May 13, 2023

速度を落としたらうまく行く

年間30万件を越えています。


日本における交通事故の件数です。2021年には30万5196件発生し、死者数2636人、負傷者は36万2131人となっています。やや減少傾向にあるとは言え、まだまだ多くの事故が発生しています。他人事としては単なる数字ですが、それだけ多くの人やその家族に大きな災難が起きているわけです。

原因はいろいろあります。信号無視などの交通違反、安全の不確認や脇見運転などの過失、漫然運転や運転操作不適といった項目が並びます。その中で、スピード違反は交通事故の直接の原因にはならなかったとしても、重篤な結果をもたらす誘因になることは否定できないでしょう。

Photo by Glenkoorey,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.Photo by Pacopac,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

スピードの出し過ぎによってハンドル操作を誤ったり、被害者や被害車両の発見が遅れたり、危険の回避行動が間に合わなかったり、ブレーキをかけても制動距離が伸びてしまったり、さまざまな形で事故の原因やその結果に関わってくるはずです。

歩行者がクルマによる事故で死亡する確率は、衝突速度に応じて増大することがわかっています。時速30km/h で走行する車両にはねられた歩行者の90%は生存しますが、時速50km/h で走行する車両にはねられた場合の歩行者の生存率は20%に低下することが調査によって判明しています。



運転手の視野がスピードによって狭くなることもわかっています。高速道路では、かなり先を見て運転することになると思いますが、スピードが速くなるにつれ、視線の中心に近い範囲しか目に入らなくなります。それだけ速いスピードでは危険の発見・認識能力が低下することになるわけです。

つまり、事故原因にはスピードの出し過ぎが関わっている可能性が高く、もっとスピードを落としていれば事故を回避できたり、起こしてしまっても重篤な結果につながらないことになります。それだけスピードを出し過ぎないことは重要な要素なのは間違いありません。

時速30キロKalitec
(出典:内閣府)

クルマのスピードが時速30km/hを境に、衝突された歩行者が死亡する確率が急上昇することも、過去の事例から明らかになっています。ですから、日本だけでなく世界的に時速30キロ以下が有効とされており、速度規制やゾーン30などが行われているのです。

ゾーン30とは、生活道路における歩行者や自転車の安全な通行を確保することを目的とした交通安全対策の一つで、ヨーロッパの都市でも広く指定されています。 区域(ゾーン)を定めて時速30キロに速度規制するとともに、その他の安全対策を必要に応じて組み合わせ、ゾーン内のクルマの走行速度や通り抜けを抑制します。

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日本でも都市部や住宅地などにゾーン30指定をしている地域があります。ゾーンとして指定していなくても、生活道路などを中心に、時速30キロの制限速度を設定している道路は多いでしょう。時速30キロ以内なら、事故は減るはずですし、重篤な結果も防げる可能性が高くなるからです。

しかし、実際には時速30キロ以下に速度規制していても、守っていないドライバーは多いのが現実です。警察はスピード違反の取締りや、オービスなどの機械による検挙も行っていますが、取締りが行われている場所だけスピードを落とす人が多いのも確かです。大きくオーバーしていない限り検挙されないのも事実でしょう。

ゾーン30ゾーン30

道路がすいている時くらい、スピードを出したいというドライバーは少なくないでしょう。気づかないうちに速度が出てしまっていたり、道がすいているのに制限スピードで走るのがイヤな人も多いはずです。そして、このスピード規制が遵守されないというのは、多かれ少なかれ行政側の悩みでもあります。

そんな中、新しい取り組みを始めた自治体があります。カナダのケベック州のプロサール市です。新しいタイプの信号機をスクールゾーンに設置しました。これは、走行してくるクルマの速度を検知し、時速30キロの制限速度以上出ていると赤のまま、制限速度以内だと信号は青に変わるというものです。

FredFred

30キロ以上のクルマを止める役割を果たしてもいる一方で、制限速度以下で走っていれば、信号は青になって、止まらずにスムーズに進行できます。看板でそのことを表示してアピールしています。スピードを出して信号で止まるより、制限速度以下のほうが早く行けるというわけです。

同じようにクルマのスピードを検知して作動する自動速度取締り装置がムチだとしたら、こちらはアメということになるでしょうか。もちろん、ケベック州でも自動速度取締り装置は設置されており、速度超過や信号無視を検知すると罰金が科せられるシステムになっています。

FredFred

今まではムチばかりだったわけですが、発想を変えてアメを導入してみたことになります。まだカナダ政府としては採用していないので、これは先行テストということになります。ヨーロッパでは似た装置が使われてきた実績があるようですが、カナダでは初めての試みだと言います。

まだテスト期間中ですが、試験が始まる前の当該の通りの平均速度は時速40キロでした。それが試験期間の1週間の平均速度は、時速29キロに低下しました。見事に速度を落とさせることに成功しています。なるほど、言われてみれば簡単なことで、なぜ今まで広く普及していなかったのか不思議なくらいです。

FredFred

この信号は、Kalitec 社という、長年信号機をはじめとする交通関係の装置をつくってきたメーカーのもので、“feu de ralentissement educatif(Fred)”教育型停止信号と呼んでいます。ちなみに、接近するクルマのナンバーなど個人情報は収集しません。速度を計測するだけです。

スピード違反の罰金も効果はあるでしょうけれど、それは事後に過ぎません。後から通知が来て、罰金を支払い、懐の痛みを感じてからの効果ということになります。一方この信号は、事前にスピードを落とさせる効果があるわけで、その点で優れているとプロサールの市長も話しています。

FredFred

いまのところ、この信号は交差点などでの交通を制御する信号としては使えません。交差点では、スピードを出して接近してきたからと赤にしたり青にしたり出来ないでしょう。交差点ではない一本道のような場所に設置し、スピードを制御させる目的用となっています。

これは、どこの国や地域でも有効なのではないでしょうか。スクールゾーンや住宅地の細い道が抜け道として利用されるなど、住民の安全が脅かされているような場所への設置が特に望まれます。歩行者の危険など考えず、速度規制標識を無視してスピードを出すドライバーでも、信号無視は、しにくいはずです。



日本でも是非導入すべきでしょう。市街地全域にとは言いませんが、通学路や住宅街など、時速30キロ制限にするような場所では、この信号を配置することで、実効性を伴う形で平均速度の低下が期待できるに違いありません。速度を測定して信号を変えるだけなら、それほど高度で新しい技術も必要ないはずです。

クルマに乗ると、どうしても速く走りたい、少しでも早く着きたいと無意識にでもスピードが上がってしまうドライバーは多いでしょう。ドライバーの立場からすれば余計で、癪に障る信号かも知れません。しかし、それは結果として、ドライバーのメリットにもなるはずです。

通学路や住宅街などで交通事故の加害者にならずに済んだり、もし歩行者や自転車と事故を起こしてしまった場合でも、相手が死亡にまで至らないなど重大な結果を避けられる可能性が高くなります。速度を遵守していれば、赤信号にならないわけですし、これはドライバーにとっても合理的な交通事故対策なのではないでしょうか。




◇ 日々の雑感 ◇

首都圏などでは、ここのところ週末のたびに雨が降っています。自転車で出かけられずストレスをためている人も多いかも知れません。天気は3.5日の周期で一巡りすることが多いそうで、そのパターンになっているようです。

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