歩くより速く、渋滞に悩まされることもなく、一人ひとりで移動できて小回りがききます。環境にもいいですし、運動不足解消や健康増進にもなります。ガソリン代は不要で、ストレス解消にもなるなど、便利なだけでなくメリットもたくさんあります。快適な移動手段ですが、一方で不便なこともあります。
その一つが駐輪です。海外では、日本と駐輪事情が違い、街角に駐輪して油断しようものなら、あっという間に盗まれてしまう都市は少なくありません。日本のママチャリのようなタイヤをロックするだけの馬蹄錠はナンセンスです。しっかりと固定物にワイヤー錠やU字錠などで厳重に施錠する必要があります。

細いワイヤーなどなら、簡単に切断されてしまいます。驚くほど太い鎖を使ったり、大きくて頑丈なU字錠などを使うのが当たり前です。わざわざ前後輪を外してフレームと併せてロックをし、タイヤだけ盗まれるのを防ぐ人も少なくありません。日本とは自転車盗環境が全くと言っていいほど違うのです。
移動がスムーズで快適なため、スポーツバイクに乗る人も少なくありません。最近は電動アシストも増えています。比較的価格の安いシティサイクルだったとしても、盗まれたらそこからの移動に困ってしまいます。日本のように格安のママチャリを適当にとめ、下手をすると施錠もしないなんてことは考えられません。

街に出かけて散策したり、ショッピングをするにも自転車は便利で利用する人は増えていますが、盗難に遭うリスクを意識する人は少なくありません。そんな中で、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のバンクーバー市は、この夏を通して、新たな駐輪サービスを実施することにしました。
それは自転車用の“valet parking”です。バレットパーキングとか、バレーパーキングと呼ばれる駐車サービスがありますが、その自転車版です。ホテルやレストランなどで正面入り口に乗り付け、クルマのカギを渡して引換証をもらい、係員に離れた場所にある駐車場にとめておいてもらうサービスです。

自分で駐車場にクルマをとめて、入り口まで歩いて戻るのは面倒ですので、施設にもよりますが、欧米などでは一般的に普及しているスタイルです。日本でも取り入れているところがあります。係員が責任を持ってクルマを預かってくれるサービスなのですが、その自転車版です。しかも無料、料金はとりません。
バンクーバーのダウンタウンエリアの、グランビルストリート、ジョージアストリートなどに設置され、この夏の間はずっと稼働します。ダウンタウンへ買い物に来たり、観光に来た観光客などには、とても便利な場所に配置されており、利便性の高いサービスとなっています。

ダウンタウンは、バンクーバーに限らず、都市や大きな街の中心地域です。元々はニューヨークの街が由来で、日本の「下町」とは意味が違います。街の中心地区、ビジネス街やオフィス街、繁華街です。昔からの街の中心で、古い街並みが残っていたり、区画が細かく、道が細く、小さな商店が立ち並んでいる場所も多いでしょう。
ですから、後から設置された大型のショッピングモールなどのように、全体としてのインフラが充実しているとは限りません。大型の駐輪場などが設置されているわけではないのです。公共の駐輪場も整備されているとは限らず、自転車で散策するのに、駐輪場所に困ることも多いわけです。

もちろん、各店舗の前には2〜3台の自転車をとめるスペースはあるかも知れません。しかし、その場所を長く占有するわけにはいきませんし、盗難のリスクもあります。人が多く集まる地区なら、駐輪スペースが足りなくなる場所もあるはずです。どこにとめられるか情報もなく、行き当たりばったりです。
そこで、この自転車用バレットパーキングです。ダウンタウンの中心の利便性の良い場所で自転車を預かってくれるので、安心して街を歩いたり、ショッピングをしたり、食事をしたり出来ます。しかも無料で何時間でも預かってくれます。これは近郊から来る住民も、国の内外から来る観光客にも、嬉しいサービスと言えるでしょう。

自分で街角にとめるのと違って、人が預かってくれる安心感があります。サービス側も、保管場所さえ確保出来れば、駐輪場を建設するのと違って、すぐにオープンできます。夏の期間だけなど、臨時で設置するにも適しています。少ない人数でも、かなりの台数を管理できるはずですから、意外に人件費も少なくてすむでしょう。
このサービスを始めたのは、複数の団体のコラボレーションです。
バンクーバー市、“
BEST”、“
DVBIA”、“
Ride and Shine”といった団体が共同で参画し、そのうちの“BEST”が実際のバレットパーキングを運営します。地元のたくさん企業がスポンサーになっています。

“BEST”は、持続可能な交通・移動を促進してきた非営利団体であり、長い歴史を持っています。市民に自転車を使うことを促すことで、サスティナブルな交通体系を確立したいと考えています。実際の運営は“Bike+valet”が行いますが、ボランティアの人も多数参加しています。
“DVBIA”は、ダウンタウン・バンクーバー・ビジネス改善協会の略称です。バンクーバーのダウンタウンの中心、約90ブロックのエリアに住む7千人の人々、立地する企業・商店、不動産所有者などを代表する非営利団体です。バンクーバーのダウンタウンを活性化し、魅力的な街にするべく活動しています。

“Ride and Shine”は、バンクーバー地域の交通機関、“TransLink”が推進する キャンペーンで、この夏はカーフリーに挑戦します。自転車に乗ったり、歩いたり、公共交通機関を利用することで、温暖化ガスの排出量を削減するため、さまざまなオファーや特典を用意しています。
そしてバンクーバー市です。市での自転車の利用をさらに促進する環境政策としての取り組みであり、市の商業地区の活性化の試みであり、国の内外から観光客を呼び込む方策であり、市民サービスの充実でもあるのです。市にとって、一石何鳥にもなる政策として強力に推進しています。

これは市民や観光客にとっても、地元の企業や商店にとっても、行政にとっても、環境団体などにとっても、Win-Win が期待できる取り組みと言えるでしょう。なかなか上手い方法だと思います。もしかしたら将来、恒久的な施設としての駐輪場が建設されるかも知れませんが、その市場調査にもなりそうです。
ただ、一般的な公共の駐輪場施設より、係員が笑顔で自転車を預かってくれるバレットパーキングのほうが魅力的です。安心感も高いですし、観光客にしても、おもてなしされている感じがするに違いありません。ただ臨時駐輪場がオープンしただけでは話題にもなりませんが、これは耳目を集めるでしょう。( ↓ 動画参照)
日本では駐輪事情が違いますし、東京のような地下鉄の発達している街では、あまり需要もないかも知れません。ただ、自転車によって観光振興を図ろうとする都市、観光地などでは検討に値する方策ではないでしょうか。地下鉄などの公共交通が乏しい地区なら、自転車は有力な移動・回遊手段になるはずです。
かと言って、観光客に無造作に迷惑駐輪されれば、狭い路地では歩行者の邪魔になったり、歴史的な街の景観を損ねたり、何かと不都合も生じるでしょう。そして、臨時駐輪場にとめろと言うのではなく、係員が喜んで自転車を預かりますと言えば、印象も大きく違ってくるはずです。
せいぜい馬蹄錠しか使わないママチャリはともかく、スポーツバイクに乗ってツーリングに来るようなサイクリストであれば、盗難対策の充実の点でも集客効果が期待できるかも知れません。安心して歩いて観光したり、食事をしたり、お土産などショッピング出来たりします。
場所にもよると思いますが、そのようなサイクリング客を集客したい、アピールしたい都市や観光地ならば、一考の余地があるのではないでしょうか。観光客や買い物客の誘致、地域振興の観点から、地元の行政や関係者と共同で取り組んでみる手はありそうです。
◇ 日々の雑感 ◇
今年も水のレジャーのシーズンですが既に水難死亡事故も起きています。決して侮らないようにしたいものです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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