クルマのドライバーか、自転車利用者かという立場です。ドライバーからすると、自転車利用者は規則を守らない、傍若無人、危険、目障り、邪魔といった見方、印象を持っている人が多いと思います。一方、自転車側からすれば、ドライバーが危険、傲慢、我が物顔に見えたりします。
この、立場の違いによる見方の違いは、昔から言われていることであり、お互いに反感を持っている人も少なくないでしょう。それだけ危険な思いをしたり、腹立たしいことがあったりという経験があるからだと思います。なかなかこの立場の違い、見方の違いの対立は解消されません。
そして、社会一般としては、自転車利用者に対する反感のほうが多いのではないでしょうか。昨今も自転車をもっと取り締まるため、取り締まりの実効性を上げるため、青キップを導入しようという動きがあります。実際、ルールを無視して傍若無人に走りまわる自転車が多く感じるのは否めません。
このような見方があるのは日本だけではありません。実は、海外でも自転車に対する風当たりは強いものがあります。例えば、2005年のバスや地下鉄での同時爆破テロ事件をきっかけに、自転車で通勤・通学する人が増え、その後のロンドン五輪の渋滞もあって、自転車利用者が増えたイギリスでも同じです。
さらに言えば、自転車先進国として名高いデンマークも同じです。自転車利用者の交通違反、マナーの悪さが遡上にあがり、問題として意識されている国は少なくないのです。イギリスはまだしも、自転車の利用率が高く、その秩序が模範的と考えられるデンマークまでそうだとは意外です。
そこで、デンマーク政府は、この問題の解決方法を探るため、コンサルティング会社に依頼して、
実態調査を行いました。監視カメラの映像を使うなどして、2万8千人以上のサイクリストを観察し、同じようにクルマのドライバーに対しても
調査を行ったのです。
すると
意外なことが判明しました。ドライバーの66%が交通法規に違反していたことが判明しましたが、自転車利用者の違反の割合は、わずか4.9%だったのです。世間一般で言われている、規則を守らない自転車利用者が多いという見方は、見事に裏切られたわけです。
多くの人のイメージと違うかも知れませんが、デンマーク道路総局によれば、これは見え方の問題もあるとしています。つまり、自転車の違反は見えやすいが、クルマの違反は外から見えにくいのです。例えば、運転中に携帯電話を使っている人が多数確認されましたが、普通はなかなか確認できないわけです。
自転車によるスピード違反は、ほとんどありません。そこまでスピードが出ないからです。一方のクルマは恒常的にスピード違反をしていますが、見た目では違反がわかりにくいわけです。もはや普通の光景になっていますが、クルマのドライバーの3分の2は日常的にスピード違反を含む違反をしていることが判明したのです。
クルマが日常的にスピードを出していることは意識されず、手元でスマホをいじったりしているのは外から見えにくいため、相対的にドライバーに対する反感は小さいと言うのです。これに対し、自転車が歩道を通ったり、信号無視したり、逆走したりするのは目立つので、印象として残りやすいということを指摘しています。
以前にも同様の調査がされていましたが、
デンマーク自転車連盟は、また新たに結果として判明したことを歓迎しています。同様の調査はロンドンでも行われ、自転車利用者の84%はルールを遵守しており、決して多くの人がイメージするように『クルマと比べて違反者だらけ』ではないと結論づけられています。( ↓ 動画参照)
メディアが自転車利用者の傍若無人ぶりを取り上げて問題にすることが多いことも原因として挙げられています。ルールを無視する自転車利用者がいるのは間違いないですが、クルマと比べるとはるかに低い割合です。自転車利用者の大多数は法令を守っているのに、守っている人たちのことは意識されていないのです。
交通事故との関係も調査されています。クルマによる事故のほうがはるかに深刻な結果を招いており、人々が嘆くような自転車利用者の無謀な行動による影響は、ほとんど無視できるくらい小さく、ほぼ誰にも危害を加えていないことは、数字から明らかだとしています。
人間を死傷させるような事故は明らかにクルマによるもので、自転車が加害者となる割合はごく僅かです。イギリスで2016年の448件の歩行者の死亡事故のうち、自転車か関与するのは2件です。しかし、メディアの注目を集めたため、自転車の運転者の訴追を容易にする新法が即座に制定されました。
自転車の無法ぶりが大きく取り上げられるため、自転車利用者は悪い人が多いと印象付けられやすいことは明らかだとしています。悪い人がいないとは言いませんが、その何百倍も多い人がクルマによって命を奪われていることを意識する必要を調査は指摘しています。
自転車に乗る人は、もし事故になれば被害を負うのは自分の側だとわかっているため、多くの人は無謀なことをしません。しかし、ドライバーは対自転車では、自分の身に被害を受けないため、自転車利用者に対して、違反だけでなく危険な行為をすることが多いことも指摘されています。
調査によれば、ドライバーの71%が反感を持っており、そのことが招く事故も少なくないのです。この反感や誤解を解いたり、あるいはその存在に無頓着な人を啓発することが、自転車利用者の死亡事故を減らす大きなカギになり、その効果は自転車の視認性のアップやヘルメット着用の効果をはるかに凌ぐとしています。
もちろん、ドライバーが全て悪い人と結論づけているわけではありませんが、少なくとも自転車利用者に比べて、クルマのボディに守られているぶん危機感が薄く、法令遵守意識も低いとしています。別の調査では、自転車にも乗るドライバーが、そうでない人と比べて運転が上手く事故を起こしにくいこともわかっています。
イギリスや
デンマークの調査が、そのまま日本に当てはまるとは言いません。日本のほうが悪い数字になることは十分考えられます。なぜなら、日本は自転車の歩道走行が許されるという世界でも稀有な国だからです。このことにより、傍若無人な自転車利用者が、より目立つのも確かでしょう。
ただ、それでもクルマのドライバーのほうが法令を守っていない率が高いのは同じと思われます。そして、自転車に対する社会一般のイメージが悪く、目の敵にしているドライバーが多いのも同じでしょう。海外の事例を参考にして、自転車利用者ばかりが悪いとするような世の中の印象は、変えていく必要があると思います。
そして、もう一つ興味深いのは、デンマークで自転車道や自転車レーンを走行している利用者の法令違反は4.9%なのに対し、自転車レーンや走行空間が存在しない道路の場合、14%に増えると言います。つまり、自転車レーンなどのインフラは、結果として法令を順守させ、より交通安全を高める効果があるのです。
これは日本にも十分に当てはまるはずです。このブログで再三書いていますが、自転車の車道走行を徹底し、そのための走行空間を整備すれば、自転車の通行秩序は大きく改善するはずです。歩道でなく自転車レーンを走行するようになれば、車両としての走行の自覚を促すことが期待されます。
多くの人が走行しているレーンを逆走するのは、物理的にも抵抗があります。流れに従ったほうがラクなので、自然と逆走は減るでしょう。赤信号や一時停止で前の人が止まれば、続く人たちも停止し、それが当たり前になります。車両としての走行が習慣づけられていくことが期待できます。
今、日本の自転車のルールが無法状態なのは、自転車を歩きの延長のような感覚で乗るからです。方向も考えず、道路標識も意識せず、歩道でも横断歩道でも好きなところを走ります。これを車道に限れば、自然と意識が変わり、自ずと法令を守る形になることが期待できるでしょう。これは海外の例でも明らかになっています。
そのために、車道走行するための走行空間の整備が必要です。行政は、すぐスペースがないと言いますが、国交省の調査で、主要道路の8割に設置可能なことが判明しています。片側二車線あっても一車線は違法駐車で機能していない例などは多いでしょう。そうした車線を自転車用にするならば、すぐにでも確保可能です。
つまり、モータリゼーションでクルマ中心で来た道路整備を人間中心に変えていくわけです。欧米はすでにその方向にシフトしています。歩道走行してきたため無駄に広い歩道を削ったり、違法駐車に占有されているスペースを活かして自転車レーンにすれば、整備は十分に可能なはずです。
今回の調査結果を見ても、このことにより、大いに交通安全の向上が期待されます。たしかに今は傍若無人な人が多いように見えますが、それは実態を反映していないこと、走行空間整備で秩序と安全がもたらされることが強く示唆されています。日本の交通行政に是非活かしてほしいものです。
◇ 日々の雑感 ◇
JAXAが小型月着陸実証機「SLIM」の月面着陸を成功させました。反響はいまいちですが、今後の開発のため、もっとその技術とか意味合い日本の宇宙開発のビジョン等を国民にアピールすることも必要ではないでしょうか。
違反の割合は、ご指摘の通りだと思います。しかし、「最も危険な」違反をしている割合は、自転車の方が多いように思います。車のスマホ運転、スピード違反は大変危険ですが、自転車は「逆走」「一時停止を無視」を常習する人がとびぬけて多い。普通に自転車に乗っていても、逆走自転車、一時停止無視自転車にぶつけられそうになるのは日常茶飯事。その上、あたかもこちらが悪いように、にらみつけられます。
まずは、歩道通行をやめる(小さな児童は別です)のが先決でしょう。そうそう、今は、学校の先生ですら、「左右どちらでも歩きやすいほうを歩く」「自転車は走りやすいほうを走る」と指導する世の中です(2世代以上にわたり、でたらめな通行を許したつけです)。
最近の動きとして、自転車に乗る警察官がすべてヘルメットをかぶるようになったことは、特に子供に対する良いお手本となります。ついでに、車道の左側端を走るようにしてもらいたいものです。