラよりも温暖化対策として優れており、費用対効果が高い政策として見られていないのが問題です。

Cycling CitiesCycling Cities

レポートでは、都市においては『保護された自転車レーンのネットワークが不可欠である』と見なされるべきと主張しています。ほかの交通インフラが不要とは言いませんが、何よりも優先して整備されるべきであり、その有効性が理解されていない、意識されていないのは問題だとしています。

整備に数十年かそれ以上かかるインフラもありますが、保護された自転車レーンのネットワークは数年、またはそれ以下で実装できると指摘しています。市民に自転車の利用を勧めるならば、自転車代金の補助などではなく、自治体としては、まず何より自転車インフラを整備することが必要なのです。

こういうレポートが出ても、あまり興味を示さなかったり、我々の都市には道路のスペースが足りないなどと言い訳をする首長は多いに違いありません。しかし、それはクルマを優先するモータリゼーション時代の古い固定観念が邪魔をしています。

Cycling CitiesCycling Cities

スペースが足りないなら、クルマのレーンを1車線つぶせばいいのです。クルマの都市の中心部への流入を抑制する措置にもなります。今までのように少しでもクルマを便利に、クルマの車線を多くという考え方は古いと言わざるを得ません。今はいかにクルマの流入を抑制するか考えるべきで、それは温暖化対策にもつながります。

日本の都市なら、無駄に広く整備されてきた歩道を削ることも考えられるでしょう。クルマの車線は維持したままスペースを確保しようとするのが間違いです。まずクルマの車線を減らせばいいのです。このレポートでも、クルマ用の道路スペースを減らせば、そのぶん温室効果ガスが減ることになると指摘しています。

ちなみに、ITDPによるこのレポートは、ある団体の資金援助を受けて作成されました。その団体というのは、FIA、国際自動車連盟です。世界各国のクルマ団体によって構成されている非営利の国際機関です。モータースポーツや、モビリティとしてのクルマを促進しようという組織です。

Cycling CitiesCycling Cities

クルマの団体が自転車レーンというと、クルマの売り上げが落ちて利益背反するように思えますが、そうではないのです。クルマのドライバーにとっても、自転車との事故が減ることはメリットになります。自転車と事故を起こしかねない道路より、セパレートされた自転車レーンがあるほうが安心して走れるでしょう。

いくらクルマの団体の世界組織だからと言って、クルマだけ優先するような政策を示したり支持する時代ではないとの認識もあるのでしょう。交通事故の元凶、気候変動における敵、大気汚染の根源などとされるのも避けたいはずです。むしろ、地球環境や市民の安全、健康に寄り添うスタンスを示したほうがプラスなのでしょう。

世界的な趨勢として、都市中心部への流入は抑制されるかも知れませんが、道路での自転車との共存は必ずしも不利益ではないのです。だからこそ、自治体が見過ごしている温暖化対策の直接の政策として、高速道路をつくるのではなく自転車レーンを整備せよと強調するレポートにも、わざわざ資金を提供しているわけです。

FIAFIA

日本の自治体でも、このご時勢ですから、温暖化対策を打ち出さざるを得ません。環境都市宣言や民間への支援策、基金の創設構想もいいですが、まず、すぐ出来て、非常に優れた温暖化対策である、『保護された自転車レーンのネットワーク』の整備に取りかかるべきではないでしょうか。







◇ 日々の雑感 ◇

サッカーW杯日本がスペインに逆転勝利、やってくれました。奇跡とは思いませんが、そう簡単に勝てる相手ではないわけで、ドイツに続いての大金星は天晴れと言うしかありません。次も勝ってベスト8に進んで欲しいですね。

このエントリーをはてなブックマークに追加

 デル株式会社


Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。



 楽天トラベル

 
※全角800字を越える場合は2回以上に分けて下さい。(書込ボタンを押す前に念のためコピーを)