それは、面積が365平方キロと日本の種子島よりも小さいパレスチナのガザ地区も同じです。 同地区に住んでいる、Alaa al-Dali さんは、その一人です。パレスチナでは自転車競技の有力な選手で優勝経験もあり、海外での試合に何度か招待されたこともあります。ただ、さまざまな要因で出国が許されませんでした。
ガザでは、長いコースはとれませんが、海岸沿いの道路を往復するなどしてトレーニングを重ね、オリンピックに出場してパレスチナの旗を掲げるのが夢でした。しかし、その夢は2018年、イスラエルに対する平和的なデモ行進に参加した時に潰えることになりました。

イスラエルの狙撃兵に足を銃撃され、病院に運ばれたのです。サイクリストとして、なんとか最善を尽くしてくれるよう医者に頼みましたが、結局足を失うか、命を失うかの選択となり、足の切断を余儀なくされたのです。身体的にもメンタル面でも、そこから立ち直るには長い期間が必要でした。
しかし、彼は立ち直りました。自分の二本足で国旗を掲げることは出来なくなりましたが、それを片足でやることを決意したのです。つまり、パラリンピックの自転車競技への出場と表彰台を目指すことにしました。ガザで自転車競技はニッチなスポーツですが、パラサイクリングは更に注目されない競技なのは承知の上です。
Alaa al-Dali さんは、中東初のパラサイクリング連盟をガザで立ち上げることにしました。当時ガザにはパラサイクリングの選手は皆無でしたが、何百人もの片足を失った人がいたのです。そうした人たちに声をかけ、2020年にガザでプロのパラサイクリングチーム、“
Gaza Sunbirds”を設立しました。
目標は2024年のパリ・パラリンピックの出場です。そこに向けてトレーニングを重ねてきました。しかし、また、Alaa al-Dali さんたちに試練が訪れます。2023年の10月7日、パレスチナのイスラム主義組織・ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を行ったことをきっかけに起きた戦争です。

その後の経緯は日本でも報じられている通りです。
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によれば、ガザ地区の人口230万人のうち約75%が国内避難民となっており、イスラエルによる空爆が続く中、その人道状況は危機的、この世の地獄だと訴えています。
食糧などの支援も全く不足しており、飢餓が差し迫っています。
“
Gaza Sunbirds”のメンバーたちも練習どころではなくなりました。全てのメンバーが家を失い、避難民となりました。メンバーの誰もが、いつ空爆で死んでもおかしくない状態です。しかし、こうした状況を受け、彼らは自らの危険も顧みず、救援物資を必要な人に届ける活動を始めたのです。


食糧不足は深刻ですが、誰もが国連機関などの食糧の配給の列に並ぶことが出来るわけではありません。必要な支援が届かない人も大勢います。支援物資が少しずつガザ地区に入るようになりましたが、そのまま国内に行き届くわけではありません。国際機関の要員だけでは、とてもそうしたデリバリーは出来ません。
チームは寄付を集め、その資金で食料を調達するなどして必要な人に配布しています。国際機関などからの支援物資が届いても、その提供場所に来られない人のために、食料を届ける人が必要なのです。彼らは自らも避難民でありながら、こうした役割を担うことにしたのです。


空爆が継続しており、道路にも瓦礫が散乱しています。そんな中を自転車に乗り、食料などを届けています。精神的なストレスやトラウマを抱えた子供たちに、手に入ったおもちゃを届けたりすることもあります。避難民の中には涙を流して喜ぶ人たちもいます。こうした支援が出来ること自体、この上なく幸せなことだと言います。
単なるボランティア活動ではありません。安全な場所はありませんが、空爆から逃げ回っていても、誰も非難出来ないでしょう。戦争の真っ只中、自分たちもいつ命を落とすかわからない中、また健常者と比べてハンデもある中で、それでも出来ることをしているのです。


チームのメンバーたちも毎日、なんとか生き延びている状態です。戦争がいつ終わるのかなんて見当もつきません。何人が生き残れるかもわかりません。当然ながら、今年のパリのパラリンピックに参加できる見通しも全く立ちません。しかし、それでも戦争が終わったらトレーニングを再開したいと考えています。
Alaa al-Dali さんは戦争の中、空爆の下でも自転車競技を諦めるつもりはありません。例え片足であっても、パラリンピック競技の舞台に立ち、パレスチナの国旗を掲げることを夢見ています。もしかしたら、そうした夢や希望が、空爆と飢餓による死と隣り合わせの中で生きていく拠り所になっているのかも知れません。

私などは日本にいて、ほとんど何も出来ることがありません。せめて少しでも早く戦争が終わることを祈るだけです。でも、世界にはこんな境遇にあるサイクリストもいるのが現実です。ふだん、何も考えずに自転車に乗っていられる幸せ、平和のありがたさを改めて噛みしめるばかりです。

◇ 日々の雑感 ◇
北朝鮮の金正恩総書記の妹・与正氏が岸田総理の訪朝の可能性に言及しました。突然の異例の談話ですが、何かのサインなのでしょうか。まだ尚早ですがこれが拉致問題の解決につながるきっかけになるといいのですが。
Posted by cycleroad at 13:00│
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