サイクルロード 〜自転車への道
世界の都市で自転車が選ばれ始めている。さまざまな角度から自転車の話題を。
March 02, 2023
自転車の位置付けが全く違う
日本と海外では自転車に対する考え方が違います。
日本では、自転車の歩道走行という特異な交通行政が長年行われてきた結果、ママチャリという独特の自転車が市場を席捲し、日本人にとって自転車とはママチャリです。最寄り駅や近所へ買い物に行くアシに過ぎません。中には、『おんな子どもの乗り物』と見下すような人もいます。
行政から見れば、駅前などに放置自転車として置かれる迷惑な代物であり、目障りな存在と目の敵にするような傾向もあります。相対的に距離は短いとは言え、市民の重要な移動手段であるにもかかわらず、ウェブサイトに、『市民はなるべく自転車を使わず、少しの距離は歩きましょう。』と書いている市もあります。
たしかに駅前の放置自転車が通行の迷惑になっていることは否定しませんが、自治体は駐輪場の整備ではなく、撤去移送のいたちごっこを繰り返しています。例えば東京駅は、東京の玄関口と言われますが、道路や歩道にスペースがあったとしても、放置自転車は絶対に許さないという姿勢です。
八重洲や丸の内などの駅前の放置自転車は、警告札を貼ったあと2時間で撤去できることになっています。これは他の一般的な駅と比べて異例の短さでしょう。駐輪された自転車が1台も見当たらないようにするのが、東京の玄関口のあるべき姿と考えているようです。
(左、東京駅、右、アムステルダム中央駅)
東京駅にわざわざ自転車で来る人はいないだろうと思う人もあるでしょうが、そんなことはありません。晴海とか勝どき、豊洲などの臨海地域から地下鉄だと東京へ出にくく、自転車だと早くて便利なのです。住民が急増しているエリアですから、自転車で東京駅に行くニーズは意外と多いのです。
もちろん、一部には駐輪場もあると思いますが、駅から遠かったり、台数が少なく不便です。ニーズがあるなら、広い歩道などに駐輪スタンドでも設置すればいいと思いますが、八重洲や丸の内に駐輪スタンドなど似合わない、目障りだと考えているのでしょう。歩道などにスペースがあっても設置されません。
ちなみに東京駅の建物は、東京の玄関口にふさわしく、レンガ造りの重厚な歴史的建造物です。諸説あるようですが、オランダのアムステルダム中央駅をモデルにしたと言われています。たしかに似ています。そのままマネしたのではないとしても、参考にしたのかも知れません。
ところで、そのアムステルダム中央駅の前には、先頃新しい駐輪場が完成しました。駅前には運河が迫っており、なかなか用地がとれない場所なのですが、なんとその運河の下、言ってみれば水中に駐輪場を建設してしまいました。7千台が収容できる、市内最大の駐輪場です。
4年、6千万ユーロの費用がかけられた立派な構造物です。完全に地下、水中にあるため、その入り口しか外からは見えませんが、駅の前で直接駅に接続しています。中央駅に自転車で来る市民にとっては、とても便利な場所にあります。しかも、料金は最初の24時間までは無料です。
駅前の地下という一等地ですから、日本だったら間違いなく商業施設にするでしょう。わざわざ水路の下という費用のかさむ工事をして、駐輪場なのですから、日本ならば、なんてもったいないという話になりそうです。全く考え方が違うと言わざるを得ません。
しかし、オランダでは普通のことです。ご存知のように自転車大国で、多くの市民が自転車で移動します。重要な都市交通と位置付けられています。交通手段ですから、鉄道との接続性、利便性の高い場所に駐輪場を設置するのは当然という考え方です。駐輪場は必要なインフラ投資と見なされています。( ↓ 動画参照)
同じ場所であっても、水路の上に柱を立てて、立体駐輪場にすることも出来たはずですが、水中にしたのは、やはり中央駅ということで、景観に配慮した面もあるのかも知れません。しかし、日本のように目障りな自転車を隠すというような考え方ではありません。
日本の都市部の駅だと、駐輪場は駅前から距離があったり、ガード下などの暗くて目につかない場所だったりします。場所によっては、とてもニーズを満たせない小さなスペース、他に利用が難しい余剰スペースなどに設置されます。月極めで借りようにも、何年待つかわからなかったりするほど収容台数は不足しています。
アムステルダム中央駅の駐輪場は、ニーズを満たすべく大規模で、明るく近代的です。さらに4千台が追加される予定になっています。自転車を移動手段として使うには駐輪場が必須なのですから当然のことです。なるべく利便性の高い場所に十分な台数を確保すべき、交通インフラなのです。
ちなみに、アムステルダムだけではありません。このブログでも過去にいくつか取り上げましたが、同じオランダの
ユトレヒト中央駅
とか、
ハーグ中央駅
などの駐輪場も、駅と直結した便利な場所に、大規模な施設として設置されています。アムステルダムだけ特別なのではありません。( ↓ 動画参照)
他のヨーロッパ諸国でも、駅前に大規模な駐輪場が設置されているのは珍しくありません。列車への接続というニーズに応じて駐輪場が設置されるのは当たり前のことです。自転車に乗る人の人数で言えば、日本も自転車大国ですが、そのスタンスは全く違うと言わざるを得ません。
日本だと、都市部の駅前などはすでに利用しつくされており、設置しようにも土地がないということになるでしょう。しかし、ヨーロッパには歴史のある古い都市も多いわけで、なかなか土地を手当するのが困難なのは同じです。そこを工夫するのが行政の責務でしょう。
例えば、ベルギーのゲント(ヘント)という都市では、“Groot Vleeshuis”という15世紀の歴史的な建造物を駐輪場にする計画を発表しています。もともとは屋根付きの食肉市場だった中世の建物です。日本で言うなら、室町時代に建てられた歴史的建造物を駐輪場にするようなものです。
駐輪場のニーズに応えるとともに、建造物の構造的な保守にも役立ち、その保護や修復にもなるとし、ゲント中心部の駐輪場不足を補う公共性の高い計画と位置付けています。これにより、多くの路上駐輪場を撤去し、歩きやすくするのも目的です。合理的な計画としています。
全体では750万ユーロかかる見込みですが、遺産局から90万ユーロの補助金も出ます。一般公開されていない“Groot Vleeshuis”の有効活用であり、遺産を修復し、建物の補強や保持にもつながる一石二鳥の方法だと説明されています。歴史的建造物を駐輪場にするとは、日本では考えられない大胆さです。
自転車は近所へのアシに過ぎず、放置自転車として目の敵にし、目障りなので隠したい日本と、都市交通として有効に稼働させるべき交通インフラであり、環境負荷や渋滞を軽減し、市民の健康増進にもなる有用な移動手段と考えるヨーロッパ、自転車に対する考え方が大きく違うのは間違いなさそうです。
◇ 日々の雑感 ◇
アメリカが、ウクライナ戦争で中国がロシアに軍事支援を行った場合、新たな対中制裁を科す可能性について同盟国に打診したと報じられています。米中対立の激化、さらに深刻な世界の分断につながってしまうのでしょうか。
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「駐輪の問題」カテゴリの最新記事
Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(2)
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駐輪場
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この記事へのコメント
cycleroadさん,こんにちは.
車道(左側)が原則,歩道は例外と明記した「自転車安全利用五則」を骨抜きにして今なお「自転車は歩道」を前提にした道路整備が推進されているのは,自転車が使いやすく安全な走行環境を整えると放置自転車の山が増えると考えているからではないかと疑いたくなりますね.
やはり日本ではスポーツ自転車の製造技術が欧米と比べて数十年の遅れをとっていたためか,重い,直ぐ疲れる,僅かな坂も乗っては登れない実用自転車オンリーの時代が長く続いていた事,競輪にまつわるいろいろな事件が社会問題化した時期があった事等の歴史的な影響があり,苦痛で非能率な自転車は時代遅れの役立たずとして1台残らず路上から葬り去るのが経済大国の実力の証明と信じられていることに問題があると感じております.
Posted by マイロネフ at March 02, 2023 13:50
マイロネフさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自転車を歩道走行にした結果、いまだに多くの人が歩道走行しており、また、タイヤが太く、足つき性はいいけど遅くて重い、ママチャリが日本のスタンダードになった結果、欧米のように自転車が有効な都市交通と捉えられていないのが問題だと思います。
ちなみに、シマノなどもありますから、必ずしも製造技術に劣るとは言えないと思いますが、自転車の製造は軽工業として日本では卒業くらいに考える人は多いでしょう。
いずれにせよ、自転車が都市交通として組み込まれていないのが欧州との大きな違いですね。
Posted by cycleroad at March 05, 2023 14:20
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