February 10, 2024

再活用すべきは自転車だけか

循環型社会などと言われます。


新しく大量生産し、大量に消費して大量に廃棄する時代ではないとの考え方です。いまや、リサイクルショップや古着屋、フリマアプリなどで中古の品を買うのは普通の行動です。そのほうが資源を無駄にしないだけでなく、生産面での省エネルギーになり、環境負荷も減らせます。これは世界的な傾向です。

その意味では自転車だって、なるべく長く乗るほうが好ましいでしょう。日本では、格安粗悪なママチャリが市場を席捲していることもあって、駅前に迷惑駐輪して撤去移送されたり、少し故障したりすると、すぐ買い直すような消費行動があるようです。欧米の場合は駐輪する時に厳重に施錠しますし、長く乗ろうと考える傾向があります。

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ただ、それでも自転車の盗難が多いため、仕方なく買いなおすケースがあるのは否めません。日本で見られるような格安粗悪なママチャリではなく、いい値段のするスポーツバイクがターゲットになることも多いわけで、それが結果として持ち主の元へ戻ることなく買い替えを迫られるのは、省資源の観点からも残念なことです。

このことが気になっていた人がいます。イギリスはロンドン在住の、Stef Jones さんです。仲間内では、「自転車オタク」として知られるほどの自転車好きのサイクリストです。彼は、いろいろ考えるところもあって、20年勤めてきた広告の仕事を辞め、起業する一方で、洗礼を受けてクリスチャンになりました。

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そして、地元の牧師のボランティアに応募し、刑務所での活動などを始めたのです。収監されている囚人たちと向き合うと、罪を悔い改め、刑期を終えたら真っ当な人間になってやり直したいと話す人は少なくありませんでした。彼は牧師としてだけでなく、更生に向けたビジネス面の指導なども行いました。

改心してやり直したいという囚人たちの言葉が決して嘘だったとは思いません。しかし、刑期を終えたり、仮出所した受刑者の多くが再び罪を犯し、刑務所に戻ってくることに、残念な思いをしていました。悲しさと、力が及ばない悔しさと、言いようもない落胆が混ざった気持ちです。

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イギリスでは、出所後12カ月以内に48%が再犯し有罪になるとされています。9年以内なら75%です。この再犯率の高さはイギリスに限ったことではありません。日本でも、初犯が少なくなる一方で再犯率は上昇傾向にあり、2020年には過去最高の49.1%になっています。

再犯率が高いのは世界的な傾向ですが、その背景にも共通する部分があります。それは出所後に仕事がないことです。民間企業や個人事業主等は、前科のある人を雇いたがらないのです。他の社員と馴染めないとか、再犯や問題行為があれば企業の評判にかかわるなど、理由は多々あるでしょう。そう考えるのはよくわかります。

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中には、あえて前科者を雇用する企業や個人事業主もいますが、圧倒的に少数です。出所した受刑者は、懸命に更生するべく努力しようにも、まず職を得るのが困難で、生活の糧を得られないのです。そして、どうにもならなくなって再び罪を犯し、刑務所に戻ってくるわけです。

刑務所でも更生のための教育をしますし、職を得るための支援もしています。しかし、出所した受刑者数に比べて、職が圧倒的に不足しているのが実態です。民間企業などにも協力を求めていますが、元受刑者の雇用を敬遠するのも仕方ない部分があります。Jones さんも、この事実に突き当たったわけです。

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ボランティアの牧師として活動するだけでは、再犯の問題の解決が見えないと感じた、Jones さんは、それならば自分が職をつくろうと考えました。あるアイディアが浮かんだのです。そこで慈善団体、Onwards and Upwards を設立し、元囚人を訓練するだけでなく雇用する事業を始めたのです。

その最初の取り組みが、バイクショップ、“XO Bikes”です。自転車を再利用するためのリペアショップ、ワークショップです。 自転車は、盗難等の証拠品や押収品として警察署の保管庫で眠っているものを主に使います。持ち主がわからず、引き取り手のない自転車を譲り受けるわけです。

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まだ十分に使え、性能の高いものも多い自転車を整備して販売するわけです。自転車の再活用につながる事業です。譲り受けた自転車をオーバーホールやリペアし、再塗装などを施します、それらの作業をするのが元受刑者たちです。自転車の再利用が出来て、受刑者の雇用も創出できる一石二鳥のアイディアです。

警察署の保管庫に眠る持ち主不明の自転車だけでなく、市民から不要になった自転車を寄付してもらったり、愛車をリストアしたいというお客のオーダーなどにも対応します。一般的なメンテナンスから自転車のオーバーホールにリペア、中古の販売まで仕事はたくさんあります。

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一般的に受刑者向けとしては、例えばパソコンの使い方の教室などもあります。再雇用に必要でしょう。しかし、それが活かせる職がなければ仕方ありません。“XO Bikes”ではバイクのメンテナンスなどの実践的な技術を指導し、その間の交通費や食費の補助も出します。そして“XO Bikes”での職が得られる道があるのです。

元受刑者でコースを受講する人の中には、子どものころから自転車をいじっていた人など、自転車好きの人もいます。“XO Bikes”に残って働く人以外にも、他の自転車店の店員や、カーゴバイクの配達員などになる人もいます。自転車のメンテナンスが出来る人材なら欲しいと思う企業もあるわけです。

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“XO Bikes”でリペア、再塗装された自転車は、独自のIDが刻印され、誰が手掛けた何番目の作品かわかるようになっています。このことも作業をした元受刑者のプライドを満足させるでしょう。単なる作業員ではなく、一種のバイクビルダーとして認知されることになります。

出所後、職を得られずにホームレスになるしかないと絶望していたと話す人もいます。それが立派な職を得られただけでなく、職人として尊重され、お客から感謝もされています。元受刑者が水を得た魚のように、生き生きと働いているのには理由があるわけです。





自転車に乗る人はパンデミックで急増しました。今はその反動減もあります。でも、いくらクルマやオートバイが発達しても、自転車の需要はなくならないでしょう。環境への意識などから、むしろ増えていくことも考えられます。自転車のメカニックとしての技術は、継続して活かしていけるに違いありません。

これは、とても意義のある事業スキームと言えるでしょう。持ち主を失った自転車を有効に活用できますし、それを購入するお客も、リーズナブルな価格でトクをします。それだけでなく、前科者を雇用し更生を助けるという点で社会的な貢献にもなるわけです。設立1年で2店舗目も開店しました。



イギリスでは、出所した受刑者の再犯により、新たな捜査や検挙、裁判、収監、刑務所の経費、更生プログラムなども含め、年間180億ポンドもの費用がかかるそうです。再犯者が少なくなればなるほど、この費用も減らせることになります。みんながトクをしハッピーになる事業と言えるでしょう。

Jones さんは、さらに他の分野でも同様の展開が出来ないか考え始めていると言います。製品の再利用に加えて、その行程に元受刑者を充てる、つまり人材として雇用できるような事業です。循環型社会に向け、モノも人も、いいサイクルが形成できるような事業は、まだまだ見つかるかも知れません。


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◇ 日々の雑感 ◇

三連休の関東の天気は良さそうです。気温も3月上旬並みで、少し足を伸ばしてみるのもいいかも知れません。

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