サイクルロード 〜自転車への道
世界の都市で自転車が選ばれ始めている。さまざまな角度から自転車の話題を。
April 13, 2023
自転車レースに出場する背景
南米ボリビアは内陸の国です。
港はないので入国は主に空港になりますが、事実上の首都ラパスは標高3600メートル、世界一高い場所にある首都です。ラパスのエルアルト空港は標高4000メートルを超えるため、飛行機を降りた途端に高山病になる人も少なくないという地形条件にあります。
鏡のような景色が印象的なウユニ塩湖がよく知られていますが、多くの日本人にとっては馴染みの薄い国と言えるでしょう。通称はボリビアですが、日本語の正式表記ではボリビア多民族国で、その名の通り、さまざまな民族や混血、北米や欧州にルーツを持つ人まで住んでいます。
紀元前1500年には既に人間が住んでおり、チリバやテイワナク、アイマラなどの王国、文明が栄えた歴史を持ちます。16世紀にはスペインの植民地となり、特に先住民は虐げられてきた歴史があります。その先住民・インディオの血を引く人々のうち、女性をさすのがチョリータです。
多くは今も民族衣装、ポリェラと呼ばれる、ひだが多くて裾の広がったスカートを着ています。髪型は2本に分けた三つ編みで、山高帽をかぶっています。これはスペイン統治時代の名残りの伝統的な衣装です。現在の都市部に住むチョリータには着たがらない人もいるそうですが、この伝統的衣装に誇りを持つ人たちもいます。
先住民系のチョリータは、田舎の貧しい娘とイメージされがちなのですが、農村部の出身であることに誇りを持ち、頑なにこの伝統的な格好を守る女性も多いのです。そして、チョリータのコミュニティの幸福とプライドを守ることに力を入れています。
国が人々を不法に扱ったり、地域の安全が脅かされたりする時、怒りを表明するために街へ出て先頭に立ってデモを行うのもチョリータ達です。かつては蔑称だったり着こなしだった伝統のスタイルを逆手にとって、自分たちのプライドを示すシンボルになっているのです。
さて、ラパスに隣接する街、エルアルトでは独特な自転車レースが行われます。出場するのは、18歳から45歳までのチョリータたちです。チョリータだけしか出場は認められません。しかも、ペダリングしづらいと思いますが、ポリェラのスカート姿で自転車に乗ります。
チョリータの事情を知らないと、仮装のレースかと思ってしまいますが、そうではありません。15キロほどのコースですが、エルアルトの標高は4150メートルです。薄い空気の中での過酷なレースです。勝者たちには、トロフィーや携帯電話、新しい自転車、缶詰などの賞品が贈られます。
ゴールすると、呼吸困難で倒れる人も出ます。それくらいの真剣勝負です。ボリビア先住民族の女性としての誇りをかけ、その地位を向上させ、チョリータに対する偏見を見返すためでもあります。女性の先住民族だけの自転車レースというだけで珍しいわけですが、彼女たちにとって、単なるレース以上のものなのです。( ↓ 動画参照)
ちなみに、同じような理由から、彼女たちはプロレスでも闘います。やはりポリェラを着て試合をする女子プロレスです。その女子プロレスの団体名は、「フライング・チョリータ」です。観客たちは正義のヒロインに熱狂的な声援を送ります。
男性たちに独占されてきた分野で、存在感を示す狙いもあります。時には、男女で闘う試合が組まれることにも驚きます。闘うチョリータたちが所属するのは、その名も「ファイティング・チョリータ協会」です。有名になりたいなどの気持ちはないと言います。自分が読みもしない記事の取材にも興味はありません。
彼女たちは植民地時代に、征服者たちの召使いとして働くことを強いられ、欧州の習慣に従うことを求められ、選挙での投票はおろか、文字を習うことも禁止されてきました。公共交通機関やレストランにも立入禁止、居住区も分けられ、農地を所有することも出来ませんでした。
そんな歴史を持つチョリータにとって、プロレスは彼女たちのドラマそのものです。女子プロレスラーは、尊敬に値する自分たちのヒロインであり、チャンピオンです。彼女たちは、何世紀もの間、リングの外でも圧迫や搾取と闘ってきたのです。まさに彼女たちの不屈の精神を表しています。
ちなみに、登山に挑戦するチョリータたちもいます。やはり服装は、ポリェラのスカート姿です。自転車レースでもプロレスでも登山でも真剣です。今までの自分たちの記録を超えることを目指しています。取材などに見向きもしないのも、自分たちの挑戦こそが目的であり、大事という考え方からだと言います。( ↓ 動画参照)
私も最初にこのレースの動画を見た時には、スカートをはいて、何かのアトラクションかと思ってしまいました。標高が高いことも頭になかったので、運動不足で喘いでいるものと勘違いしました。実はとんでもない、歴史的・民族的な背景からくる活動の一つだったのです。
いまだに格差や偏見に苦しむ彼女たちにとって、自転車レースも自分たちのアイデンティティを確立し、プライドを保ち、地位を向上させていくための行事の一つです。なかなか日本人にはピンと来ない部分ですが、世界にはいろいろな理由で自転車レースをする人たちがいるのです。
◇ 日々の雑感 ◇
日本の広い範囲に中国からの黄砂が流れ込んでいます。視界が悪いとか汚れるだけでなく、海を越える粒子は細かく呼吸器疾患やアレルギーなど健康に影響を及ぼすそうなので、なるべく外出を控えたほうが良さそうです。
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Posted by cycleroad at 13:00│
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