April 16, 2023

電動アシスト自転車のリスク

一部で危険性への懸念が広がっています。


電動アシスト自転車は、世界的に増えています。趣味のサイクリストの中には違う人もいますが、同じ自転車に乗るならラクなほうがいいというのは、多くの人が思うことでしょう。価格や使用頻度、地形や主な利用目的などにもよりますが、電動アシストを選ぶ人は増えています。

コロナ禍の影響もありましたが、環境への負荷を考えたり、自分の健康を考えたり、渋滞の回避や燃料費の高騰など、自転車を活用しようという動機には事欠きません。ペダルをこがなくても進む電動自転車も含め、電動アシスト自転車の販売台数は右肩上がりになっています。

ただ、こうした傾向を受けて、問題も起きています。その一つが火災です。電動アシスト自転車のバッテリーが発火して火事になる件数が増えています。これは国や地域によって、かなりバラツキはあるようですが、自転車のバッテリー由来の火事が非常に多くなっている都市があります。

New YorkLondon

例えばニューヨーク市です。直近の1年間に約200件のバッテリーによる火災が発生し、6人が死亡しています。マンハッタンの高層マンション内で発生した火事は大火災となり、40人以上が負傷する事態になりました。市民の中には、火災の危険性を意識する人も増えていると言います。

ニューヨークの場合、ただでさえ、自転車の盗難の多い街ですから屋内に保管する人は多いと思います。相対的に高価な電動自転車なら、なおさらでしょう。人口密集地ですので、保管場所に余裕がなく、まわりに延焼しやすいものが置かれている割合も高いはずです。

共用の自転車置き場ならば、周囲に自転車しかないかも知れませんが、部屋の中で周囲に可燃物が多ければ、潜在的なリスクは高まります。住戸の入り口付近に自転車が置かれていたため逃げ道を失い、死に至るケースも報告されています。自転車のバッテリーによる火災の特徴と指摘する声もあります。

Northern IrelandNorthern Ireland

一般に、バッテリーによる火災の特徴として、急速かつ突然発火し、激しく燃焼するということが知られています。消火にあたる多くの消防士が、他の原因の火災と比べて、明らかに火の勢いが激しく、あっという間に建物が火に包まれる場合が多いと述べています。

おそらく寝ている間に充電しておこうという人は多いはずです。突然発火して激しく燃焼し、急速に火が回れば、気づくのに遅れ、逃げようとした時には避難経路がふさがれていることになります。消防士が窓からロープなどで避難させる例も多いようです。聞けば、たしかに怖い火災なのは間違いないでしょう。

消化も難しいとされています。普通に放水して消そうとすると、水がバッテリーの電解質と反応して水素が発生し、爆発することもあります。水に浸されることで状況が悪化する場合もあり、一般的に激しく燃えて非常に高温になるだけでなく、長く狂ったように燃え続けるとされています。( ↓ 動画参照)



ある火事では、通報から3分以内に消防隊が到着し、普通の火事なら何事もなく消火できたはずなのに、火の勢いが激しく、1階のガレージが火にまみれ、居住者は脱出しようがなかったそうです。集合住宅に限らず、一軒家でも、逃げるチャンスがほとんどない火災も報告されているのです。

昨日までなんともなかったのに、ある日突然発火し、爆発的に燃えて逃げる間もなく焼死してしまうのです。集合住宅の隣近所から火が出て、大火災に巻き込まれないとも限りません。バッテリーによる火災が増えていることに、危機感や怖さを感じる住民が増えるのも当然でしょう。

背景に、バッテリーに対する安全規制の緩さを指摘する専門家もいます。このことは、ニューヨーク市当局も把握しており、ニューヨーク市長は先日、電動自転車製品の安全に関する一連の法案に署名しましたが、同様の規制は、アメリカではまだ始まったばかりで、対策が追い付いていません。

New YorkNew York

名前もよく知らない海外のメーカーから、ネット通販などを通して、直接消費者に格安な電動自転車が届く時代です。規制が容易でないのは明らかです。市民が、より高品質の自転車を購入できるよう、補助として払い戻しをする制度も検討されていますが、どの製品を指定するかだけでも簡単ではありません。

通販サイトやネットオークション、フリマサイトなどでは、違法な充電器などが売られていることも判明しています。正規のものでなけれぱ危険が生じます。さらに、偽ブランド品とか、正規のバッテリーの模造品、違法に改造された安い中古品なども流通しており、買ってしまう人もいるはずです。

正規のものであっても、後から不具合が見つかり、発火の危険があるケースもあります。日本でも以前、正規の電動アシスト自転車のバッテリーに不具合があり、大規模なリコールが行われたことがあります。完全に回収され、交換などの対策が行き届けばいいですが、漏れるケースもあるに違いありません。

New York北京

都市部ならではの要素もあります。ニューヨーク市の場合、フードデリバリーの配達員として働く人が大勢いるのですが、相対的に貧しい人が多く、競争も激しいので、他の仕事の平均賃金以下しか稼げないそうです。これでは安全基準を満たした正規品でないバッテリーに手を伸ばす人が多いのも、容易に想像がつきます。

フードデリバリーの、Uber 社は配達員は個人事業主だとして、その待遇改善に必ずしも熱心とは言えず、労災の適用などでも争ってきました。ところが、この問題はニューヨーク市の社会問題になりつつあります。同市の配達員向けに、より安全な自転車に買い替える、電動自転車買い戻しプログラムへの資金提供を表明しています。

バッテリー自体にも問題が潜んでいます。手のひらに乗るようなスマホのバッテリーであっても、発火して爆発したら、クルマの窓くらい吹き飛ばすほどの力を生み出す可能性があります。もちろん、必ず爆発するわけではありませんが、より大きく、充電量の多い電動自転車のバッテリーは、よりリスクが高いとも言えるでしょう。



さらに、最近の電動アシスト自転車は、長い航続距離を競う傾向があります。でも、載せられるスペースには限りがあります。すると、充電池は高密度にならざるを得ません。同じ体積、あいるは重量あたりの電力量を増やすためには、エネルギー密度の高さが必要となり、それは相対的に可燃性が高くなることでもあるのです。

リチウムイオン電池は、複雑な化学的構造を持っているため、発火や爆発の可能性を秘めた複数のリスクがあり、単純な原因だけでないと言います。窓辺に置かれていて、太陽光などで温度が上昇しただけとか、衝撃が加わっただけで、後から発火することもあるそうです。

電動スクーターで走行中、道路の段差を越えたはずみにバッテリーが外れて飛び出してしまい、歩道にぶつかっただけで爆発し炎上した例もあります。住宅火災などで、激しく燃えてしまうため、バッテリーが発火元なのは確かでも、はっきりとした出火プロセスが解明できない場合も多いと言います。

LondonLondon

バッテリーによる火災で、目に見える火がすべて消され、鎮火したと思われてからまた燃え出すことも、よく知られています。それが、数分後とは限らず、数時間後だったり、ときには数日後に、前触れもなく再発火する場合もあるというのですから驚きます。

改造品や非正規のバッテリーは扱っていないはずの自転車店で、いずれかのバッテリーが発火し、ショップごと焼失してしまった例も報告されています。電動自転車のバッテリー火災は、消火も原因究明も難しく、とても厄介なのは間違いなそさうです。

これは、当然ながらニューヨークたけの話ではありません。ロンドンやシドニー、北京など各地で懸念が広がっています。ロンドンの消防士は、わずか1年余りの間に150を超える電動自転車や電動スクーターのバッテリーによる火災に出動を余儀なくされています。

Philippin

日本では、あまり電動自転車などのバッテリー火災は聞きません。ただ、各地の消防はリチウムイオン電池製品からの出火に注意を呼びかけています。あまり大きく報じられませんが、中には保管していた盗難自転車から火が出て、警察の車庫が全焼したなどの例もあります。ボヤも含め、起きていないわけではないようです。

一時、モバイルバッテリーが発火し、火傷を負ったなどの報道が相次ぎ、粗悪な製品は排除される方向なのかも知れません。ただ、日本でも電動キックボードなども含め、新しい製品は増えており、中古品や粗悪な製品が流通する余地が広がっています。室内保管でなくても、バッテリーを部屋に持ち帰って充電する人は多いでしょう。

アメリカなどでは、中古バッテリーの販売を禁止すべしという意見もあるようですが、日本ではフリマアプリなどで普通に売られています。盗難と換金を防ぐために禁止したほうがいいと思いますが、安い中古を求めるニーズもあって簡単ではないのでしょう。ここにも危険は潜みます。

SydneyNew York

完全に充電されたらプラグを抜くなど、注意書きに従うとか、専用の充電器以外は、例え使えても使わないとか、バッテリーの寿命が来ても普通ゴミとして捨てない、同じ製造したメーカーから新しいバッテリーを購入するなど、基本的なことを守るのは必要でしょう。

当然ながら、容量を増やすなどの改造をしない、バッテリーから異臭がするとか、正常に終了しないなど異常が認められるのに、そのまま使い続けることは避ける、中古のバッテリーの購入はしない、新品で安かったとしても、正規の販売ルート以外から買わないなども求められると思います。

さらに言えば、なるべく眠っている間は充電しないとか、万一発火した場合、出口へのアクセスを妨げる場所で充電しない、などの注意も必要かも知れません。バッテリーを落としたとか、転倒した、ぶつけた、といった場合は見た目に問題がなくても、内部にショックが加わって、後になって発火する可能性に注意すべきです。

せっかく便利でラクな電動アシスト自転車にしても、バッテリー関係の不注意で命を落としたら元も子もありません。日本では、あまり報道されていないとは言え、全くないわけではなく、今後増えていかないとも限りません。あらためて気をつけたいところです。







◇ 日々の雑感 ◇

また首相の選挙応援演説中に爆発物が投げ込まれる事件が発生しました。選挙活動を制限するわけにはいかないとしても、街頭演説の場合は防ぎきれないこともあるでしょう。選挙スタイルを見直すのも必要かも知れません。

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