February 25, 2024

意外にも理にかなった選択肢

近年は開発のスピードが上がっています。


宇宙開発の分野もその一つでしょう。最近日本の新しいH3ロケットも打ち上げに成功しましたし、つい先日はアメリカの民間による月探査機が着陸に成功しました。民間企業の月面着陸は世界初であり、アメリカによる月面着陸は1972年のNASAのアポロ計画以来、約50年ぶりのことです。

日本の月探査機「SLIM」も先月、月面へのピンポイント着陸に成功しました。世界で5か国目となります。そのほかにも宇宙開発の分野は幅が広く、人工衛星の打ち上げから宇宙ステーション、小惑星の探査など多方面で開発が進められています。再び有人の月面着陸を目指すアルテミス計画も進んでいます。

SLIMノバC

月では水素燃料の元になる水の探査が行われています。酸素の元にもなるので、人間の滞在にも寄与します。その見通しが立てば、月基地の建設も視野に入ってくるでしょう。月の次に人類が目指すのは火星探査だと言われていますが、月はその前線基地としても貢献するでしょう。ロケットの打ち上げが格段に容易だからです。

近年の素材や加工などの技術の進化は目を見張るものがありますし、半導体やコンピュータの技術にしても、アポロ計画の時とは比べものにならないほど進化しています。人間が遠隔操作しなくても、AIが的確に判断し対応してくれる時代ですから、成功率も格段にアップするはずです。火星への移住計画も遡上に上っています。

Photo by ESA & MPS,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.This image is in the public domain.

しかし、そうは言っても、有人での火星の探査ですら簡単なことではありません。火星の大気は薄く地球の大気圧の0.75%しかありません。成分はCO2が95%で酸素は微量しかないことがわかっています。重力も地球の4割ほど、気温は氷点下50度以下、人体に有害な宇宙線も大気に遮られず降り注ぐなど苛酷な環境です。

月と比べて140倍も遠くにあるので、行くだけでも大変です。途中で何かあっても自分たちだけで処理を迫られます。無線で地球と連絡しようにも月なら1秒なのに、火星の場合は通信に往復で40分もかかります。途中で何が起こるかわからないので、いろいろなことを想定しておく必要もあります。

まだ火星についてわかっていないことも多々ありますし、ロケットの開発から現地での燃料の製造、水や食料の調達、呼吸のための空気の確保、宇宙放射線からの保護など、ありとあらゆることを研究・開発、そして実現する必要があるのは間違いありません。そこで世界中のいろいろな機関で研究が進められています。

This image is in the public domain.This image is in the public domain.

そもそも人間の身体が長期間の宇宙での滞在に耐えられるのかという問題もあります。火星での滞在もそうですが、往復にも日数がかかります。火星までの距離が近い時に向かったとしても、片道8ヶ月はかかると目されています。往復と滞在で何年もかかるわけで、宇宙ステーションでの滞在の比ではありません。

惑星地質学者の、Helen Eifert さんもそのような研究に携わっている一人です。少し前にもアメリカ・ユタ州南部の砂漠に火星基地を想定した施設で、2週間の滞在シミュレーションプログラムに参加しました。他の5人の科学者と共に、世間と隔絶された環境で過ごすのです。

Mars Desert Research StationMars Desert Research Station

もちろん、火星での環境を全て再現することは出来ませんが、狭く閉ざされた空間で14日間を過ごす実験です。さまざまなシミュレーションが行われますが、その一つに運動があります。NASAの規定によれば、全ての宇宙飛行士は、毎日2時間〜2時間半の有酸素運動と筋肉トレーニングが義務付けられています。

宇宙の無重力状態、または非常に小さい重力の場合、身体能力が急激に失われるからです。宇宙ステーションから帰還した宇宙飛行士が、すぐには立ち上がれないのもそのためです。骨密度なども1ヶ月に2%ほど減少するとされ、地球の重力に耐えられず骨折するなど、骨粗鬆症のようになってしまうのです。

Mars Desert Research StationMars Desert Research Station

そのために彼女が持ち込んだのは自転車と、それをセットするトレーナーです。有酸素運動に自転車が適しているのは周知の事実です。往復のロケットの狭いスペースで運動するにも、トレーナーにセットした自転車でペダルをこぐのは向いているでしょう。

それならば専用のエアロバイクのほうが、よりコンパクトですが、自転車とトレーナーにしたのはワケがあります。Helen Eifert さんは、火星で自転車が使われるのではないかと考えているからです。もちろん、宇宙服を着て火星の地上を自転車で走行するのは簡単ではないでしょう。

Helen EifertThis image is in the public domain.

素人の想像だと、月面探査車のようなクルマか、SF映画に出てくる空を飛ぶ乗り物になるように思えます。しかし、火星まで重量の重いものを運ぶのは相当に困難です。積載容量や燃料が限られる中で、少しでも重量を減らす必要があるからです。ただでさえ遠いので、燃料自体の重さもバカになりません。

そこで、火星で人類が移動するのに使われるのは、意外にも自転車なのではないかというわけです。地球で乗っているような自転車になるかは別として、探査車や空を飛ぶ乗り物より数十分の一か、それ以下の重量ですむはずです。火星への運搬を考えたら、むしろそのほうが現実的という考え方です。

探査車などだと、それを動かす燃料の問題もあります。太陽光発電による充電式は有力ですが、バッテリーは重いですし、気温が-50度での充電は効率的でないこともあります。現地で水を発見し水素燃料でも使えるようになれば別ですが、いずれにせよ運動する必要のある宇宙飛行士の人力を使うのは理にかなっています。

Mars Desert Research StationMars Desert Research Station

コンピュータ制御の複雑な機械だと、現地での修理やメンテナンスにも問題が発生する可能性があります。半導体チップが1つ壊れただけでも、現地での調達は無理です。その点、自転車ならばアナログな工具と少しの消耗品があれば済みます。別に電動運搬車なども必要になるかも知れませんが、宇宙飛行士の移動には使えます。

ちなみに、火星は月より重力があるので浮き上がってしまうことはないそうです。そして自転車が転倒するのは非常にゆっくりになると言います。つまり、致命的な怪我になるような転倒はなくなるわけです。どんな形になるかは別として、意外にも火星で宇宙飛行士が自転車のような人力の乗り物に乗るのは有力な候補なのです。

もちろん、有人の火星探査実現までには紆余曲折もあると思います。現地での移動手段よりも重要で解決困難な課題もたくさん出てくるでしょう。相当に困難なプロジェクトになるはずです。しかし、人類はこれまでそうだったように、果敢に挑戦していくことになるに違いありません。

Mars Desert Research StationMars Desert Research Station

月ならまだしも、火星となるとまだまだ未知の部分がたくさんあります。空気も水もなく、空から隕石でも落ちてきたら防ぐ大気もほぼありません。考えただけでも窒息しそうですが、片道切符であっても、火星移住の先陣となりたい人を募集したら、すぐ何万人も応募があったそうです。やはり人類は行くことになるのでしょう。

近年、火星探査に必要な各方面の技術は加速度的に進化しています。NASAも2050年代には火星移住が始まるとの見通しを示しています。その前に人類は火星に到達し、有人での火星探査も進んでいることになるでしょう。近年の技術の急速な進歩を考えれば、案外近い将来に実現してもおかしくありません。

おそらく、地球に住むサイクリストのほとんどは、火星でサイクリングするなんて夢は持っていないはずです。というより、考えも及ばないことでしょう。一般人が火星に行くようになるのはいつかわかりませんが、案外、子どもか孫の世代は、火星でサイクリングするのかも知れません。


ブックオフオンライン【PC・スマホ共通】


◇ 日々の雑感 ◇

アメリカ共和党の候補指名争いはトランプ氏が5連勝、返り咲きとなれば世界秩序に大きな影響が及びそうです。

このエントリーをはてなブックマークに追加

 デル株式会社


Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。



 楽天トラベル

 
※全角800字を越える場合は2回以上に分けて下さい。(書込ボタンを押す前に念のためコピーを)