December 05, 2022

自転車行政のやり方を変える

最近、DXという言葉をよく耳にします。


デジタルトランスフォーメーション(DX)のことです。定義する主体によっても若干違いますが、デジタル技術を活用することで、業務プロセスを改善するだけでなく、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革して新しい価値を創造したり、競争上の優位性を確立すること、などとされます。

多少曖昧な部分はありますが、単なるデジタル化やIT化とは分けて考えるべきでしょう。例えば、これまで紙で管理していたものを、パソコンやソフトウェアを導入して業務の効率化を図っただけでは、単なるデジタル化であり、デジタルトランスフォーメーションとは言えません。

そのあたりを勘違いしている人は少なくないようです。広告とか新聞記事、ウェブなどでも理解していると思えないような文章を見かけますし、いわば流行り言葉として使っているケースもあります。特にIT技術をよく理解していない、使いこなしていない世代には混同している人が多いようです。

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例えば、経理や人事システムとか、営業記録を社内で共有するシステムを導入すれば、場合によっては効率化や業績の向上につながるかも知れませんが、それはデジタル化に過ぎません。業務は改善されたとしても、商売が変革されたわけではないからです。

一方、例えばこれまで航空機のエンジンを製造していたメーカーが、エンジンにセンサー等を組み込み、顧客である航空機メーカーや航空会社の運行データと併せ、より効率的な航空機の運用を進めたり、予め劣化や故障を検知し、部品交換や最適なメンテナンスを提供するサービスに転換したような会社があります。

これまではエンジンを売って終わりでしたが、変革によってアフターサービスを主体としたり、エンジンの価格ではなく、出力と稼働時間に応じたサブスクリプションサービスに移行すれば、いわばメーカーからサービスの会社に変身したことになります。こういうのがデジタルトランスフォーメーションでしょう。

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データやAIなどを使って、エンジン故障やそれに伴うロスを未然に防いだり、予防的かつ効率的な修理やメンテナンスをすることで、エンジンの稼働率を上げたり出来れば、メーカーにとっても顧客にとっても、また乗客にとっても安定運行というメリットをもたらすでしょう。競争上も優位になります。

海外の大規模鉱山では、公道は走れない巨大なダンプトラックで鉱石や石炭などを採掘現場から運び出します。その巨大ダンプカーのタイヤを製造するメーカーが、タイヤの中や外側にセンサーなどを取り付け、空気圧の変化や異常振動などを検出することで、パンクを未然に防ぐような技術・サービスを提供しています。

一台のダンプトラックにアクシデントがあっただけで、鉱山の内部で行違えなかったり、大渋滞になったりして、出荷量が落ち、鉱山会社は損失です。こうしたトラブルを未然に防げるならば、大いにメリットがあります。タイヤメーカーは、ダンプトラックの稼働を減らさないための運用システムを売るわけです。

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タイヤを売って終わりだったのが、その後も継続的に顧客との関係を持ち、売り上げも継続的に上がるようになります。これもメーカーからシステム運用を提供・担う会社としてビジネスモデルが大きく変化しています。簡単には他のメーカーのタイヤに替えられないはずです。これぞDXでしょう。

日本ではDXではなく、デジタル化やIT化にとどまっており、世界的に見ればDXに遅れていると言われています。デジタル化ですら遅れている組織も少なくなく、周回遅れどころではない分野もあります。その際たるものが、政治や行政などの官の分野でしょう。

今般のコロナ禍では、感染者の把握や対応に手間取り、大きなボトルネックとなりました。聞けば、なんと今どき手書きの紙をFAXで送って集計していたというのですから、驚いた人も多かったはずです。少しずつ国のシステム等も整備されましたが、自治体のシステムとは連携せず、いちいち手で打ち込むなどの無駄もありました。

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急な対応で混乱があったとは言え、支援金の支給などでも、あらためて自治体のアナログな部分が露呈しました。ワクチン接種にしても、パソコンやスマホが使えない高齢者がいて、簡単にはデジタル化出来ない部分があったとしても、諸外国と比べてデジタル化の遅れが明らかでした。

政府も大慌てで2021年9月にデジタル庁を立ち上げ、アナログな政府の改善を目指しましたが、まずハンコを廃止するところから始めなくてはならないという体たらくです。議員にデジタル機器を使えない人が少なくなく、官僚は国会質問に対する答弁書などを全て紙に印刷して届けるというアナログさです。

官僚は、深夜までかかって答弁書を作成し、印刷して、夜中の霞が関を自転車で走りまわって議員や担当部署に届けるそうです。これは官僚の過重労働にもつながっています。今どき、電子的に文書を共有する方法などいくらでもあるのに、アナログ議員の存在がデジタル化の邪魔をしている形です。

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パンデミック時に素早くアプリでマスク不足を防いだ台湾とか、電子政府で有名なエストニアなどを見ると、日本は何周遅れているのかと呆れるほどです。地方自治体も、今でこそ、Twitterで発信をするようなところも出てきましたが、行政自体はまだまだアナログで、紙ベースの手続きなどが標準です。

少しずつ、自治体の専用のアプリを作ったり、電子的な処理を試みるところも出てきていますが、相変わらず旧態依然な部分が多いと言わざるを得ません。自治体のウェブサイトこそ整備されてきましたが、まだまだPDFなどが多く、紙を置き換えただけ、掲示板への張り出しと変わらない部分も少なくありません。

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さて、地方自治体の仕事の一部分に過ぎませんが、自転車行政についても海外では先を行きます。例えば、スイスのチューリッヒ市では、“Bikeable.ch”というサイトを利用しています。“.ch”は“.jp”と同じスイスに割り当てられた国別のトップドメインです。

このサイトでは、私たちの街を自転車に乗れるようにしようというコンセプトを掲げています。まだ自転車都市として知られるような街ではありませんが、自転車インフラを充実させて、自転車で安全・安心して移動できる都市にすべく、市民と共に進もうとしています。

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市民は、具体的なスポットの問題点や改良すべき点などをコメントで指摘し、写真をアップします。ここに自転車レーンが欲しい、ここの舗装が剥がれていて危険、道路標示が消えている、構造的に衝突の危険がある、駐輪スペースを作ってほしい、といった意見や要望を投稿します。

市民の投稿は、市の当局者が見て必要に応じてコメントを返します。予算もあるでしょうし、すぐ改善できるような指摘ばかりではないと思いますが、改善の方策を探ったり、方針を示したりします。市民と市の担当部局が双方向でコミュニケーションすることが出来る場なのです。

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市民同士でも意見交換できます。意見への賛同を表示したり、改善方法を議論したり出来ます。同じことを感じる人が多ければ、担当者としても優先順位が上がったりするでしょう。チューリッヒ市は、本気で自転車インフラの改善に取り組みたいと考えており、そう表明しています。

インフラですから、今日指摘して明日改善されるというようなものではないとしても、市民の意見や要望が、市の当局に直接伝わるというのは、投稿のしがいもあるでしょう。そして、そのスポットが改善・解決すれば、その様子が写真に撮られてアップされることになります。

日本では江戸時代、徳川吉宗が設置した目安箱や、それ以前にも似たものはあったようです。現代でも、市区町村の役場などに行けば、ご意見箱などが置かれているかも知れません。しかし、仮に投書したとしても、それが読まれるかも不明ですし、まともに取り上げられるか、ましてや行政に反映するかなどわかりません。

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市区町村のサイトにも、ご意見をお寄せくださいくらいは書いてあるかも知れません。しかし、“Bikeable.ch”は、具体的で双方向ですし、自治体の姿勢も伝わります。ここでの対応が悪ければ、それこそ今ならTwitterなどのSNSで炎上しかねず、行政としてもなおざりに出来ないに違いありません。

まさにデジタルだからこそ出来るスタイルであり、これまでのような手間のかかる、手ごたえのない、経過や結果が見えない方法とは違います。市民からも広く関心が持たれるでしょうし、市民同士の意見集約、ブレインストーミングにもつながるでしょう。

実は、この“Bikeable.ch”、自転車と新しいデジタル技術に熱心な、独立した9人の若者によって立ち上げられたプラットフォームです。核となるグループが、自治体の担当部局や関係者、一般の市民を巻き込んで、より自転車にフレンドリーな都市への発展を目指しているのです。

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今はチューリッヒ市が中心ですが、他の地域が排除されているわけではありません。少しずつ、エキュブランなど他の自治体にも広がりつつあります。市民だけではなく、自治体当局者を巻き込んで、具体的な対応・有意義で現実的な改善につなげることを考えているのです。

そもそも地方自治とは、『地方公共団体の行政がその住民の手によって責任をもって処理されること』だと言えます。大きな自治体になると、なかなか住民の手で、とはいかず、実際には役所が処理することになりますが、決して『お上』が処理してくれるのを頼みにするものではないわけです。

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この“Bikeable.ch”は、市民と話し合いながら行政を進めていくプラットフォームです。行政にとって、点検調査する費用が節約できたり、同時にアイディアが募集できたりといったメリットがあるだけでなく、市民が広く関わっていくという点で、本来あるべき地方自治のカタチと言えるでしょう。

単に、苦情処理の仕方がデジタルになったというのではなく、デジタルによって、今まで出来なかった、市民と共に自治体行政を進める形を目指しています。そう考えると、自転車行政のデジタルトランスフォーメーションへの道筋を示していると言えるのかも知れません。










◇ 日々の雑感 ◇

いよいよクロアチア戦です。厳しい闘いになるのは必至でしょうが8強という新しい景色を見せてほしいものです。

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