温暖化対策を含め、、持続可能な将来のために野心的な目標を立て、国家ぐるみで推進しています。他のヨーロッパ諸国と同様、自転車の積極的な活用もその一環です。人々に自転車の利用を促すための自転車インフラや、鉄道と組み合わせて利用を推進するため、駅に駐輪場の建設などを進めています。
日本と同じように南北に長い国で、北緯57度以上という高緯度(樺太の中部より北)ですが、海流の関係で、同緯度の国と比べれば相対的に温暖、想像するほどの寒さではありません。雪は降りますが、港も不凍港です。ただ、オランダやデンマークなどのような自転車先進国ではありません。
必ずしも自転車に乗りやすい国とは言えないものの、ヨーロッパの国の例に漏れず環境意識は高く、自転車の活用を積極的に進めようとしています。そのことを端的に示すのが、今年4月に開通した、自転車と歩行者専用のトンネル、“
Fyllingsdalstunnelen”(フィリングスダルストンネル)でしょう。
ノルウェーのベルゲンという街に出来ました。長さは2.9キロ、自転車と歩行者向けトンネルとしては世界最長を誇ります。ノルウェーは山がちな地形が多いため、街と街の間の移動には山の迂回を強いられることが少なくありません。このトンネルの開通で、山の迂回で40分かかったのが25分に短縮されると言います。
2019年に着工した、4年がかりの国家的な大規模プロジェクトです。総費用は2900万ドル(約42億円)です。トンネル内は、幅3.5メートルの自転車専用レーンと幅2.5メートルの歩行者やランナー専用レーンに分かれています。もちろん、クルマは通行出来ません。
ノルウェーの人口は540万、首都オスロに次ぐ規模のベルゲンの人口は29万人ほどですが、4月15日に開通して以来、のべ10万人以上が通行しました。安全性や快適さにも配慮され、カラフルな照明や空調、防犯カメラ、休憩所、非常通報電話なども完備しています。途中にはアート作品が飾られたりしています。
実は、このトンネルはベンゲルに開通した新しい路面電車、トラムの線路と並行しています。トラムのトンネルには緊急避難用トンネルの設置が求められます。この避難トンネルを、非常時だけ使うのではなく、平時は自転車と歩行者の通行に使えるよう設計したのです。
単なる副産物として出来たのではなく、渋滞するクルマ利用から脱却し、トラムや自転車を活用しようという計画です。公共交通機関の利用と共に、自転車の活用を推進するためのトンネルであり、脱クルマ推進のために、40億円もかけているわけです。( ↓ 動画参照)
日本では転用された一部の観光用を除き、自転車用トンネルなど聞いたことがありません。クルマ用にトンネルは通したとしても、わざわざ歩行者と自転車しか通れないトンネルを設置しようという発想にはならないでしょう。羨ましい話です。環境意識の低さ、そのために自転車を活用しようという意識の低さとしか言いようがありません。
主に高速道路などの日本の大規模なトンネルにも、実は避難用のトンネルが並行して通っています。例えば、東京湾アクアラインのトンネル部分にも、避難用トンネルが併設されています。ふだんは見ることもありませんし、非常時や管理者の点検などにしか使われないトンネルです。
さすがに海底トンネルだと課題も多いのかも知れませんが、ここを平時は自転車用に使おうなんて話は出てきません。もし出来たら9.5キロで世界一です。川崎と木更津、東京湾を自転車で横断できるようになれば、是非通りたいと考えるのは、趣味のサイクリストだけではないでしょう。
トンネルだけではなく、例えば、お台場に行くレインボーブリッジも自転車では通行出来るようになっていません。ここが通れると、ふだんの移動にかなり便利になりますが、そのような設計になっていません。実は車道の下を徒歩では通れるのですが、自転車は専用器具をつけて運ぶことしか出来ません。
私が思うに、ノルウェーと日本の違いは、環境意識の高さだけではないでしょう。自転車に対する考え方の違いも大きいと思います。同じ自転車ですが、ノルウェーを含めた欧米諸国と日本では、そのイメージに大きな違いがあると言わざるを得ません。
つまり、交通手段と見なしていないのです。欧米で自転車は、立派な交通手段として扱われるのに対し、日本では自転車と言えばママチャリであり、最寄り駅や近所のスーパーまでのアシでしかありません。それより遠い距離を乗ることは考えませんし、乗ったことのある人も少ないでしょう。
日本で自転車通勤と言えば、最寄り駅までです。近年でこそ、職場まで自転車で通勤するというスタイルが知られるようになりましたが、実際にやる人は、ごく一部であり、多くの人にとって現実的なものではないはずです。電車で行く距離を自転車で行くなんて遠くて時間がかかって無理というのが常識的な感覚ではないでしょうか。
この原因も日本特有の事情、すなわち自転車の歩道走行から来ています。少し前に、自転車に対する青キップを検討するという話の中で、その原因は自転車の歩道走行にあると書きました。長年歩道走行してきたため、自転車に乗るのは歩きの延長のような感覚になってしまい、規則に従うなんて意識は皆無です。
自転車で歩道走行するのに、歩くのと一緒のような感覚で乗るため、逆走だろが併走だろうが、はたまたスマホを見ながらであろうが関係ありません。歩くのと一緒ですから、進行方向も考えませんし、好きな場所で横断したり、平気で信号無視しますし、一時停止もしません。
これが長年の習慣になってしまいました。今の混沌とした自転車の無秩序状態、ルール無視が普通で、それが悪いとも思っていません。これは行政が50年以上前に自ら作り出した事態であり、それに反則金は筋が通らない話です。まず、これを正して秩序を形成し、何が悪くて何を守るべきか、はっきりさせる必要があります。
自転車の歩道走行は、日本人の自転車のイメージも変えてしまいました。歩道を歩行者と混在して走行するのですから、スピードは出せません。出す人もいますが、歩行者を縫うように走らざるを得ず、危険な一方で、通り抜けに時間がかかるのは否めないでしょう。
歩道をゆっくり走るための自転車がママチャリであり、独自の進化をしてきました。サドルが低くて足つき性がよく、タイヤが太くなり安定して低速走行できるぶんスピードが出なくなりました。安いぶん重量は重くなって坂を上るのは大変になりました。遠くまで行くのには時間がかかり、現実的ではなくなってしまいました。
スポーツバイクに乗ったことのある人なら、同意されるでしょう。スポーツバイクで車道走行するのと、ママチャリで歩道走行するのでは、同じ距離でも所要時間が大きく違います。このことにより、日本では、自転車が現実的な交通手段と見なされなくなってしまったのです。
道路や橋、トンネルを計画したり、設計する人も、自転車は近所だけのアシとしか思っていません。郊外にある国道のトンネルなどでは、自転車で通行することが考えられておらず、非常に危険な場所も少なくありません。近所へのアシで、そんな場所まで行くとは最初から想定していないのは明らかです。
そんな日本において、自転車専用トンネルなど夢のまた夢です。欧米のように環境のことを考えて、クルマの代わりに自転車を活用しようとならないのも当然です。この部分についても、まず自転車の歩道走行を止め、自転車本来のポテンシャルを発揮できるようにし、自転車のイメージ・認識も変えなければなりません。
車道を走行し、自転車本来のスピードが出せれば、十分に実用的な交通手段となります。そのことが広く理解されるようにならないと、自転車用のトンネルなどという発想にはならないでしょう。ノルウェーと日本の自転車環境や今後の展望には、見た目よりも開きがありそうです。
◇ 日々の雑感 ◇
台風7号は日本列島を直撃、上陸横断しそうです。心配で田畑や用水路などを見に行く人がいますが、台風を相手に出来ることはありません。命を落とさないため外出しない、又は早めの避難こそ必要です。高潮や大雨洪水で浸水した家にいても、結局何も出来ないのですから危険のないうちに避難してしまうのがベストの選択でしょう。
Posted by cycleroad at 13:00│
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