サイクルロード 〜自転車への道
世界の都市で自転車が選ばれ始めている。さまざまな角度から自転車の話題を。
October 19, 2023
ビッグデータがもたらす利益
今世紀はデータの世紀と言われています。
データは、20世紀の石油に匹敵するような富を生む源泉になると見られています。ビッグテックと呼ばれる企業の例を挙げるまでもなく、すでにデータは莫大な収益をもたらしています。検索データや購買履歴といったデータに限らず、さまざまなところからデータの収集が可能な時代でもあります。
ネット上の履歴だけでなく、例えばスマホのGPSや基地局のデータを使えば、リアルの世界での人の居場所や流れがわかります。そのデータを集積すれば、夜の盛り場の人出などもリアルタイムにわかるわけです。コロナ禍で密集を避けるよう呼びかける中で使われたのも記憶に新しいところです。
アナログな方法でのデータ収集もあります。例えば、クルマの交通量の調査で、街角に座った調査員がカウンターを手に調べているのを見ることがあります。これも、道路整備や都市計画などに使うために、テータを収集しているわけです。ただ最近は調査員ではなく、交通監視カメラとAIによる解析などに移行しているようです。
調査員を使って調べるのはたいへんですが、こうした交通量のデータを持っている企業もあります。自転車の通行データに関して言えば、“
Strava
”です。SNS機能を備えたアクティビティ記録用のWebサービスです。自転車だけでなく、ランニングやウォーキングなども含みます。
GPSなどによるユーザーの移動データをアップしたり、そのパフォーマンスを計測したり、地図やルートを公開して他のユーザーと共有したり出来ます。タイムを競ったり、SNS機能を使ってコミュニティを形成したり、位置情報を共有して連絡を取り合ったり、そのほかいろいろな使い方が出来る人気のアプリケーションです。
一人ひとりのユーザーは自身の目的を持って使っているわけですが、Strava 社のサーバーには膨大な移動データが蓄積されることになります。世界中にユーザーがいますから、世界規模のデータです。いつ、どこで、どれくらいの人が自転車や徒歩で移動しているのかわかるわけです。
もちろん、全ての自転車利用者や歩行者が“Strava”を使っているわけではありませんが、全体との比率などを調査して統計的処理を加えれば、全体のサンプルデータになります。クルマなどによらない、人力による移動の貴重なデータが得られることになるでしょう。
これが、ビッグテックと呼ばれるような企業であれば、人流データとして広告会社などに売って儲けようとするかも知れません。しかし、Strava 社は違いました。一人ひとりのデータを匿名化した上で“
Strava Metro
”として、
2020年9月から無料提供
を始めています。( ↓ 動画参照)
政府機関、自治体、交通インフラ関連のプランニング関係者などに利用してもらうためです。いろいろな使い方が考えられます。例えば、コロナ禍では出かける人が減ったとか、場所によっては自転車で移動する人が増えたといった変化を分析したりすることも出来るでしょう。
日本では、あまりニーズがないかも知れませんが、ヨーロッパなどでは自転車の活用に積極的な国や都市は多く、温暖化対策や都市部の渋滞対策につなげようというところが少なくありません。自転車と事故という観点だけでなく、環境負荷を減らすための手段として活用しようという環境意識の高い人が多いのです。
北欧などの自転車先進国と呼ばれるような国、都市では、自転車レーンの整備を進め、それとセットで自転車の通過台数を数えるカウンター機器を設置するところもあります。自転車レーンの効果を測るためです。環境にいいことはわかりますが、具体的な効果をデータとして得たいわけです。
この“Strava Metro”のデータが使えれば、カウンター機器を設置する必要はなくなります。カウンターを実際の道路沿いに設置するのは費用がかかり、たくさんは設置出来ません。また、設置以前のデータがなく比較が出来なかったりするわけですが、そのあたりが飛躍的に便利になるでしょう。
どこかに自転車レーンを整備したとします。しかし思うように自転車の交通量が増えなければ、何かの問題があると見て原因を調べ、改善したりもできるでしょう。例えば、違法駐車車両が多かったり、利用者が使いにくかったり、危険な場所があったりするかも知れません。
レーンを整備したことで、自転車の交通量が増え、どれほどのクルマの利用が減り、どれだけの温暖化ガス削減になったかもデータとして確認できます。渋滞の減少なども含め、その効果を市民にアピールしたり、議会に対して予算獲得の根拠として利用できたりするに違いありません。
最近は、“Strava”にもCO2削減に焦点を当てたツールの搭載を発表しています。ユーザーが、クルマで移動する代わりに自転車に乗ったことによる、二酸化炭素排出削減量を把握できるわけです。環境意識の高いヨーロッパの人々にはアピールする機能でしょう。
同じように、環境意識の高いヨーロッパの都市の政策担当者にとって、具体的なデータは有用なはずです。これまで、環境にいいことは明らかでも、その効果の数値化は難しかったわけです。それが“Strava Metro”によって、実際にどれだけ削減できたか、どれだけインフラ整備の効果が上がったか、見えるようになるわけです。
ビッグテックと呼ばれる企業が、プラットフォーマーとしてデータを収集し、莫大な利益を上げる一方で、消費者もサービスを無料で利用できたりするのですから、必ずしも悪いというわけではありません。しかし、“Strava Metro”は、データを無料提供することで、公共の福祉に直接役に立てていると言えるでしょう。
“Strava”の利用者もインフラ整備が進めば安全・快適になるわけですし、自治体の整備計画の具体化にも役立ちます。Strava 社のイメージもアップするでしょう。実際にお金は儲からなくても、大きなメリットがもたらされるわけで、ぜひデータを積極的に利用して、公共の利益に転換してもらいたいものです。
◇ 日々の雑感 ◇
イスラエル軍の地上作戦は不可避なようです。民間人の被害による国際世論の反発を招かずにすむでしょうか。
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Posted by cycleroad at 13:00│
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