アメリカ西海岸にサンディエゴという都市があります。
カリフォルニア州でロサンジェルスに次いで人口の多い大都市です。米国でも多くの州で5月は自転車月間とされていますが、その中で物議を醸す出来事がありました。サンディエゴ市が、ホームレスの人たちの自転車を勝手にゴミ収集車に投げ込み、廃棄する映像がSNSで広まったのです。
サンディエゴで、ホームレス支援活動などをする、
Michael McConnell さんが投稿しました。黄色のベストを着た市の職員らが収集車に投げ込んでいる自転車は、壊れたり廃棄されたものではなく、十分に新しく使えるものに見えます。それをその場でスクラップにしている形になっています。( ↓ 動画参照)
当該のホームレスの人に対し、撤去まで3時間の猶予が与えられることになっていますが、実際には1時間も経たずに警察官が来て、撤去が始まることになります。何かの理由で、少しその場所から離れていただけで、戻ってきたら自分の荷物が跡形もないこともあります。
サンディエゴ市長や市議会に対し、理由もなく貧困層から自転車を奪ったとして、一部の市民から激しい批判の声が上がっています。ホームレスの人にとって、寝床となるテントなども必要なものでしょうが、自転車は唯一使うことの出来る貴重な移動手段として、彼らにとっては死活的に重要な場合もあります。
つまり、自転車を何らかの生計を立てる手段として使っていたり、仕事に行くために唯一の手段だったりするわけです。一般市民にとっても身近な交通手段として活用されますが、ホームレスの人にとって、なくなると場合によっては生活が崩壊しかねない貴重な所有物だったりするはずです。
それを彼らの生活の場所から、有無を言わさず撤去し、その場でスクラップにしているように見えるわけですから、市民から非難の声が上がるのも当然でしょう。あまりに無慈悲であり、弱いものイジメと見られても仕方ありません。行政がやることかと憤る人がいるのも無理はありません。( ↓ 動画参照)
市長の、
Todd Gloria 氏が同日、ホームレスの居住区域から516トン以上のゴミを撤去したと、その成果を誇るような投稿をしたことも、市民の神経を逆なでしたのかも知れません。このあたり、キリスト教の国ということもあって、余計に憤る市民も多かったのでしょう。
中には、収集車で、その場でスクラップにしなくても、リユースしたり部品として再利用するなど環境への配慮がないことを指摘し、非難する人もいます。少し論点は違いますが、確かにまだ使える自転車をわざわざ廃棄せず、資源を大切にする視点が、せめて持てなかったのかという意見もわかります。
一方で、市のとった措置にも理由があります。ホームレスの人々の持ち物は、公共の場所を不法に占拠しています。人々の通行を妨げたり、地域の治安を悪化させたりもするでしょう。ホームレスの人の人権も大切ですが、影響を受ける近隣の住民や関係者の権利を侵害しているのも確かです。
生活する上で不便を強いられたり、商店やレストランなどは売り上げにも響くかも知れません。観光客が減るなど地域経済への影響も無視できません。第三者から見れば酷い措置に見えますが、その地域で暮らしている当事者にしてみれば切実に解決してほしいことかも知れません。
甚大な影響を受けている人にしてみれば、行政に抗議し、不法占拠に厳正な措置を求めるのも当然でしょう。人道的な対応も求められますが、違法ですし、その人たちだけに不法行為を認めるわけにもいきません。市が撤去などの強制措置を講じるのは、彼らの仕事であり、当然の責務ということになるでしょう。
アメリカでは、ホームレスの人が増加していると言います。コロナ禍で職と住む場所を失い、苦境に陥った人もいます。シリコンバレーなどでは住居が不足し、高給のIT関係の従事者のあおりを受けて家賃が高騰し、職があってもホームレスにならざるを得ない、ワーキングホームレスという人々が出ている地域もあります。
公共の場所の不法占拠を黙認していると、どんどん流入が拡大してしまい、収拾がつかなくなる事態も起きています。行政としては、一部のホームレスの人たちの人権だけに配慮すると、公共の秩序が保てず、多くの市民への影響を無視出来ないのも事実なのでしょう。苦しい立場です。
今回はSNSにアップされた動画で目立ってしまい、同市に非難が向かいましたが、基本的にはサンディエゴ市に限ったことではないはずです。日本でも、不法占拠者に対して強制代執行が行われたといったニュースが報じられることがあります。アメリカだけのことでもないでしょう。( ↓ 動画参照)
日本では、ホームレスの人が減少傾向にあるとされます。でも、それは見える形でなくなってきているだけで、屋外ではなく、ネットカフェを利用するなど形態が変化していることもあって、ホームレスの人が必ずしも減っているとは限らないとの指摘もあります。
解雇されて仕事と会社の寮などの住む場所を同時に失い、思いもよらず突然ホームレスにならざるを得ない人もいます。不慮の事故による怪我や病気などで働けなくなり、身寄りがないなど、生計が立てられなくなる人もいます。ホームレスの人が減るとは限らない状況があります。
行政やNPOによる自立支援や、生活保護を申請させるなどの対応も行われています。それらの措置が行われていけば、いずれゼロになる気もします。しかし、実際には支援を拒否する人もいます。日本では、各種団体による炊き出しや、期限切れ食品の提供などで餓死するようなことは無いからだと言います。
働くより、それらを利用してホームレスとして生きることを選ぶ人もいるわけです。生活保護が受けられることを知らずにいる人もいる一方で、生活保護を受けたくないと拒否する人もいると言います。自立支援や生活保護があっても、ホームレスの人がゼロにならない現実があるようです。
ホームレスの人の不法占拠や、屋外で暮らす人を無くすといっても一筋縄ではいかず、容易ではないことがわかります。ましてや日本より経済格差が大きく、貧困や人種差別、薬物やアルコール中毒、メンタルヘルスや家庭内暴力、インフレなど経済環境もあってホームレスの人が増えているアメリカでは余計にそうでしょう。
ただ、ホームレスの人たちにとって、自転車が死活的に重要な役割を果たす場合があるのも確かです。途上国だけでなく、アメリカ国内で、自立のために自転車を支給する活動をしているNPOもあります。たかが自転車ですが、これを使うことで貧困から抜け出る人も少なくないのです。
ホームレスの人の自転車を奪い、使える自転車を廃棄処分にすれば、窮地に陥らせ、また入手する必要も出るでしょう。ホームレスの人が直接窃盗を行うとは言いませんが、安価な中古品のニーズを増やし、自転車を盗んで売りさばく窃盗犯を増やす背景にもなりかねません。
サンディエゴ市の措置を一方的に非難することは出来ないでしょう。行政として、不法占拠の排除も仕方ない面があるのも間違いありません。難しい問題です。ただ、出来ることならば、彼らの自転車を取り上げたり、その場でスクラップにするような対応は、見直せないものかと思ってしまいます。
◇ 日々の雑感 ◇
G7広島サミットが近づいてきました。過去には開催地でなく首都がテロに見舞われた例もあり緊張が高まります。
Posted by cycleroad at 13:00│
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