自転車の交通違反に対して反則金、いわゆる青キップの制度をつくって運用することの検討を始めるという報道です。2日ほど前から多くのメディアも報じています。以下はその一部ですが、各メディアがこぞって取り上げ、テレビでもニュースとなっていたので、ご存じの方は多いでしょう。
自転車にも「青切符」導入検討 交通違反で反則金も
自転車の交通違反に「青切符」を検討 事故、違反の増加で警察庁
自転車の交通違反に「青切符」 警察庁が反則金制度導入を検討
【解説】自転車の交通違反に「反則金」検討? 「罰金」との違いは… “拘束時間”の短縮にも期待
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自転車の交通違反に「青切符」検討 警察庁 事故増加で
警察庁が有識者会議を設置して検討し、年内に提言を取りまとめた上で2024年の通常国会への道路交通法改正案の提出も視野に進めるとなっています。今後の検討にもよりますが、このようなスケジュールまで視野に入っているということは、十分に実現する余地がありそうです。
道路交通法では、自転車は車両に位置付けられています。つまり、クルマやオートバイなどと同じであり、公道上で他の乗り物と共存して交通を担う主体の一つです。公共の秩序や円滑な移動を実現するために法令に従い、一定の義務を負い、場合によっては罰則を科されるのも、法律上は当然ということになります。

これまで、自転車の違反に対しては赤キップが適用されてきました。これは刑事罰として前科になる罰則です。軽微な違反として青キップで処理されるクルマやオートバイなどと比べて処分が重く不公平となり、警察の摘発の手間もかかるため、適用されるケースはごく限られてきました。
このため、違反の抑止として効果が上がっていないと判断されたようです。クルマと同じように青キップの制度を導入し、もっと広範に違反を摘発することで、交通違反行為の抑止として機能させ、交通安全につなげようという意向なのでしょう。こう考えたのは、理解できます。
SNSなどでも、自転車への反則金導入に賛成する声は少なくないようです。自転車を利用しない人には自然な感情でしょう。危険で傍若無人な自転車の走行が目に余るのは誰もが認めるところであり、そのような行為に腹を立てている歩行者やドライバーも多いに違いありません。

道交法を遵守して走行しているサイクリストにとっても、交通ルールを無視し、他の交通の迷惑をかえりみないような自転車利用者は、危険で迷惑な存在であり、安全上の脅威ともなります。そうした観点から反則金の導入を望むサイクリストも少なくないはずです。
ただ、問題もあります。今まで何故自転車に青キップがなかったかと言えば、本人確認の方法がなかったからでしょう。クルマの場合は免許証を提示した上で、その場で違反を認めれば刑事罰に問われなくて済みます。後で行政罰である反則金を納付するだけです。
いわば、運転免許証とセットで成り立っているのが反則金の制度とも言えます。自転車の場合は免許証がないため、現場でどのように本人確認するのでしょうか。赤キップの場合は検挙して交番に連れて行くなどして、本人確認を進めることも出来るでしょうが、それでは青キップになっても手間は変わらなくなってしまいます。
もし、自転車にも免許を導入しようという話ならば、私は反対です。膨大な行政経費がかかり、結局は我々が負担することになるのは自明です。法律的な正義は進められるかも知れませんが、それに伴う社会的なコストがかかりすぎてナンセンスです。事実、諸外国で自転車に免許制度など導入している国はありません。

クルマと比べて格段に多くの人が身近に使う手段としての自転車に免許が導入されれば、不便になったり、困ったりする人は広範囲に及ぶでしょう。自転車が気軽に使えることで、通勤や通学したり、駅まで移動したり、買い物に行ったり、仕事などで使っている人は大勢いるわけで、そうした面での影響も甚大です。
もう一つ指摘したいのは、自転車に免許を導入すると、警察官僚やOBに巨大な利権が発生することです。これはクルマの免許のことを考えても間違いありません。クルマの免許は必要としても、その制度を維持運営する中で、警察の巨大な利権となっています。
クルマの運転免許関係は利権だらけです。例えば交通安全協会、全国組織もあれば各都道府県ごとにもあります。その職員の多くは退職した警察官や警察官僚の天下りです。免許をお持ちの方なら免許更新の際に、あたかも義務かのように交通安全協会に加入を求められ、お金を支払ったことがあるのではないでしょうか。
実は任意で、まったく入会する必要はありません。入会しても何の意味もない証拠に、警察官で加入している人は皆無だと言います。さらに、こうした組織が運転免許講習などを独占受注しています。そして、5年ほど在職するだけで数千万円の退職金や手当等が支払われます。これらは利権のごく一部に過ぎません。

警察に限らず官僚は、自らの天下り先をつくることに熱心です。このため、各行政機関には関連団体などが既に無数にあります。警察官僚も、新たな利権が手に入るので、今回の自転車の反則金の導入を狙っていると言われても否定できないでしょう。国民の反発がなければ、また一つ獲得できると考えているはずです。
ですから、反則金の意義は認めるとしても、徴収の手段が問題です。もしかしたら、自転車の免許は新設せずに、マイナンバーカードを利用しようという話になるかも知れません。しかし現状では、国民にただでさえ不信感を持たれているマイナカードを利用するのも簡単ではないと思います。
個人情報の入ったマイナカードを自転車に乗るたびに携行することに抵抗を感じる人は多いはずです。マイナカードを持っていなければ携行の義務はないということになれば、それだけでマイナカードの取得を止めたり、返上したいという人は増える可能性があります。制度的に成り立つか疑問です。
私が一番問題だと思うのは、今のまま取り締まりを強化しようとするのは本末転倒ということです。そもそも自転車は車両であり、車道を走行するというのは世界的な常識、当たり前のことです。日本でもかつては自転車は車道走行をするのが当たり前でした。

ところが、戦後のモータリゼーションの急進行に伴う交通事故死者数の急増という事態を受け、昭和45年(1970年)に例外中の例外として、自転車が歩道を通れるようにしたのです。これが始まりです。さらに本格的に歩道を通らせるようにしたのが昭和53年(1978年)の道交法改正です。
当時、この非常識な政策に対する非難は多く、再三にわたって『これは緊急避難的政策である』との答弁がなされたと記録にあります。道路整備を急ぎ、すぐに本来の状態、すなわち車道走行に戻すはずでした。ところが、政府はそれを怠り、緊急避難を50年以上にわたって続けてきたのです。
人々も、歩道走行が当たり前のようになってしまい、政府や自治体まで、歩道上に自転車通行帯を整備するという非常識なことを行ってきました。ようやく、平成23年(2011年)になって、国土交通省や警察庁が、車道走行の原則に戻し、自転車レーンも車道に設置していくと方針を大転換したのです。

さらに令和元年(2019年)になって、運用の手引きが出され、遅々とした歩みではありますが、政府としても、自転車の活用ということを具体的に示し始めました。つまり、自転車の歩道走行は行政の怠慢以外の何ものでもなく、それが故に人々の自転車のマナーの悪さ、法令の無視という土壌をつくってきたことになります。
なぜなら、自転車に乗る人は歩道走行に慣れてしまい、歩行の延長のような感覚で乗ります。逆走だろが併走だろうが、はたまたスマホを見ながらであろうが関係ありません。歩くのと一緒ですから、進行方向も考えませんし、好きな場所で横断したり、平気で信号無視しますし、一時停止もしません。
歩く時に、いちいち道路交通法なんて考えていないでしょう。それと同じ感覚なので、歩道でスピードを出して歩行者の合間を縫うように走ったり、見通しの悪い交差点でも止まらなかったり、歩行者信号で横断したりと、全くルールに無頓着です。結果として無法で無秩序な、混沌とした状況になってしまったのです。
言ってみれば、この自転車の無法状態は、行政が50年以上前に自ら作り出した事態なのです。それを棚に上げて、無法状態を正すために反則金でどしどし摘発しますというのは、長いスパンで見たらマッチポンプと言われても仕方ありません。自分で招いておいて、取り締まりを強化するというのは筋が通らない話です。

何度も書いていることですが、行政はまず自転車の歩道走行を全面的に止めるべきです。今の歩道走行容認がルールを分かりづらくし、自転車を歩行感覚で乗らせる元凶となっています。まずこれを止め、半世紀以上に渡って間違ったままにしてきた自転車行政を改めるべきです。世界では当たり前のことです。
車道を車両として走らせ、左側通行を徹底、信号や一時停止を遵守させ、歩道を走行しないならば、今問題となっている、ほとんどの項目で改善できるはずです。ルールもわかりやすくなります。そのために必要なインフラは、仮設でもいいから早急に手当すべきです。半世紀も怠けたツケを払って予算を投入すべきです。
そうして、本来あるべき交通秩序の枠組みに戻した上で、必要に応じて取り締まるべきでしょう。歩道走行させなければ、歩行者との事故は大きく減るでしょうし、車道の左側通行を徹底すれば、逆走する人も大幅に減るはずです。あえて逆走すれば、走行しにくくて仕方ないので、秩序が出来てくるはずです。

車道を車両として走行するので、従う信号も明確になり、歩行者のように振舞いにくくなります。車両としての自覚が出来てくれば、一時不停止で飛び出すような無謀な行為も改められていくことが期待されます。本来あるべき姿に戻して、何をどう守ればいいか明確にした上で、必要ならば取り締まるべきです。
それが筋であり、逆に言えば、今のまま青キップを導入しても焼け石に水、暖簾に腕押しとなる可能性があります。歩行者との事故を防ぐためとは言え、歩道での暴走まで警察官が取り締まるのは大変です。違反者も多すぎます。本来の姿に戻した上でなければ、青キップを導入してもこの混沌とした状態が改善されない事態すら想定されます。
まず自転車の歩道走行という異常な状態を元に戻すのが先決であり、大前提です。道路行政の痛恨の失敗なのですから、まずそれを正さずに何をやるのかという話です。今後、設置されるであろう有識者会議、あるいは警察関係者が、本当に交通秩序を取り戻そうと考えるならば、この点が不可欠と心得るべきだと思います。
◇ 日々の雑感 ◇
ロシア国内の徴兵事務所や関連施設への放火や未遂が相次いでいると報道されています。モスクワへのドローン攻撃もありましたし、ロシア国民が戦争を実感したり政府に反感を持つなど変化が広がっているのでしょうか。