聖杯とは、キリスト教の聖遺物の一つで、キリストが最後の晩餐で使ったとされる杯です。日本人には馴染みがありませんが、多くの人が思い浮かべるのは、映画・インディージョーンズ/最後の聖戦に出てくる聖杯でしょうか。聖杯で汲んだ水には不思議な力があることが描かれています。
聖杯伝説では、昔から多くの騎士が捜し求めたことが、奇蹟譚として数多く語り継がれています。まさに伝説です。このことから、とても重要で特別なものであり、誰もが手に入れたいと願うけれど、それは非常に困難なものの比喩として使われます。

さて、そんな比喩を使い、『サイクリストにとっての聖杯』と主張する人たちがいます。
The SMART Tire Company というアメリカ・オハイオ州に本拠を置くタイヤメーカーの開発者たちです。彼らが、そう主張するのは、“
METL”という同社の開発したエアレスタイヤです。
この会社のタイヤにつしては、
このブログでも過去に何度か取り上げたことがあります。NASA・アメリカ航空宇宙局の技術を活かし、もともとは月や火星の探査車として使うことを想定して開発されたタイヤです。岩場や砂地など地面はさまざまで、悪路の走破性など高い性能が求められるのは当然です。

パンクも許されません。月面探査車のタイヤ交換をする宇宙飛行士なんて見たくないでしょう。火星では無人探査車になるでしょうから、タイヤ交換する人がいません。そこで開発されたのが、NiTinol+ と呼ばれる超弾性材料で、形状記憶合金を使ったラジアルテクノロジーです。
この技術で製造されるのが、METLタイヤです。曲がると分子構造が再配列するスマートメモリーメタルで、瞬時に元の形状に戻ります。ゴムのように弾力性がありながら、チタンのように強いと言います。この仕組みを使うことで、空気を充填する必要のないエアレスタイヤになっています。

このタイヤの自転車用が、サイクリストにとっての聖杯というわけです。つまり、パンクしないタイヤです。空気を注入したり、圧力をチェックする必要もなければ、パンク修理キットや予備のチューブを携行する必要もありません。出先でパンク修理をする可能性がなくなるのです。
一般的には自分でパンク修理が出来ない人が多く、パンクは自転車に乗る上での大きな障害となってきました。修理出来るサイクリストにとっても面倒ですし、出来れば省きたい手間なのには間違いありません。これを無くすことが出来るパンクレスタイヤは、確かにある意味、聖杯かも知れません。

以前から
このブログで取り上げてきましたが、いよいよ一般向けにクラウドファンディングサイトで販売が始まりました。ある程度予想されたとは言え、あと23日を残した時点で、目標の5倍以上の金額に達しており、すでにクラウドファンディングは成立しています。
ついに登場した究極の自転車タイヤだとしています。形状記憶合金製で、世界初の高性能、軽量、空気注入不要、パンクしないタイヤです。耐久性も高く、タイヤの寿命は自転車の寿命を上回るはずのため、最初に購入すれば、買い替える必要も生じないと言います。パンクのゴミも生じず、高耐久のため環境にもいいと言及しています。

これまでも、自転車用のエアレスタイヤと称されるものはありました。その多くは空気の代わりに発泡ウレタンや、ゲル状の素材などを充填するものでした。私も試乗はしたことがありますが、乗り心地がいいとは言えませんでした。タイヤの重量も重くなっていました。
タイヤが重いと、いわゆるバネ下重量が大きくなるので相対的にスピードが出なくなります。また、充填する素材にもよりますが、反発力が弱く、形状が変化することで、どうしてもタイヤの転がり抵抗が大きくなってしまうのも性能差となり、乗り心地も良くない原因でしょう。

この“METL”は、空気を入れるタイヤのような乗り心地だとしています。タイヤの重量は、ロード・グラベルタイヤの、700x35Cで450gとあります。既存のロード用タイヤの軽量のものは、200g以下のものもありますから、それよりは重いですが、一般的なタイヤとは同等程度ではないでしょうか。
レースなど、軽さと速さを追求するような用途では不利ですが、一般の人なら十分許容範囲でしょう。何より、これでパンクから永遠に開放されると思えば、使いたい人は多いに違いありません。価格は、いい値段ですが、まだ限定生産であり、今後量産されて普通に流通するようになれば、もっと下がるはずです。

もともと火星での連続使用を想定しているわけですから、耐久性は折り紙付きです。NASAが12年以上の歳月と1千万ドル以上の政府資金を投じて開発しています。私も乗ったわけではないのでわかりませんが、たくさんの賞も受賞しており、期待は高まります。
会社は、この製品が自転車タイヤ業界のゲームチェンジャーになると予測しています。たしかに書かれているような性能であれば、価格によっては従来の空気入りタイヤは一掃されてしまうかも知れません。この自転車用製品を足場として、クルマ用にも展開していく構想のようです。

以前に取り上げた時には、まだ研究成果の発表のような段階でしたので、半信半疑のようなところがありました。しかし、実際にクラウドファンディングでの販売の段階に入り、来年の春以降には順次発送されます。その頃になれば、評判や良し悪しも聞こえてくるでしょう。果たしてどうなるでしょうか。
これが、会社の主張通り機能し、消費者が満足するものであれば、確かに自転車用タイヤからパンク修理や空気補充を無くすという分野においては『聖杯』と言えるかも知れません。そして、急速に従来品から置き換わりが進み、本当にパンクが過去のものとなる可能性があるでしょう。

これまでにも技術的なブレークスルーはたくさんありました。例えば電気、電灯や電力機器が発明された時は、ある意味で聖杯だったでしょう。しかし、すぐにそれが当たり前となり、誰も聖杯だったことは忘れてしまいます。自転車タイヤもエアレスが当たり前となり、パンクが過去の遺物となる時は来るのでしょうか。
◇ 日々の雑感 ◇
ラグビーW杯フランス大会、日本代表のイングランド戦は途中まで接戦だっただけに悔しさが残る敗戦でした。
Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(0)