September 01, 2023

自転車を諦めるべきではない

前回はアダプティブバイクを取り上げました。


身体に何らかの障害を抱えている人に対し、それぞれの状態に個別に適応させた自転車です。トライクやリカンベント、ハンドサイクル、カーゴバイク、タンデムバイクなどをベースに、必要に応じて改造したり、パーツを交換するなどして、障害があっても乗れるようにしたものです。

事故などによる怪我、脳梗塞などの後遺症による半身麻痺、戦争による負傷など、障害の理由はそれぞれですが、例えば足でなく手でペダリング出来たり、片足でも踏み込む動作で動かせたり、両腕欠損でもハンドリング出来たりと、その人の障害に対応する仕組みがいろいろあり、自転車に乗れるようにします。

杖が必要など歩行が困難だったり、クルマ椅子を使用している人でも、その人に合わせたアダプティブバイクであれば、普通の自転車と同じ速度で移動できるようになることも少なくありません。趣味として楽しむだけではなく、生活の利便性や移動の自由が大きく向上して喜ぶ人も多いと言います。

CP Kids & FamiliesCP Kids & Families

事故や戦争による負傷や脳梗塞の後遺症などで、身体が不自由になり、歩くのも困難になれば、元々、自転車を楽しんでいた人であっても、再び自転車に乗れるとは思わないケースも多いでしょう。でも、何らかのきっかけでアダプティブバイクの存在を知り、自転車に乗る日常を取り戻した人は少なくありません。

ただ、障害が後天的に抱えたものではなく、生まれつきであれば、なおさら自転車に乗れる、乗ろうとは思わない人もいるはずです。例えば、脳性麻痺がある人です。脳性麻痺は、受精から生後4週までの間に、何らかの原因で生じた脳の損傷により、運動や姿勢に異常が生じる障害です。

多くの人がイメージするのは、パラリンピックの競技として採用されている「ボッチャ」かも知れません。この競技は脳性麻痺の人向けに考案されたと言われています。赤や青の革製のボールを投げ、白い目標球にどれだけ近づけられるかを競います。障害に応じたスタイルで競技が出来ます。

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胎児の時に起きたいろいろな原因や出産時の脳炎などより発症します。運動障害は人によって違い、不随意運動や筋肉の緊張、麻痺、姿勢の保持や運動の制御困難、関節拘縮などさまざまです。顔面の不随意運動で発話や発声が困難なこともあります。知的発達は正常であることも多いと言います。

脳性麻痺と言っても、ごく軽度で障害の軽い人から、重症で介助が必要、生命の維持も困難なケースまで幅広いのだそうです。この障害を抱えていても、俳優や著述家、医者やタレント、パラリンピックの金メダリストなど、社会で活躍されている方も少なくありません。

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ただ、一般的にクルマ椅子を使うなどしている人が多く、脳性麻痺のある子どもの親は、自分の子どもを自転車に乗せよう、乗ることが出来るなんて夢にも思わない人がほとんどだと思います。車椅子に乗せて親が押すならともかく、子どもが自分で自転車をこいで移動するなんて思いもよりません。

そんな親たちに対し、子どもを車椅子から降ろし、自転車に乗せようとする団体があります。カナダはカルガリーを拠点に活動するボランティア団体、“Cerebral Palsy Kids and Families”です。“Cerebral Palsy”(CP)とは脳性麻痺のことです。使う自転車はもちろん、それぞれに合わせたアダプティブバイクです。

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この団体は、脳性麻痺などの身体障害のある子どもを持つ親、家族に対する支援を1951年から行ってきました。当然ながら、脳性麻痺のこともよく理解していますし、脳性麻痺の子どもを抱える親や家族の困難や悩み、心配まで、たくさんのケースを見てきて知っています。

そんな支援を行ってきた団体の係員が言うことであっても、自転車に乗せようと言われれば、当の親は反発すると言います。『うちの子どもは歩けないんだ。座ることも出来ないし、クルマ椅子を自分で動かすことも出来ないのに自転車になんか乗れるわけがないことは、わかっているだろう。』と怒る人も多いと言います。

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親たちは、生まれてきた子どもが脳性麻痺と診断され、目の前が真っ暗になった経験があります。医師からは『出来ないこと』をたくさん聞かされています。子どもの症状を心配したり、将来を悲観し、毎日の養育に疲れ、なかには燃え尽き症候群に陥る人もいます。怒るのも当然でしょう。

しかし、それでも繰り返し誘われて、疑う気持ちが大きいまま、このアダプティブバイクのプログラムに参加します。いろいろなタイプのアダプティブバイクが用意されており、資格を持った専門のスタッフが、それぞれの子どもに合わせてカスタマイズします。



そして、ついに自分の子どもが、まさしく自転車に乗り、自分でこぎ出すところを目撃することになるのです。親たちは、まずその事実に圧倒され、驚きで目を見開きます。まさに、“Oh my God!!”と叫ぶでしょう。そして、親たちは涙を流すのだそうです。

いつも一緒にいる親が信じられないような『魔法』を見るわけです。もちろん、あまりスピードを出せない子や、誰かのサポートが必要に場合もあります。でも、親には少しの前進であっても、涙を流して喜び、その事実に感激するのは、それが大きな意味を持つからです。

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この“CP Kids and Families”は、600台を超えるアダプティブバイクを所有しており、それぞれの子どもに合わせてアジャストさせることが出来ます。最近、電動アシストタイプも導入されました。体験するプログラムだけでなく、アダプティブバイクを貸し出しています。

子どもが成長してサイズが合わなくなることもあるので、レンタルがリーズナブルです。年間75ドル〜4000ドルの有料です。ボランティアとは言え、団体の運営には費用がかかります。寄付などだけでは賄えないこともあるので有料としています。喜んで支払う親もたくさんいます。

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ただ、介助や養育にはお金がかかります。料金を支払うのが困難な家庭に対しては、料金の一部や全額を免除するプログラムもあります。アダプティブバイクプログラム以外の各種プログラム、カウンセリング、イベントなどについても同じです。家族に寄り添う支援、生涯を通じたサポートを展開しているのです。

この団体、1951年に障害を持つ子どもの親たちのグループにより設立されました。現在もスタッフには、障害のある子どもを持つ親が多数参加しています。医師や専門のソーシャルワーカーもいます。アダプティブバイクの専門スタッフもいて、メンテナンスは無料で提供しています。



この団体のアダプティブバイクプログラムは1999年に始まりました。年々拡大し、今年の春の自転車クリニックにも250名を超える子供たちが参加し、自転車を受け取りました。今や“CP Kids and Families”の主力ともいうべきプログラムとなっています。

このプログラムは、身体障害のある子どもや青少年に、自転車に乗るシンプルな楽しさを知ってもらうことを保証する、とうたっています。それほど脳性麻痺のある子どもに自転車を適応させる自信があるのでしょう。そして実際、多くの親御さんに感謝されてきています。

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親たちにとって、脳性麻痺のある子どもが自転車に乗ることは、単なる体験ではありません。子どもの人生を大きく拓くものであり、自信を持たせる経験であり、筋肉を発達させたり、コミュニティに参加するきっかけにもなります。さらに『次に出来ること』へもつながるに違いありません。

子どもが自転車に乗るという純粋な喜びを知るだけではありません。必ずしも一人で走行するのは困難だったとしても、誰かがサポートしながら、あるいはタンデム走行しながら、家族で自転車で出かけることが可能になり、アクティブに楽しむ機会を持てるようになった家族の喜びは大きなものがあるはずです。

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これは素晴らしい活動です。脳性麻痺というだけで、いろいろなことを諦めている子どもや親は多いと思われます。どうしても内向的になったり、希望を持てない人もあると思います。そんな人たちが同じ境遇で共感できる人達と出会い、コミュニティとして活動できるようになることも大きな意味を持つのは間違いないでしょう。

たかが自転車、乗れたからなんだと思う人もあるかも知れません。しかし、乗るなんて考えてもいなかった人が乗れた感激はいかばかりでしょうか。自転車はそれぞれに合わせることが可能で、想像する以上に間口が広いのです。工夫すれば自転車に乗れる場合が多いことを、1人でも多くの人に知ってほしいものです。




◇ 日々の雑感 ◇

今日は防災の日、関東大震災からちょうど100年、備蓄や家具固定、家族との連絡等見直しておきたいですね。

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