August 08, 2023

誰のために都市はあるべきか

世界で都市に対する考え方が変わりつつあります。


近代化や工業化が進むにつれ、都市に人口が集中する『都市化』は世界的な現象です。20世紀の初めに世界人口の13%ほどだった都市人口は、今や55%にまで増え、2030年には世界の人口の60%、49億人が都市に住むことになります。インドや東南アジア、中東やアフリカの都市でも既に高層ビルが立ち並んでいます。

都市化が進んで人口が集中するにつれ、再開発が進み、道路は舗装され、たくさんのビルが立ち並ぶことになります。古くから栄える都市には旧市街が残っていたりしますが、新しい街のコンクリートのビルはより高層になっていくのは、世界的な傾向と言えるでしょう。

多くの人口を収容するため高層住宅や、オフィス需要も拡大しますから高層ビルが立ち並び、移動のニーズで道路を拡幅したり、渋滞を緩和するため高架の都市高速がつくられたりします。近代化とはそういうものであり、それが正しいことと考えられてきました。

しかし、近年その常識が変わりつつあります。それを端的に表しているものの一つが、オープンストリートプログラムと呼ばれるものです。都市の街路を市民に開放する施策です。車道を通行止めにして、歩行者や自転車に開放したり、市民がくつろいだり、憩いの場所にしたりするものです。

Open Streets

日本で見るものとしては、歩行者天国が近いでしょうか。銀座の目抜き通りとか、各地でも商店街などのメインストリートを一定の時間、車両通行止めにし、あふれる買い物客に対応したり、歩きやすくするのが目的の場合が多いと思います。見た目としては似ています。

しかし、国によって呼び方は多少違うものの、オープンストリートと呼ばれるものは少し違います。商店街や買い物客向けとは限らず、店舗のない住宅地などでも行われます。人通りが多いから解放されるのではなく、普段はあまり人が通らないところでも、オープンストリートは実施されます。

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目的は、地域住民の遊び場、交流の場、憩いの空間を提供することです。歩いたり、自転車に乗ったり、子どもが遊ぶだけではありません。道路からクルマを排除し、安心・安全に楽しめる場所、いわば仮設の公園のような公共の場として設置するのです。

このブログでも以前取り上げましたが、コロンビアの首都・ボゴタで行われているシクロビアなどもその一つです。今は南米にとどまらず、北米や世界の都市で実施するところが増えています。それは世界の首都とも呼ばれる、ニューヨーク市も例外ではありません。ニューヨークでは、1600か所以上にオープンストリートがあります。

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もちろんニューヨークにも普通の公園はあります。マンハッタンの中央に位置する広大なセントラルパークが有名ですが、それ以外にも大小たくさんの公園が存在し、市民の憩いの場所になっています。では、なぜそれ以外に、市民が集えるような場所が必要なのでしょうか。

わざわざ公園に行くのとは違い、近所のオープンストリートは、その地域の住人のコミュニケーションの場となります。誘い合って公園に行くのではなく、自然に集まる場所と言えばいいでしょうか。仮設の場所で何が行われているか意外性がありますし、自由に使える場所だから意味があるのです。

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学校帰りの子どもたちで賑わったり、ご近所さんがテーブルとイスを出して井戸端会議をしたりします。地元の団体が遊具を提供したり、ローカルなイベントが開かれたりします。楽器を持ってきて演奏をする人がいたり、ダンスをしたり、パーティーを楽しんだりします。

公園が悪いわけではありませんが、ごく近所の通りだから気軽に人が集まるわけです。通りに面したレストランの座席スペースとして無償で使えるところもあります。自転車に乗ったり、ストリートスポーツの練習などが行えるようになっているストリートもあります。

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実施日時やタイプは、その場所によってそれぞれですが、日本のホコ天と違って、平日から毎日、朝から夕方までオープンストリートとして、クルマの出入りを禁止している場所も多いと言います。つまり、道路をクルマのためではなく、市民の生活のために使おうというスタイルなのです。

2000年代の初めから広がったようですが、コロナ禍がそれを促進した面もあります。コロナのパンデミックで街はロックダウンとなり、ゴーストタウンのようになったのは記憶に新しいでしょう。人々はリモートワークで通勤しなくなり、道路からクルマが消えました。

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そして、混み合う電車やバスを敬遠して、自転車通勤をする人や、運動不足解消のために自転車に乗る人が急増しました。クルマの通行が減ったこともあって、各都市は車道を臨時の自転車レーンとして開放しました。車道をクルマ以外の自転車や歩行者が使う場面が増えました。

こうした経験も手伝って、なぜ街の道路をクルマの為に使わなければならないのだろうと気づいた人は多かったようです。それ以前から、こうした取り組みに力を入れるNPOなどの団体も各地にありましたが、行政の取り組みとしてオープンストリートを設置する動きが広がっているのです。

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パンデミックで、心身を健康に保つためにも、ストリートの活用が有効であると多くの人が気づきました。地域の人たちが交流をしたり、生活を豊かにするための新しいスペースとして、身近にあるストリートを使うべきと考える人たち増えたのです。

今まで、なぜクルマのために、こんなに多くのスペースを割いてきたのかという疑問がわいてきたと言ってもいいでしょう。ストリートは、市民の財産であり、クルマのために使うのではなく、のんびり歩いたり、自転車に乗ったり、人と交流したり、放課後に遊んだりする場所として、もっと使うべきと気づいたのです。

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今まで、クルマを大量に、スムーズに通行させるため、道路を拡幅し、スピードを出せるようにし、歩行者や自転車は隅に追いやってきました。それが一番移動の効率を高めることであり、正しいことと考えられてきたわけです。しかし、その間違いに気づいたのです。

もちろん、物流など市民の生活に必要なクルマの移動もあります。しかし、都市を通過するだけだったり、郊外から来る個人の都合のために利便を図る必要があるのでしょうか。平均して1.2人しか乗っていないクルマの通行や路上駐車のために、貴重な公共空間を使うのはおかしいと考えるのは、言われてみれば自然です。

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全てのクルマの通行を否定するわけではありません。しかし、必要なら都市高速を使ったり、電車などの公共交通機関もあります。街の全ての街路をクルマが抜け道として使ったり、スピードを出して通り抜けたり、あるいは渋滞しているのを、黙って許している必要はあるのでしょうか。

温暖化対策の点でもクルマを減らすべきです。EVにすればいいと言う人もいますが、アメリカでも中国でもインドでも、温暖化ガスを大量に排出している国の発電は、大半が化石燃料です。少なくとも今のところ、EVにするのは気休めに過ぎません。アメリカでは依然として63%以上が化石燃料による発電です。

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さらに、オープンストリートには経済波及効果が大きいこともわかってきました。地元経済にも恩恵が及ぶのです。子どもが安全に遊べ、交通事故の死傷者を減らす効果も見逃せません。高齢者の孤独の問題や、メンタルヘルスなど、オープンストリートのさまざまな利点が明らかになってきています。

こうしたことから、行政が積極的にオープンストリートに取り組むようになってきました。ニューヨークでも、ニューヨーク交通局(NYC DOT)自身が推進しています。もちろん、環境NPOから地元の企業、市民グループに至るまで、多くの団体が賛同・協力し、活動を進めています。

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道路を通行止めにするわけですから、渋滞は起こるでしょう。いつも日中が通行止めなら、そこを通らなくなるとは思いますが、迂回するぶん、しわ寄せが行くでしょうし、渋滞の原因になることは十分に考えられます。その近辺に用事がある人が不便になるケースもあるはずです。

実際に、DOTに苦情は来ます。しかし、オープンストリートを実施しなくても渋滞しています。何をしても、しなくても誰かからの苦情は付き物です。そして、なぜ不要不急のクルマの利便性のため、路上駐車のためにストリートを使うのかという苦情も多くなってきています。環境問題でも同じです。

さまざまな観点から、もはやクルマ優先、クルマのために多くの貴重な公共空間を使うことは、正しくないと考えられ始めているのです。それらはモータリゼーション時代の遺物であり、環境やサステナビリティの点でも、もう正当化できなくなってきているわけです。

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前回取り上げましたが、日本では自転車に青キップの制度の導入の是非が検討されるようです。しかし、私は反則金の前に、自転車を本来あるべき車道走行に戻し、一定の秩序を取り戻すのが先決、どんなルールをどう遵守する必要があるか明らかにしなければ、反則金制度も焼け石に水となる恐れがあると書きました。

ただ、今まで歩道走行で来てしまったため、車道に自転車の走行空間が乏しいのは確かでしょう。自転車の車道走行は怖いと主張する人もいます。自転車の走行空間を確保する余地が無いというのが定番の結論です。それならば、クルマの車線を減らせばいいのです。クルマが不便になれば、無駄なクルマの移動も減るでしょう。

実際に、東京などでは通過交通量が多く、買い物などの個人の利便性のために、通行や路駐などで多くの公共空間が無駄になっています。クルマ優先は、もう時代遅れもいいところです。オープンストリートも進めるといいと思いますが、今まで不備だった自転車の走行空間に、もう少し道路を使うべきではないでしょうか。

私がこういう主張をすると、自転車乗りのエゴとか言われそうです。しかし、自転車走行空間は別としても、道路をクルマのためではなく、市民のために使うべきだと、世界的に考え方が転換しつつあります。このことは日本人も考えてみていいと思います。




◇ 日々の雑感 ◇

迷走台風6号は大きな被害を出し日本各地で猛暑、さらに7号も発生して、夏休みは天候に一喜一憂しそうです。

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この記事へのコメント
自動車を抑制して、自転車のためだけの走行スペースを増やそうという考えには全面的に同感します。
自動車を減らして自転車を増やすほどに重大事故も公害も渋滞も運動不足が招く万病も減らせる事実が研究や統計で証明されていますからね。
でも、日本で 自転車は車道! と主張していいタイミングは今ではないですよね?
オランダのように自転車専用道路ネットワーク整備がきちんとされてからです。
物事には順序がある。
日本は世界的に見て自転車の交通分担率が高い国としてあり、これは歩道の自転車通行を合法化したおかげです。自転車が車道しか走れない国は自転車の交通分担率がとても低いのはデータとしてもありますから。
自転車が安心して通行できる環境整備として、歩道通行可能とする施策はとても効果的でした。
自転車分担率が高いほどに地域全体の人口あたりの交通死率が低くなるのは、日本全国の統計、自転車分担率が高い都会な地域と自動車依存度が深刻な程に高い地域の統計の傾向を見ても明らかですから、歩道通行を許可した施策は重大事故を減らす政策としてたいへん賢明だった評価するのが自然でしょう。
言うまでもなく、今も自転車の歩道通行は年齢問わず、自転車通行可の標識の有無問わず合法です。

Posted by 自転車は歩道通行も合法 at August 17, 2023 17:42
自転車は歩道通行も合法さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
日本の道路行政が、歩道走行という世界的にも非常識な政策を進めてきたのを正すのが、まず先であり順序です。
しかし、半世紀も間違えてきたため、車道走行が危険な場所があり、怖いと感じる人がいるのも理解します。ですから、車道に自転車の走行空間を確保すべしと何度も書いています。
自転車は車道走行するのが当たり前なのだから、自転車レーン整備が必要となるわけで、そうでなければ整備も遅々として進まないでしょう。事実、だから整備が進んでこなかったのです。
整備が進んで現実的になるまでの緊急避難的な通行まで否定しているのではありません。しかし、オランダのような自転車専用道路ネットワーク整備がきちんと出来てからなどと言っていたら、整備できるものも出来ません。ずっと歩道走行です。その状態が半世紀続いてきました。
オランダでも整備できてから車道走行したのではありません。その間もいろいろな経緯がありつつ整備が進んできたのです。今レーンがない場所もありますが車道走行しています。
Posted by cycleroad at August 20, 2023 15:22
(続き)
自転車が車道しか走れないのが世界の常識です。日本が例外なのです。世界では車道走行が前提で、交通分担率を計算しているのであり、その中で交通分担率が高い国があるのです。
自転車の歩道走行のおかげとありがたく思うのは勝手ですが、それによって事故が少ないとは評価されていません。事実誤認です。
お調べになればわかることですが、世界有数の事故率となっています。だから歩道走行が問題視されているわけです。国が歩道走行を止め、全面的に車道走行にすると表明したのは事故を減らすためです。
半世紀も経ったため、歩道走行が普通だと思い、それをありがたく思う人がいても不思議ではありませんが、世界的に見て、それが効果的とか妥当だと評価する論調はありません。歩道走行はそもそも非常識で論外だからです。
年齢を問わず、標識の有無を問わずの歩道走行は合法ではありません。これは法律の条文を見れば明らかです。
Posted by cycleroad at August 20, 2023 15:27
 
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