飛行機や電車、バスにタクシー、クルマやオートバイ、そして自転車もあります。それぞれの目的や必要に応じて選択することになります。自転車の中にもいろいろな種類がありますが、それぞれに適した用途があるので、使い方によって何を選択するか変わってくるでしょう。
もっと身近な移動に、クルマ椅子という手段、器具を使う人もあります。クルマ椅子にも種類があり、自走用や介助用、電動や手動、リクライニングやティルトなど違いがあります。それぞれの身体の状態や使う場所、使い方などによって選ぶことになるでしょう。
ただ、同じ種類のクルマ椅子を使っていても、みな一様ではなく、人それぞれで違っていることに気づいた人がいます。アメリカはペンシルベニア州、ウェストチェスターという街に住む、Garrett Brown さんという人です。彼の97歳の父親に付き添って、介護施設や福祉施設など、いろいろな場所で見る機会があったからです。
四肢に障害があってクルマ椅子を誰かに押してもらう必要がある人もいれば、自分で車輪を回して移動する人もいます。中には身体を支える必要はあるものの、足は動くので、クルマ椅子に乗ったまま自分の足を動かして移動する人もいます。腕だけだと疲れるということもあるのでしょう。
今どきは電動車椅子もあります。それが必要な人がいる一方で、足を使わないと、余計に運動能力が落ちてしまうので、少しでも足を使ったほうがいい人もいます。つまり、同じクルマ椅子を使っていても、それぞれ事情や状態はさまざまであり、必ずしも最適なものを使っているとは限らないことに気づいたのです。
多くの人は、座った状態から立ち上がるのが困難なことにも気づきました。立ち上がってしまえば、歩行器などを使って移動できる人もいます。足は機能するのに、何も無いと身体を支えらずにフラついてしまうため、車椅子を使っている人もいます。
長く座った状態でいることにより、内蔵や循環器、骨格などに影響が出る人もいます。また、クルマ椅子を使う人は、立っている人と話すため、常に上を向いていなければならないなど、使ってみないとわからないような、さまざまな影響、それぞれの事情を抱えていることもわかりました。
Garrett Brown さんは、こうした不便や不都合を軽減するような器具は出来ないものだろうかと考えました。実は彼はエンジニアであり、テレビや映画のカメラをブレないように安定させる機器、ステディカムの発明者だったのです。その経験を活かし、何か発明できるのではないかと考えたのです。
彼が最初に思いついたのは、なんとドライジーネです。何かヒントになるのではないかと感じたのです。ドライジーネとは、今を遡ること約2世紀、1817年にドイツのカール・フォン・ドライス男爵が発明した人力の二輪車です。(冒頭の画像参照。)これが自転車の起源とされています。
Garrett Brown さんは、車イスに囚われてはいませんでした。つまり、自転車はペダルがあってギヤとチェーンがある一方で、クルマ椅子はタイヤこそついているものの、ペダルもギヤもチェーンも無いため、自転車とは全く別の器具、乗りものとは考えなかったのです。
自転車は現代までに進歩していますが、その原型にはペダルもギヤもチェーンも無かったわけで、その点で近い器具と考えました。大人用のものはあまり見ませんが、子供が主に自転車の練習用に使うキックバイクなど、ドライジーネと同じで足で地面を蹴って進む自転車もあります。
クルマ椅子を使っていでも足は使え、地面を蹴って進むほうがラクな人もいることに気づいたブラウンさんは、そのあたりの連想から、ドライジーネが思い浮かんだのかも知れません。体重を支えて安定させる仕組みについては、過去のステディカムの経験、技術が使えそうです。
彼は、まず自転車からペダルを外し、父親に試してもらうことにしました。足で地面を蹴って進むのは問題ありませんだしたが、前傾姿勢になることや、フレームをまたぐ必要があること、室内で乗るには扱いにくいなど、さまざまな課題がありました。
そこでブラウンさんは、おもちゃの部品を使って模型をつくり、どのような形にすべきが試行錯誤を始めました。彼は、このような実験が大好きだったのです。その後、実物大で動作できるプロトタイプをパイプを溶接するなどして制作し、無数のテストを繰り返しました。
結果としてドライジーネとは似ても似つかぬものになりましたが、新しい移動手段、“
Zeen ”が完成しました。形は変わりましたが、ドライジーネに敬意を表して、こう名付けました。電気などの動力は使いません。シート部分が立ち上がる仕組みは、ガススプリングを使っています。クルマのハッチバックなどに使われるアレです。
こうして新しい移動手段、器具が完成しました。日常生活で、車イス利用者が特に苦手とする立ったり座ったりがスムーズに出来ます。足を使って移動できるため、足の機能が衰えません。身体が支えられるので、フラついたりすることもなく、安全に移動できます。
全体重をサポートするので、座ったり、立ったり、休んだりすることが瞬時に出来、足が使える車イス利用者を中心に大好評となっています。行動範囲が大きく広がり、どこへでも行けるようなったり、クルマ椅子を使わない健常者と、同じ目線で楽しむことも可能です。これまでの歩行器と比べても優れています。
足の機能は問題ないものの、脳梗塞などを患い、何を持たずに歩くのが怖いという人にも喜ばれました。リハビリを行う理学療法士の中には、これまで歩行時に全体重を支える唯一の器具は、トレッドミル上のスリングとハーネスしかなく、これはリハビリ面でも画期的と評価する人もいます。
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サイトを見ると、この“
Zeen ”によって人生が大きく変わった、新たな自由と喜びがもたらされた、などたくさんの感激の声が載せられています。ブラウンさんは、ありそうでなかった新しい移動器具、言ってみれば自転車とクルマ椅子の間を埋めるような移動手段を生み出したことになるでしょう。
これまでのような、いわゆるクルマ椅子しかなかったことで、大きな制約を受けていた人は少なくないでしょう。それらの人を不便から解放したのは間違いありません。もちろん、この“Zeen”が福音となる人ばかりではないわけで、そう考えると人々の移動のための手段は、まだまだいろいろ考えられるのかも知れません。
◇ 日々の雑感 ◇
ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の死亡に世界的な反発が広がっています。プリゴジン氏の時と同じで誰の指示かは明らか、それでも平気で政敵を消すのですから世界の反発の声などどこ吹く風なのでしょう。
Posted by cycleroad at 13:00│
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