事故の可能性もそうですが、盗難のリスクです。トレーニングで、家から一度も自転車から降りずに帰ってくるような場合ならともかく、通常は移動先で駐輪して用事を済ませたり、食事や休憩をしたりすることもあるでしょう。駐輪して愛車から離れることがどうしても必要になります。
自転車通勤などなら、駅や勤務先の駐輪場にとめることもあるでしょう。ツーリングの途中でも、目の前にとめたまま食事がとれるとは限りません。つまり盗難のリスクと背中合わせです。目的地の室内などに持ち込める場合は別として、屋外に置かざるを得ない以上、盗難の可能性は常にあります。
日本でもそうですが、海外の場合はさらに切実なものがあります。日本と比べて自転車盗が桁違いに多く、施錠し忘れたり貧弱なロックだと、あっという間に持って行かれます。このため、盗難防止用のロックが次々と開発され、材質も強化されてきました。
例えば、ニューヨークあたりで自転車店に行くと、極太の鎖とか、頑丈なワイヤー錠、U字ロックなどが売られています。そして、細くて華奢な女性でも極太の鎖をたすき掛けにして自転車に乗っていたりします。そのくらいでないと、簡単に盗まれてしまうことを如実に表しています。

ロックや鎖、ワイヤー錠などが頑丈になれば、窃盗犯はより強力なツール、大型のカッターとか電動グラインダーなどを使って切断しようとします。その防止のためにロックメーカーは、特殊鋼を使ったり、簡単には切断したり破壊できないような工夫をこらすという、いわばイタチごっこの面もありました。
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The Crossover Lock”は、そのループには加わらない選択をしました。切断されるのは覚悟し、もし切断されたり、動かされたりした時点で、持ち主に通報するロックをつくりました。少し動かされただけで、オーナーの手元のスマホにアラートが行くので、盗難防止行動が間に合う可能性があります。

これまでにも、盗難の予兆を知らせてくれる盗難防止センサーはありました。この考え方自体は新しくありませんが、“The Crossover Lock”は、その盗難防止装置とロックを一体にしたわけです。たしかに、言われてみれば、ありそうでなかった製品かも知れません。
相当頑丈なロックでも、あっという間に盗まれてしまうとしたら、これ以上頑丈にしても、あまり意味はありません。それより、ケーブル切断などにアラートを発し、素早く盗難の発生を知らせることで、盗難を防いだり、現場を抑えられる可能性が出てきます。警報システムで抑止するという考え方です。( ↓ 動画参照)
犯人にしてみれば、より盗むのに時間がかかるロック、面倒なことが起こりうるロックは敬遠するに違いありません。つまり、たくさんの自転車がとめられている駐輪場のような場所では、他の自転車が選ばれることで、被害を免れる可能性は高くなるでしょう。
子どもの蹴ったサッカーボールが当たっただけでも作動してしまうという可能性はありますが、それでも異常を感知できれば、多少の誤報を上回るメリットがあります。愛車から目を離した、わずかの時間で盗まれてしまう悔しさを考えれば、少しでも盗難の可能性を減らすことには意義があります。

ほかの用途にも使えます。例えば、GPSで駐輪した場所を探したり、自分の持ち物にロックとしてではなく取り付けておいて、置忘れた場合に場所を割り出すようなことも出来ます。自転車以外でも、芝刈り機とかバギーとか、屋外に保管したり、置いておくようなものにも使えます。
スーツケースに取り付けておけば、途中で開けられたことを検知できます。アメリカでは、預けた荷物が出てこずに、スーツケースの中身が盗まれたというような事件も起きるようですが、このロックがなければ、どこで何が起きたかすらわかりません。防止は無理でも、場所や時間を特定して責任を追及することは可能になります。

アメリカでは、セキュリティ上の理由で、スーツケースのロックは外した状態で預けることが求められます。しかし、このロックには、トラベルセントリーキーロック機構が装備されており、空港のセキュリティで係員が開錠出来るので、ロックしたまま預けることが可能になります。( ↑ 動画参照)
このロックを開発した、
Elios, Inc. はアメリカ・ユタ州のソルトレークシティを拠点にした会社ですが、アメリカならではのニーズも見据えています。例えば、拳銃やライフル銃、ショットガンなどのロック用です。勝手に使われないようロックしておくわけです。( ↓ 動画参照)

もし、留守中の自宅にある拳銃のロックが外されたら、リアルタイムに知ることが出来ます。うっかり帰宅して、空き巣と鉢合わせし、自分の銃で撃たれるようなことを回避できるわけです。もちろん、子どものいたずら、持ち出しを未然に検知して抑止することも出来るでしょう。
ほかにも、例えば、牧場の柵に取り付けておいて解放を検知したりすることも出来ます。また、離れた場所からロックを解除することも出来るので、自分の牧場の入り口に来た友人から連絡をもらったら、遠くから居ながらにしてアンロックするようなことも可能です。( ↓ 動画参照)

つまり、遠隔操作や検知が可能なスマートな南京錠ということになります。用途は自転車用に限らないわけです。
クラウドファンディングで資金調達・先行販売していますが、まだ30日を残して、目標金額の5倍以上に達しているのは、おそらく、自転車以外のニーズもあるのでしょう。
ロックも、素材の頑丈さや切断されにくいことを競う時代ではなくなってきているということなのかも知れません。スマートフォンの普及率が上がり、常に手元に置く人が多くなっているので、これを利用しない手はありません。重くて太い鎖やU字錠を携行しなくて済むのはメリットです。( ↓ 動画参照)
このロックと盗難通報装置の一体化は、いわば時間の問題だったのでしょう。個人的な推測ですが、次は自転車用のドライブレコーダーと一体化していくような気がします。つまり、居ながらにして窃盗犯の顔を見て、同時に録画して警察の捜査に役立ててもらうロックが登場するのではないでしょうか。
軽くて切断されにくい素材の開発も進むとは思います。それも技術の進歩なのは間違いありません。ただ、頑丈さを競う一方で、このようなハイテク化も進んでいきそうです。いつになるかはわかりませんが、ハイテクで盗難が予防され、自転車盗なんて事実上、心配しなくて済むような時代が来てほしいものです。
◇ 日々の雑感 ◇
他の話題に隠れてしまいがちですが、着実に防衛・獲得を進めて藤井聡太5冠が6冠目を獲得、大したものです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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