February 24, 2023

今後もこのままとは限らない

自転車はアナログな機械です。


アクセサリーとしては、ナビとか、スマホアプリを利用した各種の電子機器なども登場はしてきていますが、およそ自転車本体はアナログな技術で構成されているのは間違いありません。その推進する仕組み、チェーン駆動からしてアナログですし、その誕生以来、アナログであることは変わっていません。

しかし、ここへ来て、自転車にもデジタルを取り入れようとする考え方が出てきています。駆動方式に、従来のチェーン・ドライブではなく、いわばデジタル・ドライブ方式を提唱する人たちが一部にいます。チェーンによる駆動ではなく、電気的な方法で駆動力の伝達を行おうとするものです。

電気的にしたからと言って、すぐデジタルとはいえないわけですが、機械的な駆動方法を電気的なものに置き替えることを、デジタル・ドライブと呼んでいるようです。ペダル部分で発電し、その電力を後輪のハブへ電線で伝えることで、駆動力にしようというものです。

Chainless Digital DriveChainless Digital Drive

ある程度、自転車をわかっている人ならば、そんなものはナンセンスと言うでしょう。ペダルの力は、チェーンで直接伝えたほうが効率的なことは明らかですし、わざわざ電気に変換することで、大きなロスが生まれるのに意味がないと言うでしょう。

遠い発電所から送電線を通じて電気が送られてきて、家庭で家電などを使うならともかく、わずか数十センチの距離しかないのですから、チェーンなり、ベルトなり、ドライブシャフトなどで直接伝えるほうが、パワーのロスが小さくなることは誰でもわかります。

しかし、チェーンでなく電気で伝えるスタイルにすることに、メリットが全くないわけではありません。チェーンは、自転車に乗っていてのトラブルの原因として大きな要素です。触れば手が汚れますし、注油したり、ギアやディレイラーとの関係も含めてメンテナンスが欠かせません。

Chainless Digital DriveChainless Digital Drive

多くの折りたたみ自転車において、チェーンがあると邪魔になります。輪行などの際にもトラブルを生みやすい部分です。ペダルから後輪までの距離が長いリカンベントや、後輪が2輪のトライクなどでは、チェーンが長くなりがちで、構造的にうまくないということもあるでしょう。

もし、チェーンを使わないで済むとしたら、トラブルは減りますし、外見もスッキリして、自転車のデザインも自由になり、メンテナンスなどの点でメリットが得られるでしょう。ベルトドライブやシャフトドライブよりも、自転車のデザインの自由度という点などでは勝ります。

このデジタル・ドライブという考え方、まったく新しいアイディアではありません。この方式についての最初の特許は1975年に出願され、1995年に公開、デジタル・ドライブを搭載した最初の量産の自転車は、2012年にリリースされています。現在も少数ですが製品は販売されています。

Chainless Digital DriveChainless Digital Drive

それでも、これまでさほど普及していないことを見ても、チェーンのほうが優れているのは明らかでしょう。クランクの部分に発電機を置き、駆動輪のハブに電動モーターを設置し、コードでつなぐとなれば、重量も増えるでしょうし、電気的なトラブルも排除できません。ナンセンスと考えるのは当然です。

これまで、チェーンやギア、ディレイラーによるドライブ方式は、1世紀以上にわたって改善されてきて、効率性や安価な製造コストなどにおいて優れています。ただ、最近は電動アシスト自転車などの普及もあって、ギアボックスなどのドライブトレインが大きく進歩してきているのも事実です。

まだチェーンドライブのほうに軍配が上がるとしても、電気的なドライブ方式の信頼性は向上しており、場合によって、メンテナンスや自転車のデザインの自由度などの利点から、必ずしもチェーンにこだわらず、チェーンを使わない手もあるのではないかと考える人が出てきています。

Mando FootlooseMando Footloose

チェーンレス・ドライブだとメンテナンスの必要が少なく、ランニングコストが安くなるだけでなく、構造がシンプルになり、タイヤ交換などもやりやすくなります。クランクと後輪の距離が遠いデザインの自転車だけでなく、これはレンタルや、サイクルシェアリングで使う場合にもメリットがあります。

電力を制御することで、ギア比が自由に変えられ、またその範囲も広げられます。この点も初級者やシェア自転車向きには利点となるでしょう。電力を変える方式のほうが、自動でギアシフトさせる方式よりも安く、柔軟かつ細かく制御できます。

当然バッテリーを搭載することになるでしょうから、下り坂や減速時などに電力を回収(回生)することも出来ます。電力を細かく制御することで、信号待ちからの発進や上り坂もラクになります。電動アシストと同じです。駐輪時用に電気的なロックを搭載することも可能です。

Mando FootlooseMando Footloose

ペダリングの力がそのまま伝わるわけではなく、可変に出来るので、例えば片足ごとに出力を変えるようなことも可能です。障害がある人や、怪我の後のリハビリなどに役立つでしょう。直接ペダルの力が伝わらないということは、地面からの反応も伝わってこないことになりますが、それも電子的に制御できます。

トライクやフォールディング(折りたたみ)、カーゴバイクやリカンベントなど、自転車のデザイン自由度が増すだけではありません。タンデムなどでは、前後の人の脚力は違うのが普通ですが、それを調整することで効率を上げることも可能になります。

問題となるのは、やはりエネルギーの伝導効率です。チェーン方式だとペダルの力は95%以上伝わります。チェーンレスドライブだと、発電するクランクで20%、モーター部分で20%、さらに変速などで10%、それぞれロスする可能性があります。つまり、チェーン方式に比べて半分くらいになってしまうのです。これは非効率です。

Mando FootlooseMando Footloose

さらに、デジタル・ドライブにした場合の重量のアップによる違いも加わります。ソフトウェアによって、細かく補正したり出来るものの、かなりの効率低下は免れません。その点で不利なのは否めませんが、あとはメリットとの比較ということになりそうです。

しかし、よくよく考えると、ペダルをこがないフル電動の自転車に乗るのと同じです。それに加えて、ペダルで発電するぶん航続距離が伸びることになります。海外では、フル電動の自転車も普及してきていますが、それと比べるならば、電動効率の低さというデメリットは問題にはならなくなるでしょう。

チェーン駆動と比べなければ問題ないともいえます。後は、このチェーンレス方式の自転車が、フル電動の自転車として分類されること、例えば日本でならば、原付バイクとして免許やナンバープレートやミラー、ウィンカーなどが必要になるような不利な扱いにならなければ問題ないでしょう。

Chainless Digital DriveChainless Digital Drive

逆に言うと、原付バイク扱いとなってしまう従来のフル電動の自転車に比べて、有利な選択肢になることも考えられます。中途半端にペダリングしなくても乗れるようにせず、あくまでペダリングはするものの、セッティングによっては電動アシストよりもラクに乗れる自転車というカテゴリにする戦略は成り立ちそうです。

現在市販されている中では、“Mando Footloose”という20インチの折りたたみ電動自転車が、このチェーンレス方式、デジタル・ドライブの自転車と言えそうです。まだ多く普及しているわけではありませんが、自転車の種類の一つとして、今後増えていく可能性はあるでしょう。

今後の可能性については、デジタルカメラの例が考えられます。プロの写真家が従来型のフィルムカメラではなく、デジタルカメラを使うことなど無いと言われていたのは、そんなに昔のことではありません。それが技術の進化とともに、プロでも当たり前のようにデジタルカメラになり、フィルムカメラは淘汰されてしまいました。



チェーン方式がどうかはともかく、個人的には昔からの人力オンリーの自転車が無くなるとは思えません。しかし、それはフィルムカメラを使っていた人と同じと言われれば、たしかにその通りかも知れません。少なくともその可能性は否定できません。

現在でも、これだけ電動アシストやフル電動の自転車が普及していることを思えば、徐々に人力の自転車が淘汰されていく可能性はあるでしょう。メンテナンスがラクで、トラブルが少なく、あらゆる場面でコンピュータにより最適化された自転車が便利ということになっていけば、その可能性は高まります。

そんな自転車では運動にならないではないかと考える人もあるでしょうが、トレーニングしたいなら、設定を変えればいいだけで、むしろそのほうが効果的にトレーニングできる、なんて時代にならないとも限りません。チェーン方式と比べた伝導効率の悪さ、パワーのロスもどんどん減っていくかも知れません。

Chainless Digital DriveChainless Digital Drive

今後どうなっていくかはわかりません。そう遠くない将来、『チェーン?、ああ、昔はそんなものもあったね。』などと話してるかも知れません。トラブルも少ない、メンテナンスもラク、あらゆる点で便利となれば、全ての自転車が電動化されても不思議ではありません。

個人的には、人力オンリーでアナログな自転車はなくなってほしくないですが、カメラに限らず、家電でも何でも、いったん便利になってしまえば、元に戻れないのも確かです。自転車にも、いろいろな形での電動化、デジタル化が、ひたひたと迫ってきているのかも知れません。







◇ 日々の雑感 ◇

ロシアによるウクライナ侵攻から1年、プーチン大統領はドンバス地方への特別軍事作戦という抗弁から、戦争は西側が引き起こしたとの主張に変え、戦果乏しい中、ロシア国民を納得させようと迷走しているようにも見えます。

このエントリーをはてなブックマークに追加

 デル株式会社


Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。



 楽天トラベル

 
※全角800字を越える場合は2回以上に分けて下さい。(書込ボタンを押す前に念のためコピーを)