January 25, 2023

よく通る坂道で一生懸命登る

怖い病気はいろいろあります。


日本人の3大死因と言われる、ガンや、心筋梗塞などの心疾患、脳梗塞などの脳血管疾患もそうですが、認知症も怖いと考える人は多いのではないでしょうか。他の病気との比較が適切かは別として、次第に記憶が失われたり、自分が誰だかもわからなくなると聞くと独特な怖さがあります。

その認知症については、先ごろ明るいニュースが報じられました。認知症の6割から7割を占めるとされるアルツハイマー病の新しい薬「レカネマブ」が、日本のエーザイと米バイオジェン社が共同で開発され、アメリカFDAが承認したというニュースです。日本でも承認申請が行われました。

アルツハイマー病は進行性の脳疾患で、多くは65歳前後で発症し、徐々に記憶障害、人格変化、精神障害などをきたし、最終的には死に至るとされています。米国では現在、65歳以上の人々のうち約650万人、日本では約600万人がアルツハイマー病であると推定されています。

これまでも、アルツハイマー病の進行を遅らせるとされる薬はありましたが、今回の新薬は、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβを除去する可能性があると言います。この病気は誰でもなる可能性のあるものですから、現在患っている人だけでなく、将来の発病を危惧する人にとっても朗報でしょう。

現在、アルツハイマー病を完治させる薬や治療法はありません。軽度のうちに進行を遅らせて、自立した日常生活を送れる期間を延ばすことが目指されてきました。「レカネマブ」は、病気の進行に直接働きかける薬で、疾患修飾薬と呼ばれる、また一歩踏み込んだクスリのようです。

AlzheimerAlzheimer

ただ、手放しに喜べるわけではありません。新たな希望を持たせる薬ではありますが、治験で示された効果では、1年半後の認知機能の低下がおよそ27%抑えられると目されています。この効果は必ずしも大きいとは言えず、病気の進行を遅らせたり止めたりする上で重要かどうかもわからないと指摘する研究者もいます。

副作用の問題もあります。これまでの治験では脳が腫れたり、出血したりといった副作用が出る可能性があります。因果関係は不明ですが、治験が終了した後も薬の投与を続けた患者のうち2人が脳の出血で死亡したとの報告もあります。まだ確認されていない問題が起こる可能性も否定できません。

この新薬の高額な価格がネックになるという声もあります。米国での販売価格は1人当たり年間約350万円に設定されました。日本では保険適用になれば一定程度安くなると思いますが、かなり高額になる割には効果について議論の余地があり、副作用も軽視できないため、ネガティブに捉える関係者も少なくないようです。

今後の治験の結果が期待されますが、そもそも完治が期待出来るわけではありません。今のところアルツハイマー病の根本的な治療法がない以上、あとは少しでも予防に努めるしかないのでしょう。これまで、専門家はそのための方法を例示しています。

十分で良質な睡眠をとること、外出する機会を増やすこと、人と話す機会を増やすこと、生活習慣病を予防・持病を治療すること、聴力低下の確認と対策をすること、栄養バランスの良い食事をとること、といったことが効果的とされています。どれも健康のための基本的なことと言えるでしょう。

レカネマブAlzheimer

脳の健康を保つため、なるべく頭を使うということも挙げられそうです。こう言うと、クロスワードパズルとか、いわゆる脳トレと呼ばれるようなクイズやパズルを思い浮かべる人が多いと思います。しかし、近年の研究では、脳のエクササイズに一番効果的なのは身体を動かすこと、運動だと言われています。

このブログでも何度か取り上げたことがありますが、有酸素運動が有効というのもよく聞きます。自転車は優れた有酸素運動とされているので、なるべく休日に自転車に乗るようにしているとか、自転車通勤を始めたなんて方もあるかも知れません。

そんな中、アルツハイマー病については今月、新しい研究結果が発表されました。ニュージーランドの最も伝統ある大学であるオタゴ大学の、Travis Gibbons 氏らの研究グループによって、“The Journal of Physiology”という科学誌に掲載された新しい研究です。

脳由来神経栄養因子 (BDNF) と呼ばれる特殊なタンパク質は、神経可塑性、すなわち新しい接続と経路を形成する脳の能力や、ニューロンの生存を促進するとされます。動物研究では、BDNF の利用可能性を高めると、記憶の形成と保存が促進され、学習が強化され、全体的な認知能力が向上することが示されているのだそうです。

この、BDNF は動物研究で大きな期待がもたれていますが、これまでのところ、医薬品によって、BDNF の保護力を人間に安全に利用することには失敗しています。健康的な老化を助けるため、自然に BDNF を増加させるには、脳の能力を維持できる非薬理学的アプローチ、つまり薬以外の方法を探求する必要性があると言います。

レカネマブAlzheimer

最終的には4つの実験、1.20時間の絶食、2.軽い運動(90分間の低強度のサイクリング)、3.高強度の運動 (6分間の激しいサイクリング)、4.断食と運動の組み合わせ、について比較したそうです。この結果、BDNF を増加させる最も効率的な方法は、3.だったのです。

2.の有酸素運動ではなく、3.の短時間ながら激しい運動が最も効果的なことを発見しました。この違いの原因はまだよくわかっていません。関連するメカニズムを理解するには更なる研究が必要ですが、仮説として、脳の主要な燃料源である脳基質スイッチとグルコース代謝に関連するのでは考えられています。

脳基質スイッチとは、運動中にブドウ糖ではなく乳酸を代謝するなど、体のエネルギー需要が確実に満たされるように、脳が優先する燃料源を別の燃料源に切り替える仕組みです。グルコースの消費から乳酸への脳の移行は、血液中の BDNF レベルの上昇をもたらす経路を開くと考えられるのです。

クスリでは出来ない、BDNF の増加が、高強度の運動によって促されるというのは注目すべき結果と言えるでしょう。専門的な部分はよくわかりませんが、有酸素運動ではなく、短い時間の高強度のサイクリングが有効とは意外に感じた方もあるのではないでしょうか。

この6分間の高強度のサイクリングは、健康な脳の寿命を延ばし、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の発症を遅らせる可能性があると言います。掲載された研究論文によれば、短いが激しいサイクリングは、脳に、いい効果をもたらすらしいのです。

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脳の形成、学習、記憶に不可欠な特殊なタンパク質の産生を増加させ、加齢に伴う認知機能の低下から脳を保護する可能性があります。これは、誰もが健康的な老化を促進するために利用できる、公平で手頃な価格の非薬理学的アプローチになるのではないかと言うのです。

自転車に乗って、6分間だけ強い運動をするだけなら誰でも簡単に出来、たいした費用はかかりません。有害な副作用の心配もありませんし、これはサイクリストにとって、なかなかの朗報なのではないでしょうか。まだ認知症の心配をしていない人も多いとは思いますが、少なくとも悪い話ではありません。

平坦で6分間強くペダルをこげる場所だと、スピードも出てしまうので、なかなか無いかも知れません。しかし、多少の坂道ならば、近所やよく通るルートなどにもあるのではないでしょうか。ある程度距離のある、ダラダラとした坂ならば、6分間くらい力を入れてペダルをこげるでしょう。

そのような場所を決めておいて、そこを通ったら6分間の激しいサイクリングをすることにしておけば、脳のトレーニングになり、認知症予防を実践することが出来ます。その前後は有酸素運動として生活習慣病の予防になるわけですから、坂は力を入れるのを習慣にしておく手はありそうです。

健康は、失われて初めてその大切さがわかります。ふだんはあまり考えないことも多いですが、認知症も健康への脅威の一つです。今の医学では完治が難しいとするならば、予防しておくのがベターでしょう。誰でもなりうるし、若くて発症することもあることを考えれば、『強く6分』を実践したいものです。




◇ 日々の雑感 ◇

大雪にはならなかったものの東京でも初雪が舞い水戸など積雪になった地域もあるようです。かなりの寒さとなっています。日陰など局所的に路面が凍結していることも考えられるので自転車に乗る時も気をつけたいものです。

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