道交法改正で自転車のヘルメット着用の努力義務化がスタートしたのも4月1日でしたから、同じく1ヶ月と10日が経ったわけです。これだけ日にちが経ったにもかかわらず、ここ最近の自転車関連のニュースの中には、依然としてヘルメット着用に関するものが目立っています。
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これはその一部ですが、道交法改正から40日も経って、未だにこれだけ報じられるのは異例と言えると思います。少なくとも、これまでの道交法改正では、これだけ長く同じテーマが報じられることはなかったと思います。なぜ、これだけヘルメット着用関連が報じられるのか、少し不思議な感じもします。
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これらなどは、自損事故や職務質問のニュースであり、ヘルメット着用とは直接関係ありません。わざわざこじつけてニュースにしたようにも見えてしまいます。いずれにせよ、異例の取り上げ方ではないでしょうか。市民の関心のピークはとっくに過ぎていると思えるにもかかわらずです。
警察が記者クラブなどを通じて、よほどプッシュしているのかと、穿った見方もしたくなります。なぜ、これだけヘルメット着用関連のニュースが報じ続けられるのか、理由はわかりません。これまでの、自転車の原則車道走行化など、もっと大きな改正と比べても長すぎる気がします。
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行政も、ヘルメット購入助成など、道交法改正と警察の啓発強化に足並みを揃えたような政策を打ち出しています。これを契機に着用率を上げたいという意図があっての施策でしょうけど、40日も経って報じ続けられることには違和感を感じざるを得ません。警察や行政などから、それだけ働きかけがあるのでしょうか。
ビートたけし、自転車のヘルメット着用努力義務化にチクリ 「道路を整備しろよ!」
7日放送のテレビ朝日系「ビートたけしのTVタックル」(日曜正午)では、4月1日から法改正により努力義務化された自転車のヘルメット着用について討論した。
タレント、ビートたけし(75)は「自転車のヘルメットを言う以前に道路を整備しろよ! 車道だか歩道だか、どこだか分からない所を自転車で走ってきて、ヘルメットをかぶりなさいって言ったって、一番けがするのは自転車にぶつけられた通行人の方じゃないか」と苦言を呈した。
タレント、大竹まこと(73)も「たけしさんのおっしゃったみたいに、道はどうなってるんだ。俺の走ってる環七とか井ノ頭通りとか本当に危ない。行政はこの狭い日本の道をどうするか何にも触れないで、俺たちだけの方に義務を課す。行政は道をちゃんと整備して走っていい場所、いけない場所を作るべきじゃないの」と強く訴えた。
タレント、東国原英夫(65)は「この数十年、都市計画は間違っていましたよね。最近になって地球環境のためとか、健康のために自転車を奨励したのにインフラの整備が間に合っていないですよね」と指摘した。(2023/05/07 サンスポ)
ビートたけし、自転車のヘルメット努力義務化に異論 「1番怪我をするのは通行人」
私が共感するのは、むしろこちらのニュースです。タレントのビートたけしさんらによるテレビ番組での発言を取り上げた記事です。私も、今回のヘルメット着用の努力義務化については、改正前から再三意見を書いてきましたが、「自転車のヘルメットを言う以前に道路を整備しろよ!」というのは、それに近い意見です。
ヘルメットをかぶることについては否定されるものではありません。ただ、それは自分で決める話です。行政や警察が啓発するのはいいとしても、交通事故やそれによる死傷者を懸念するならば、もっと他にやるべきことがあるはずで、ヘルメット着用に力を入れるのは、違うだろうと感じるわけです。
穿った見方をすれば、警察や行政は、自転車事故による死傷者が減らないことについて、自らの怠慢を隠すため、ヘルメットのせいにしようとしているようにも見えてしまいます。ヘルメット着用などは個人が考えることで、警察や行政は、事故が起きないようなインフラ整備や、危険な道交法違反を減らすことに注力すべきです。
ヘルメット購入の補助も、もっと根源的なことに予算を使うべきです。仮に、これまでよりヘルメットの着用者が増えても、事故死者がそれに応じて減るとは限りません。以前も取り上げましたが、自転車用のヘルメットでは、自転車との事故による死亡を防げないとする研究が、世界的に多数発表されています。
それでも、日本ではヘルメットを着用した人のほうが、死傷する率が低いなどのデータが示されます。しかし、これは疑ってかかる必要があります。日本でヘルメットを着用しているのは、ほとんどがロードバイクなどの利用者でしょう。圧倒的多数を占めるママチャリで着用している人は、ほとんど見ません。
つまり、趣味でスポーツバイクに乗るような人は、交通ルールや路上での危険、自転車の特性などを理解しており、ママチャリで交通ルールを守らずにデタラメに乗っている人よりも、深刻な事故に遭いにくいという可能性があります。詳しいデータもとられていませんし、単純にヘルメットのおかげとするのは疑問です。
海外の研究では、路面に擦られた場合に耳を保護する効果くらいで、ヘルメットに死亡を防ぐ効果はないと断言する研究者も少なくありません。乗っている人の安心感はあったとしても、実際に事故が発生した場合に、非着用との違いは少なく、義務化する意味がないとの結論から、義務化を廃止するところも出ているのです。
もちろん、事故の形態などにもよるでしょうが、クルマとの事故で致命傷を負うような衝突の場合、自転車用のヘルメットでは、防げないというのです。致命傷となるのは、脳震盪や内出血を起こさせるような脳の内部への衝撃であり、それは防げないとしています。
もし、そうだとするならば、ヘルメット着用を努力義務化しても効果は見込めないことになります。それより、警察や行政は、事故を防ぐことに注力すべきだと思うわけです。個人がヘルメットを着用するのはいいとして、警察が努力義務などにして着用率アップに力を入れるのは、見当違いの努力である可能性があるわけです。
そもそも、ヘルメットは事故に遭った場合の被害軽減策に過ぎません。例えば、クルマの排気ガスで大気汚染や沿道住民の健康被害が出ているなら、当然ながらクルマの排出の問題を解決すべきです。それを市民にガスマスクをさせることが解決策のように進めるのはおかしいでしょう。ヘルメットもそれと同じです。
問題はクルマと自転車の事故です。加害者となるクルマの問題から目をそらさせ、ヘルメット非着用が問題と世論誘導するかのような報道攻勢にも違和感があります。ヘルメット着用の有無ばかりにスポットをあて、問題の本質から関心をそらさせようとしているように見えてしまいます。
私は、事故の根源にあるものは、自転車行政の決定的な失敗、すなわち自転車の歩道走行にあると思っています。モータリゼーションの時代に、緊急避難だったにせよ、自転車に歩道を走らせるという世界でも稀な失策を行ってしまい、それを戻すことなく半世紀以上きてしまいました。
結果として自転車利用者は、車道だろうが歩道だろうが、お構いなしです。逆走や信号無視も当たり前、ルールなど守るどころか、ルールを知らない人が大勢います。結果として自転車の走り方が無秩序になり、危険が発生し、クルマとの事故も起きています。日本独特の自転車の歩道走行が諸悪の根源だと思います。
もし、仮に自転車の利用者が、原付バイク並みに交通ルールを守って走行するようになれば、事故は大幅に減るに違いありません。自転車も本来は車両であり、車道をルールに従って走行するのが当たり前です。そこを曖昧にしてしまった結果が、この自転車走行の無秩序と、ルール無視になっています。
多くの日本人は、自転車は歩道を走るものだと思っています。歩くことの延長のような感覚です。ですから、逆走とか、一時不停止、信号無視、道路の斜め横断なども歩行者感覚です。つまり道交法を守るという感覚がありません。それがルール無視の危険な走行になるわけです。
これを正さない限り、自転車の事故は減らないでしょう。世界的な常識として至極当然の話ですが、自転車を本来の車道走行に戻し、それを徹底すべきなのです。この元凶をそのままにして、事故防止も死傷者減少もありません。ただ、半世紀も歩道走行で来てしまった結果、車道に自転車の走行空間が足りなかったりします。
多くの人が生まれてこの方、歩道走行だったので、車道走行は怖いと感じるのも無理ありません。ですから、まず道路の整備が必要です。インフラを整備して、自転車走行空間を確保した上で、車道走行の徹底を図れば、自転車の走行にも秩序が生まれ、交通ルールも守られるようになるでしょう。
よく、日本の道路は狭いとか、自転車走行空間がとれないなどと言う人がいます。しかし、ヨーロッパの道路も決して広くはありません。これまで長い間、歩道走行させてきてしまったため、歩道ばかり広げてきたのも事実でしょう。歩行者は少ないのに無駄に広い歩道もあります。
自転車走行空間を確保することは可能です。それが出来ないと考えるのは、これまで一貫して、クルマ優先の考え方で来てしまったからです。歩道を削ったり、足りなければ車道を削って、自転車レーンにすることも出来ます。近年、欧米ではクルマ優先ではなく自転車や歩行者優先にシフトしている都市はたくさんあります。
まず考え方として、クルマが優先、効率第一をやめればいいのです。それよりも人間の命が優先です。そして環境負荷を考えて、都市部へのクルマの流入を減らし、渋滞を少なくし、むしろ自転車で走りやすい都市にするというのが、先進国のトレンドになりつつあります。
考え方を変えれば、自転車の走行空間など十分に確保できるはずです。それにより、原則車道走行に戻します。今までのような歩行の延長のような感覚を改め、人々が車両として乗るようになれば、秩序が形成され、ルールは自然と守られるようになります。守ったほうが走行しやすいからです。
そのようになれば、自転車のクルマとの事故も減り、死傷者も減るでしょう。こういう本来やるべきことを置いて、ヘルメット着用ばかりに力を入れるのはナンセンスです。まったく、見当違いのことに力を入れているように見えるのは私だけでしょうか。
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放置自転車についても、行政の考え方として間違っている自治体があると思います。いくら撤去しても、イタチごっこです。移送されても引き取りにさえ行かないのは、どうせ、すぐまた撤去移送されると思って格安な自転車を買うからでしょう。ですから、徹底しても撤去しても、放置自転車はなくなりません。
放置自転車が迷惑なのは、利用者も理解しているでしょう。しかし、そこに駐輪するニーズがあるからとめるのです。撤去移送では解決になりません。市民のニーズを踏まえ、必要な駐輪場を整備して、そこにとめてもらうように誘導するしかありません。さらに駐輪して最初の2時間は無料など、利用しやすくすべきです。
鉄道駅の数など、自治体によっても違うと思いますが、東京では各区や各市ごとに、毎年億単位の予算で撤去移送しています。そのお金を駐輪場設置に充てるべきでしょう。撤去移送に毎年多額の予算を計上するのは無駄です。もっと建設的なお金の使い方をすべきです。
これも、土地がない、地代が高いなどと言う話になりますが、出来ている自治体もあります。東京の区部でも、例えば地下を利用するなど、インフラ投資をすることで、毎年の経費としての撤去移送費という無駄を減らしている区もあるわけで、考え方次第でしょう。
撤去移送のイタチごっこを長年繰り返しているのは無駄の放置であり、経費の垂れ流しです。移送業者などとの癒着を疑われてもおかしくない話です。放置自転車は迷惑で目障りだから撤去という凝り固まった、利用者の立場に立っていない考え方を、まず変えるべきでしょう。
放置自転車を目の敵にする自治体は少なくありません。市民は自転車に乗るな、少しの距離は歩けと広報する自治体まであります。そうではなく、地方自治は本来、そこの住民の意思に基づいて行うべきものです。駐輪のニーズがあるなら、それを満たすべきであり、撤去移送を繰り返すだけでは無能の誹りを免れないでしょう。
◇ ◇ ◇
自転車行政については、ヘルメット着用の努力義務化も、歩道走行の問題も、放置自転車の撤去移送も、どれも根本的な部分で間違っているように思います。そして、お上の言うことに黙って疑いもせずに従うのではなく、違うところは違うと、もっと市民は声を上げるべきではないでしょうか。
◇ 日々の雑感 ◇
8日の銀座の強盗事件、最近同様の粗暴な犯行が相次いでいますが、なんとか歯止めをかけてほしいものです。