国連気候変動枠組条約締約国会議、通称COPが11月30日からアラブ首長国連邦のドバイで行われます。
COP28になります。今年もグローバル・ストックテイクや途上国への資金支援の新たな仕組み、脱化石燃料の加速など、さまざまな話し合いが行われる予定です。
各分野でいろいろな論点があると思いますが、移動やモビリティの分野では、化石燃料車からEVへの移行ということがメインテーマになってきました。○○年までに化石燃料車の生産や販売を禁止するといった各国の目標が、この分野の対策として打ち出されてきました。
化石燃料を燃やすか燃やさないかで言えば、燃やさないほうがいいに決まっています。ですから、EVの利用へ移行するのが正義のように、その推進が競われてきたわけです。しかし最近は、そう単純な話でないことに多くの人が気づき始めるようになってきました。
ガソリン車などをEVに変えれば、直接化石燃料は燃やされません。しかし、EVに変えたことで、そのぶん電気を使うことになり、それを発電しているのが火力発電であれば温暖化ガスの排出量も増えることになります。例えば世界最大の温暖化ガス排出国である中国は、その7割が依然として火力発電です。
化石燃料を燃やして発電した電力を遠くまで送電し、それを充電して走るわけで、直接使うよりエネルギー効率も落ちます。しかもバッテリーにより車体重量も増えます。普通のクルマより、EVをつくるほうが、製造から廃棄までを含めた温暖化ガスの排出量は多くなり、廃棄による環境負荷も高くなると言われています。
充電スタンドなどのインフラも整備しなければなりません。インフラが少ないとEVが普及せず、普及しないとスタンドの稼働率も上がらないジレンマがある中で、すでに初期に整備されたスタンドは更新の必要が出てきているそうです。EV製造や電池などの関連企業も想定が外れ、設備投資を見直すところが出てきています。

こうした中で、市民からは実効性のある温暖化対策として、EV化よりもカーフリーをという声が大きくなっています。EVへの置き換えを進めるために巨額の購入補助金やインフラ整備への補助を進めるより、クルマの利用そのものを減らすべきだというわけです。極めて自然な考え方でしょう。
前回までのCOPにおいても、会場の外に集まった市民のデモでは、EVに買い替えさせるのではなく、なぜクルマを減らして、自転車や公共交通にシフトしないのかという抗議の声が上がり、そうした活動は増えています。交通安全の観点からも、都市部への自家用車の乗り入れを抑制すべきとの主張もあります。
私も、この点は再三書いてきました。政府や首脳も理解している人は多いはずです。しかし、クルマ産業は国の経済にとって重要であり、台数を減らす議論はしにくいのでしょう。EV化の推進によって、クルマ産業からの票を見込めるなどの思惑も働き、温暖化対策はEV化となる構図です。

EVではなく自転車の活用をと言うと、ナンセンスと考える人もあるでしょう。しかし、クルマの全てを自転車にしろと言っているわけではありません。例えば、オーストラリアの通勤の44%はクルマですが、その距離の平均は10キロ未満です。420万回のクルマ移動のうち、280万回は2キロ未満という統計が出ています。
広い国というイメージがありますが、実はそんな長い距離を移動するわけてはないのです。これはオーストラリアだけではありません。アメリカでも、全てのクルマでの移動のうち、約60%が10キロ未満です。ほかの国でも似たり寄ったりの調査結果が出ています。
この程度の移動であれば、自転車でも十分代替可能でしょう。長距離や代替出来ない移動まで自転車にしろとは言いません。代替可能な移動について自転車や徒歩などにすれば、そのぶんのクルマは使わないですみ、温暖化ガスの削減になります。EV化よりも、はるかに多くの化石燃料需要を削減することは明らかです。
今年、あの、
“Nature”に掲載された論文では、自転車が地球規模で二酸化炭素の排出量を削減するための強力なツールであると指摘されています。仮に全世界でデンマークやオランダ並みに自転車を活用したとしたら、それだけで年間6億8600万トンという顕著な削減になると試算しています。

会場の外で市民団体が声を上げても、なかなかCOPにおいては、EV化よりもカーフリーという議論にならないのですが、今年は新しい動きもあります。“
Active Travel and Health (PATH)”という団体が、世界各国の首脳に対して公開書簡を送っています。
この“PATH”という団体はFIA、国際自動車連盟の社会財団、“FIA Foundation”から多大な資金提供を受けている団体です。そして数多くのNPOからの賛同と支持を受けています。クルマの国際的な組織、国際自動車連盟が支援している団体による提言ということになるわけです。
公開書簡は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)や、COP28に参加する各国政府の首脳、交渉担当者らに対し、徒歩や自転車政策を優先するように求めています。交通分野の脱炭素化と、気候変動に関するパリ協定の目標の達成において、徒歩と自転車の重要な役割を強調し、優先的に投資することを求めているのです。
より多くの人々が安全に歩いたり自転車に乗ったりできるようにすることは、交通機関の脱炭素化と気候変動に関するパリ協定の達成に不可欠としています。しかし、実際には各国での優先順位は高くないとを指摘し、UNFCCCに対しても、気候変動交渉においてウォーキングとサイクリングをより重視するよう求めています。

そのために、より多くの人々が安全に歩いたり自転車に乗ったりできるようにすることが必要です。自転車を活用するためにもインフラが必要です。安全で快適に自転車に乗れる環境があれば、自転車を使おうかと考える人も増えるでしょうが、それなしでは、さらなる活用は進みません。
人々に積極的に移動手段の転換、習慣を変化させるためのサポートも必要でしょう。徒歩や自転車による日常サービスへのアクセスの近さや、その質を確保するための都市計画も進める必要があります。公共交通機関と接続し長距離でも利用可能な基盤も求められます。効果を測定可能にする仕組みもつくるべきです。
このような政策にこそ資金を投じ、具体的に人々が安全に歩いたり自転車に乗ったりできるようにする環境を整えるよう求めています。これこそが、交通機関による温暖化ガス排出量を50%削減するのに役立つ、迅速かつ手頃な費用で信頼できる方法だと明言しているのです。

代替可能な部分について、クルマから自転車への乗り換えが進めばクルマを所有せず、シェアリングなどに変える人も増えるでしょう。クルマの世界団体としては利益相反になります。しかし、昨今のクルマへの世論の風当たりの強さに、こうした考え方を打ち出さざるを得ないのでしょう。
単にEV化ではなく自転車の活用というだけでなく、明確に優先順位を上げること、具体的にインフラ整備など活用のための環境を整えること、政策として実行することを求めている点で評価できるでしょう。果たして、この公開書簡がCOP28での議論に影響を与えることになるでしょうか。
私も再三書いてきましたが、この公開書簡に署名している数多くの非営利団体の主張であり、これまでのCOPで会場の外で市民が声を上げてきたことであり、ごく自然な考え方です。政治的にEV化を優先するのではなく、本音の議論として、より迅速で効果的、現実的な対策が優先されるようになるのか、注目されるところです。
◇ 日々の雑感 ◇
イスラエルとイスラム組織ハマスとの間の戦闘休止が始まるようです。人道状況改善につながるといいのですが。
Posted by cycleroad at 13:00│
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