August 23, 2023

全てが道路である必要はない

ビッグアップルも変わりつつあります。


ニューヨークです。アメリカ最大の都市であり、都市圏人口は2千万以上、世界の金融センターであり、国連本部が置かれ、世界の政治や経済、文化などの中心であることは変わりありません。ただ、最近はニューヨークでも都市に対する考え方が変わってきています。

コロナのパンデミックは各方面にさまざまな影響を与えましたが、その一つが働き方の変化でしょう。ロックダウンにより突然の在宅勤務、テレワークとなったビジネスマンは多かったわけですが、パンデミック後に通勤者は必ずしも以前の状態に戻っていません。

Photo by John Dillenbeck,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.空室率

テレワークでも十分に仕事が出来る、通勤時間が減らせる、居住の自由度が上がるなどの理由で、そのままテレワークの仕組みを継続した企業も少なくありません。結果、企業はオフィスを減らし、市内のオフィスビルの空室率は、なんと23%という高い割合になっています。ニューヨークへ通勤する人は大きく減りました。

市の中心部で働く人が減れば、お昼も食べなくなりますし、夜に外食する人も減ります。市内の飲食店や、ビジネスマン向けのサービス業にとっては大きな痛手です。地元の飲食店や企業、ビジネスの関係者などは、何か手を打つ必要に迫られています。

Photo by Anthony Quintano,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.ビル空室率

こうした地元の要望もあり、市当局が打ち出した計画の一つが、「ブロードウェイ・ビジョン」です。マンハッタンのマディソンスクエアとヘラルドスクエアの間のブロードウェイ、西25番街から西32番街までの通りを、まるごと新しい公共のスペースにしてしまおうというものです。

車道を全てクルマ通行止めにして、双方向の自転車専用レーンと歩行者用の公園のようなスペースにします。新しい広場も2つ設けられ、駐輪施設や、人々がくつろげるスペースを設置、屋外で食事ができるようにテーブルやイスを置けるようにするなど、多くの人が集まって賑わう場所にするプランです。

ブロードウェイ・ビジョン

大通りを丸ごと一本、クルマ通行止めにしてしまうのですから、周辺の渋滞や交通の混乱が起きるのではという懸念が示されるのは当然でしょう。しかし、このビジョンを発表した、ニューヨークのエリック・アダムス市長は、歩く歩行者の数は明らかに運転者の数を上回っていると指摘し、そうした意見を一蹴しました。

市長は、パンデミックという試練を経て、都市の一部を年中無休の活気に満ちた場所として再構築することに着手したと述べました。ミッドタウンのブロードウェイをクルマではなく人間優先の公共空間に変えることの意義を強調し、経済回復に資するものとしています。

ブロードウェイ・ビジョン

これによって、観光客や買い物客などを引き寄せる、ニューヨークの新たなスポットにしようというわけです。人々が安全に安心して散策したり、くつろげる場所をつくり、パンデミックで大きく減ってしまった歩行者の通行量を増やすことを狙っています。

市長は、パンデミックがミッドタウンやビジネス地区の商業に壊滅的な打撃を与えたが、それは私たちに公共空間を再考する機会を与えてくれたと述べています。このビジョンは、マンハッタンの中心における重要な公共空間の変革の一つであり、市民の生活の質や交通安全を向上させ、経済回復のカギになると考えているのです。



これまでであれば、こうした計画は簡単には実現しなかったでしょう。道路はニューヨーク市の意向で通行止めに出来たとしても、その地区の商店や企業など関係者の反発を受けかねません。しかし、このビジョンは、地区のビジネス関係者が賛同して推進されているのです。

これまで、地域の商店や商業施設などは、クルマで来る客ばかりを見ていました。歩いて来る客は黙っていても来ますから、いかに遠くからでもクルマで来やすいか、クルマ通行の利便性ばかりを向上させようとしてきたのです。しかし、彼らもパンデミック後の状況を受け、考え方が180度変わりました。

ブロードウェイ・ビジョン

これまで、クルマの通行止めや自転車レーンの設置などに、多くの反対運動が起きていましたが、逆に推進するという、関係者にとっても考えられない変わりようです。パンデミックがきっかけになったにせよ、彼らの意識や考え方が変わってきているのです。まるで立場が逆転したかのような熱心さと言います。

何もマンハッタン全域をクルマ進入禁止や通行止めにしようというのではありません。たくさんある大通りの1本を変えるだけです。両隣の大通りはクルマで通行できるわけですから、大きな不便ではないでしょう。逆に、碁盤の目のように走る大通りの全てをクルマ優先にしているほうが不経済だと気づいたわけです。

ブロードウェイ・ビジョンブロードウェイ・ビジョン

市長も、このブロードウェイやマンハッタン地区にとどまらず、全ての区に公共空間を設置していくと述べています。この公共領域の改善は、今後何世代にもわたってニューヨークを形作ることになるわけですが、私たちは都市や文化を変えていかなければならないと宣言しています。

最近、クルマ利用客より自転車利用客のほうが、バー、レストラン、コンビニエンスストアで月当たりの支出額が高いとか、徒歩または自転車で来る顧客が最も頻繁に訪問し、月に最も多くの金額を費やしているといった調査結果が次々と発表されています。



都市のオフィス空室率の上昇に加え、こうした背景もあって、ニューヨークだけでなく、ワシントンDCやサンディエゴ、ポートランド、メンフィスなど全米各地に同様のプランが提起されたり、実施されたりしています。もちろん全てではありませんが、クルマ社会と言われるアメリカでも、都市や道路に対する考え方が変わってきているのです。

たしかに、道路が碁盤の目のように走っているとしたら、全部の通りをクルマ優先にする必要はないでしょう。いずれにせよ渋滞しているとするなら、クルマ用の道路を多少間引いてもいいはずです。それが経済の活性化などに資するのであれば、全てクルマ用にしていたのは、むしろ非効率だったと言えるかも知れません。

ブロードウェイ・ビジョンブロードウェイ・ビジョン

この考え方は、観光客や買い物客を呼び込もうとする都市だけではなく、逆にオーバーツーリズムで困っているような都市でも使えるのではないでしょうか。例えば京都では、インバウンドが路線バスに乗り込もうと歩道に長蛇の列をつくり、道路は路線バスやタクシーや自家用車で渋滞し、市民も日常生活に困っています。

車道とバスやタクシーに頼るのではなく、思い切ってクルマを通行止めにし、ブロードウェイのような自転車レーンと公共空間にしてしまう手はないでしょうか。徒歩や自転車で周遊する人も増えるでしょうし、バスは、もう少し太い通りに集約して走行させることで、人気の場所の通りの混雑を緩和出来ないでしょうか。



私は都市計画の専門家でも何でもないので、単なる素人考えに過ぎません。ただ、どうせ混んでるわけですし、いくらクルマを多く通そうとしても限度があります。それならばいっそのこと、観光客で混雑する通りをクルマ通行止めにして、通りごと歩行者や自転車向けにするプランは参考になるような気がします。

東京にしても、特定の場所、浅草の仲見世だとか原宿の竹下通りはインバウンドであふれています。ならば、クルマを通行止めにして、徒歩で安心して散策できる通りを、もっと他にもたくさんつくったらどうでしょう。さらに東京の名所を増やし、経済的な効果も期待できます。

ニューヨークのミッドタウンの商業関係者は、これまでの考え方を180度転換させました。今までのように考えていても状況が改善できないのであれば、発想を転換してみることも、あるいは有効かも知れません。少なくとも世界各地で、クルマ優先で来てしまったことへの反省、クルマ用以外で道路を使う動きが広がっています。




◇ 日々の雑感 ◇

この夏は記録的な猛暑となっていますが、秋も高温傾向で厳しい残暑が長引くというのですから、げんなりします。

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