法律などに決められた罪を犯した時に課せられる刑罰等で、法令を遵守させたり違反を抑止したり予防したりする、すなわち実効性を持たせるために必要不可欠な制度と言えるでしょう。日本では死刑、懲役、禁固、罰金、拘留、科料、財産没収などの罰則があります。
犯罪を犯すような人は別として、一般人にも身近なのは道路交通法による罰金などでしょうか。スピード違反などで罰金を払った人もあるでしょう。青キップは反則金で行政罰ですが、例えばスピード違反だと一般道で30キロ以上だと赤キップで刑事罰の罰金となり前科が残ります。
警察もスピード違反に対しては常に取締りを行っています。警視庁によれば、死亡事故のうち4分の1にスピード違反があり、違反がない場合に比べて、11.9倍も致死率が高くなるとしています。生活道路では、衝突速度が30キロを超えると致死率は4倍になると言われています。
速度取締りを実施した場合と、しなかった場合で、死亡事故を14%、負傷事故を6%削減する効果があったいう調査報告もあります。交通事故を起こしたドライバーのうち約23%が過去5年間で1回以上速度違反で検挙されているとのデータもあります。
スピードが速いほど衝突した時のエネルギーは大きくなりますし、判断に要する一瞬の間に進んでしまう距離は長くなります。スピード違反が事故を重大化させるのは明らかでしょう。自転車に乗っていても、猛スピードで追い抜かれる脅威は実感します。やはり、スピード違反は減らすべきでしょう。
クルマの関係者の中には、スピードが悪とは限らないと主張する人もいます。人身事故の61%は時速20キロ以下で発生し、28%が時速40キロ以下、全体の89%が時速40キロ以下の低速域に集中しており、逆に時速60キ超の事故は、たったの1%しかないとのデータを理由として挙げています。
しかし、これは相対的に低いスピードしか出せないような市街地、住宅地などで対人の事故が起きているからでしょう。スピードが出る高速道路や専用道、バイパスなどではクルマ同士はあっても対人事故は少ないはずです。低いスピードでしか人身事故が起きていないように見えるだけで、この主張は違うと思います。
もちろん、どこであってもゆっくり走れと言うつもりはありません。それぞれの場所の最高速度は、その道路の周囲の地域特性や道路の幅、歩道の有無、歩行者の交通量、騒音の配慮、交通事故抑制を考慮した実勢速度などを考慮して決められるようですから、それをどれくらい超過するかが問題なわけです。
ただ取締りについては、例えば連続する道路で、特に見た目も環境も変わらないのに、いきなり法定速度が下げてあり、そこでスピードガンを使って取締りを行っているようなところもあると聞きます。いわゆる「ネズミ捕り」と呼ばれる罠、取締りの効率と検挙数を競うかのような警察の姿勢にドライバーの憤りもあるようです。
警察への反感はともかく、幹線の渋滞を避ける抜け道として生活道を速いスピードで通り抜けるようなドライバーがいるのも確かです。スピードは極力控えたほうが、イザという時に停まったり回避したり出来る可能性は高まります。スピード違反を抑止するため、スピード違反の取締りは必要でしょう。
これは日本に限ったことではありません。世界各国でもスピード違反の取締りは行われています。制限速度が抑制的であったり、クルマの流れに乗ると速度超過になってしまうケースも多く、スピード違反は犯してしまいがちな違反なのは、変わらないようです。
どこの国の警察も、取締り等によってスピードの抑制を促しているわけですが、その中でユニークな発想による実験をした国があります。北欧のスウェーデンです。同国の交通安全団体のNTFとクルマメーカー大手のフォルクスワーゲンが行った実験です。
道路に設置したカメラでスピードを計測し、制限速度を守っていないクルマとナンバーを記録するだけでなく、スピードを守っているクルマとナンバーも記録し、守っていたドライバーの中から抽選で賞金を贈るというものです。スピード違反で罰金ではなく、
スピード遵守で抽選で賞金が当たる のです。
その名も、“
The Speed Camera Lottery ”(スピードカメラくじ)です。今まで、スピード違反に罰則、つまりムチしかなかったところへ、アメを与えようという発想です。フォルクスワーゲンのコンテスト“The Fun Theory”の優勝者、Kevin Richardson さんのアイディアですが、ユニークな試みです。
実際に、
ストックホルムで行われた最初の実験 では、当選した、Bengt Holmstrom さんに、2万スウェーデン・クローナが贈られました。今のレートで27万3千円です。ほかに4人が1万スウェーデン・クローナを獲得しています。こんな宝くじ、ほかで聞いたことがありません。
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この実験、実はストックホルムで2010年の9月に3日間行われ、その後2011年り5月と6月に、スウェーデンの5つの都市でも行われましたが、仕組みとして実際には採用されませんでした。規制当局や政治家には受け入れられなかったようです。もう10年以上前に実験は終了し、その後は実施されていません。
実現しませんでしたが、個人的には面白いアイディアだと思います。カメラのある場所が固定だと、いろいろと不都合があるので、場所を移動させたりするのにコストがかかるなど、技術的な問題もあったようです。政治的に難しい面もあったのでしょう。
もし、日本でやろうと思えば、すでに常設されているスピード違反のカメラや、Nシステムを流用する手もあるでしょう。カメラでなく、GPSや通信型ドライブレコーダーなどを使う手も考えられます。罰金や反則金をとる一方で、それを賞金に充てれば財源も問題ありません。
ただ、GPSや通信による実施では、個別のクルマの遵守状況だけでなく、違反状況もわかってしまうわけですから、参加者が限られてしまうかも知れません。やはり、そう簡単にはいかないということでしょうか。しかし、罰金というムチばかりでなく、アメを与えるやり方のほうが、実勢速度が下がる可能性もありそうです。
法律で犯罪行為と刑罰を定める「罪刑法定主義」は、近代刑法の大原則ですから当然です。法律ではムチで守らせるのが当たり前なわけです。しかし、ムチばかりで来ましたが、違反者が絶えることはありません。ここで発想を180度転換して、『褒賞法定主義』があってもいいような気がします。
◇ 日々の雑感 ◇
ラグビーW杯で敗退した日本代表、その後もお疲れ様、健闘したと労われています。心情として私も同じですが、歴史を変える自信があると言っていたのに前回以下、予選敗退です。選手も試合直後に笑顔でファンと写真を撮っていましたが、もっと厳しいことを言う人がいないと、これ以上強くなるのは期待できないのではないでしょうか。
Posted by cycleroad at 13:00│
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