熱帯のジャングルやアフリカのサバンナにいる野生動物ばかりではありません。同じ野生動物でも、人間の生活空間のすぐそばに生息しているものもいます。そして、それは人間や産業、生活環境に影響を与えるか否か、つまり人間側の理由によって区別されています。
絶滅への危惧や、生態系を維持する目的で保護されている野生動物がいる一方で、害獣とか特定外来生物と呼ばれるような動物もいます。外来種には、もともと日本にいない動物が国内で繁殖してしまい、日本の固有種を駆逐しかねないといった理由で駆除されている種類もあります。
アライグマも外来種の一種です。テレビアニメのあらいぐまラスカルのイメージが強く、見た目もかわいらしいですが、法律で特定外来生物に指定される害獣です。繁殖力が強く、農作物を食い荒らすため、農業の年間被害額は少なくとも数億円のレベルです。
近年は都市部へも生息域を広げており、比較的自然が残る東京の三多摩地区だけでなく23区内でも頻繁に目撃されるようになりました。警戒心があまり強くないため、人間の住む家屋の屋根裏に住み着いて、走りまわったり糞尿で天井を腐食させるなどの被害も起きています。( ↓ 動画参照)
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夜行性なので、気づかないことも多いのですが、家畜や民家の池の魚まで何でも食べるため、何百万円もするような錦鯉から、犬や猫などのペットまで食べられてしまうことがあると言います。見た目とは違って、とても狂暴な動物であり、人間に噛みつくこともあって危険です。
さらに、ダニや回虫などの寄生虫、菌やウイルスを媒介するため、人間にとっては厄介です。狂犬病のキャリアでもあり、ほかに重症熱性血小板減少症、レプトスピラ症など、重篤な感染症などにかかる恐れがあります。もし見かけても近づかず、接触したら速やかに受診する必要があります。
↑ ニューヨーク・セントラルパークに生息するアライグマ
アライグマは、もともとは北米が原産です。東京の都心で繁殖するくらいですから、当然のように大都会ニューヨークにも生息しています。マンハッタンの中央、セントラルパークにも多く住み着いています。見た目がかわいいため、知らない観光客などがエサを与えたりもしているようです。
さて、夜の人通りが絶える頃、セントラルパークに出没するアライグマ(英語ではラクーン)、実はもう一種類います。こちらは人間、ゆるくつながったサイクリストのグループ、クラブ名、“
CENTRAL PARK RACCOONS ”のメンバーたちです。ニューヨークの夜行性サイクリングクラブです。
活動日には天候などにもよりますが、見物人も含めて100人以上集まることもあります。彼らは夜な夜なレースをしています。直線コースを1対1でタイムを争うドラッグレースです。元々は、トラックバイクの愛好家の小さな集まりでしたが、誰でも参加可能なので人数が増えました。
トラックバイクは、ピストバイク、ピストレーサー、トラックレーサーなどとも呼ばれる、固定ギアのバイクです。シングルギアで変速がないだけでなく、純粋なトラックバイクにはブレーキもありません。止まる時はペダルを逆回転させて止まります。日本の競輪で使われるものと同じです。
ペダルとタイヤは連動するので足を止めての空走は出来ず、走る間はペダルを回し続ける必要があります。固定ギアなのでフィクシーなどとも呼ばれ、ニューヨークではメッセンジャーの人が使う自転車として人気が高まったことがありました。日本でも一時期流行しました。
そのトラックバイクの愛好家たちが熱中したレースイベントが、“
RED HOOK CRIT ”でした。1人の青年が勝手に路上でレースを始めたことで生まれたアンダーグラウンドのレースです。それが年を重ねるごとに拡大し、発祥のブルックリンだけでなくヨーロッパなど4か所で開催される大イベントに成長しました。
↓ RED HOOK CRIT
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公道を使ったピストバイクで競うクリテリウムレースでしたが、スポンサーが離れたり、いわゆるメッセンジャー文化の衰退など、いろいろな理由から2018年を最後に終了し組織が解散してしまいました。トラックバイクの愛好者が熱くなる、最も権威のあるレース、大イベントが失われてしまったわけです。( ↑ 動画参照)
ツールドフランスのような、ギアの付いたロードバイクによるロードレース、クリテリウムは相変わらず人気がありますが、トラックバイクのレース、“
RED HOOK CRIT ”が無くなって落胆した一部のトラックバイク愛好家たちが、夜のセントラルパークに集うようになったのが、“
CENTRAL PARK RACCOONS ”の始まりなのです。
↓ RED HOOK CRIT
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“CENTRAL PARK RACCOONS”の参加者は固定ギアの自転車が多いですが、それ以外の車種でも参加できます。ただし電動アシストは除きます。トーナメントの最初のほうには、MTB対MTBとか、カーゴバイク対カーゴバイクという組み合わせもあります。ただ、最後はトラックバイクやロードバイクの対決になることが多いようです。
セントラルパークでのレースは、もちろん公的な許可をとったものではありません。世間にはトラックバイクが危険だと批判する声もあります。そこで夜間、人目のないところでレースをして楽しんでいるのです。世間との軋轢をおこさないよう、公園の規則を遵守するなど、細心の注意をはらっています。
セントラルパークは広いので、近所からの騒音の苦情もありません。園内の道路も夜間は人通りが無く、おそらく一般のニューヨーカーで知っている人は少ないでしょう。参加者の安全にも配慮しています。夜行性のアライグマが顔を出すような時間帯に集まるのは、迷惑をかけないよう気を使っているのです。
アンダーグラウンドなレースではありますが、参加者は熱中して楽しんでいます。そして、その輪も少しずつ広がっています。コアなメンバーたちは、必ずしも公道でのクリテリウムでなくてもいいので、何らかの形でトラックバイクのレースイベントを復活させたいと願っています。( ↓ 動画参照)
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“RED HOOK CRIT”は無くなり、典型的なメッセンジャー文化は廃れ、増えたフードデリバリーは電動バイクに乗る時代です。固定ギアの自転車の人気は下火になってしまいましたが、トラックレースの熱い愛好者たちは決していなくなったわけではありません。
動物のアライグマは都市で人間と共存しています。法令に違反しない限り、トラックバイクが排除される理由はないはずです。自転車の種類や楽しみ方はいろいろです。トラックバイクの愛好者も、大都市で人知れず夜間に活動するアライグマのように、しぶとく残っていくに違いありません。
◇ 日々の雑感 ◇
森保ジャパンの挑戦は残念ながら16強で終わってしまいました。でも夢を見させてもらいましたし、日本のサッカーの将来にも希望を持たせてくれたと思います。森保一監督をはじめ選手たちにはありがとうと言いたいですね。
Posted by cycleroad at 13:00│
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