多くは、人類の生活や生産活動によって生じた有害物質などの垂れ流し、環境への放出によってもたらされます。大気汚染や水質汚濁などにより、公害病としても人間の健康を害してきました。フロンガスによるオゾン層破壊や温暖化ガスによる気候変動なども、広い意味で環境を害する問題と言えます。
近年関心が高まる海洋プラスチック汚染の問題もその一つでしょう。2050年には海洋プラスチックごみの量が、海にいる魚を上回るという予測もあります。これは、単に魚や海鳥、ウミガメなど海洋生物に深刻な影響を与えるだけにとどまりません。我々、人類に影響を与える可能性が懸念されています。
プラスチックごみは、紫外線や波の作用で細かい粒子状物質、いわゆるマイクロプラスチックとなります。これが有害物質を吸着し、魚の体内に取り込まれて蓄積し、食物連鎖を通して人間の体内にも入ることになります。2018年の調査では、日本含む8カ国、全対象国の人の排泄物からマイクロプラスチックが検出されました。
さらに、その後の研究では、人間の血液中、肺、胎盤など、人体のさまざまな場所からマイクロプラスチックが検出されています。ただ、なんといっても微細な物質ですし、それが人体に対してどのような毒性を持つのかは不明な部分が多いのが実情です。
いろいろな毒性のあることが推測されますが、そのうち、
マイクロプラスチックによる人間の腸への影響が明らかになってきました。腸に炎症をもたらし、
炎症性腸疾患(IBD)などにつながる可能性があると言います。腸炎のうちでも感染や薬剤によらない、潰瘍性大腸炎とクローン病の2つを総称してIBDと呼びます。
安倍元首相が悩まされたことでも知られていますが、これまでは原因不明とされてきました。まだはっきり解明されたわけではありませんが、炎症性サイトカインなどにより、
この原因不明の炎症性腸疾患の原因になっているのではないかと疑われているのです。もちろん多くあると思われる影響の一つに過ぎません。
日本でも、レジ袋有料化の一つの理由とされた海洋プラスチックごみですが、ほかにもいろいろな取り組みが始まっています。レジ袋はプラスチックごみのごく一部に過ぎず、プラスチック容器やプラスチック製品はたくさんあります。買い物袋を非プラスチックにするだけでは到底不十分です。
木のストローだとか、土に還る素材のスプーンを使うようにして使い捨てをやめるとか、飲料の容器をガラス瓶にするとか、食料品を箱詰めにするとか、微細な研磨剤を含まない歯磨き粉にするとか、ガムをやめるとか、さまざまな取り組みが世界的にも進められてます。
ただ、プラスチックごみ全体からすれば微々たる量でしょう。ほとんどの食料品や日用品などのパッケージには相変わらずプラスチック素材が使われています。その他のプラ製品も含めた何割かは焼却されずに最終的に海に流れ込むと推定されています。海岸に打ち寄せられるゴミは全体のごく一部に過ぎません。
さらにゴーストギアが問題だとする指摘もあります。放棄されたり、遺失したり、投棄される漁網や漁具のことです。かなりの量が世界の海に放出されていると推定されています。海洋生物が網に引っかかったり、カゴや筒のような仕掛けに水中で取り込まれるだけでなく、これらもやがてマイクロプラスチックになります。
実は、このマイクロプラスチック、生活や産業ゴミとしてのプラスチックごみや、漁具などだけが原因ではないことがわかってきました。なんと、
クルマのタイヤから出る粉塵が海洋マイクロプラスチックの大部分を占めているとする研究結果が公表されています。
クルマを運転してブレーキをかけた時だけでなく、常に少しずつタイヤは道路との間で摩耗し、微細な粉塵として発生し続けます。これが風に舞ったり、雨で流され、排水溝や川を通じて海に流出しているのです。最初から微細なプラスチックごみとして海に届いていることになります。
クルマを車検に出す時、タイヤの溝の深さが基準以下だと検査に通りません。交換する頻度は走る距離によっても違うでしょうが、言われてみれば、乗るたびに少しずつタイヤが削れていることを実感する人は多いでしょう。そのぶんはタイヤの微細な粉塵となっているわけです。
世界中のタイヤの消費量を考えたら、この粉塵は膨大な量になるはずです。一部は大気汚染の原因にもなるでしょうが、やがて地面に落ち、雨などに流され、最終的には海へと流出し、マイクロプラスチックとなるわけです。たしかに、これは甚大な影響を及ぼしていてもおかしくありません。
言われてみれば、その量が多いであろうことは素人でも理解できますが、このことにスポットが当たったのは別の研究によるものでした。カリフォルニア大学バークレー校の研究チームによって2020年に発表され、その論文は、有名な科学誌である、“
Science”に載りました。
アメリカ西海岸のサケ、銀鮭が繁殖のため川を遡る時、雨水にさらされて原因不明の急死をする例が毎年報告されています。この原因を調べたら、非常に毒性の高いキノン変換生成物が特定されました。そしてこの物質が、
タイヤの製造過程で亀裂や劣化を抑えるために添加される物質に由来していたのです。
この物質が大気中のオゾンにさらされて変化すると、非常に毒性の高い物質に変質し、銀鮭が死んでいたことがわかりました。もちろん、銀鮭以外の魚も含まれます。直接死んだ魚を食べなかったとしても、有害物質が少しずつ蓄積され、食物連鎖の頂点にいる人間に影響する可能性も否定できないでしょう。
この銀鮭の急死の原因物質がタイヤの添加物と特定されたことで、タイヤの粉塵がプラスチックごみとなっていることの研究が進んだのです。アメリカの“The Pew Charitable Trusts”という非営利、非政府組織の研究団体によれば、その
割合は海洋プラスチックごみの実に78%に上ると推定されています。
また
別の研究によれば、クルマ1台が1キロ走行するごとにタイヤから合計で1兆個の微細なマイクロプラスチック、もしくはナノプラスチック粒子が放出されており、海洋生物経由に加えて、大気中から肺を通して血中に取り込まれる可能性も指摘されています。
全ての影響はまだまだ解明されていませんが、肺や消化器の病気だけでなく、さまざまな疾患や健康被害を与えている可能性は否定できません。タイヤですから、EVにしても解決出来ません。むしろガソリン車より重量が重く、トルクが大きいため排出する粉塵は20%以上多くなると指摘されています。
レジ袋不使用や木製ストローが悪いとは言いませんが、人間への影響という点でタイヤの粉塵ははるかに大きな問題と思われます。自転車で出来る移動を自転車にすれば、人間1人を運ぶための重量はクルマと比べて大幅に少ないので、粉塵も大幅に減るのは確かですが、輸送や移動の全てを自転車にするわけにもいきません。
EUなどではタイヤの摩耗由来のマイクロプラスチック排出を規制する動きも出始めています。タイヤの使用を禁止するのは現実的ではないので、 タイヤメーカーに対して劣化防止の添加物の代替を要求する動きもあります。EUが規制を始めれば、世界的に同調する動きが広がることも期待されます。
このブログでも過去に何度も取り上げてきましたが、海洋マイクロプラスチックごみ問題は、原因の一部しか見ていなかったことになります。因果関係の解明はまだですが、既に何かの疾患や癌などの形で人間に悪影響が及んでいる可能性もあるでしょう。さまざまな環境汚染とその影響は、我々の知らないうちに進んでいます。
◇ 日々の雑感 ◇
イスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘は激化の一途、レバノンなどへの拡大や世界経済への影響も懸念です。
Posted by cycleroad at 13:00│
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