March 11, 2024

来月からの対応策は大丈夫か

ロンドン市内は酷い渋滞に悩まされています。


このため、市の中心部へのクルマの流入を抑制するなど、いろいろな対策がとられてきました。そして、今般ウェストミンスター大学の、Active Travel Academy という機関と、Possible という気候変動の慈善団体による共同研究で、また新しい対策の候補が示されました。

ロンドンにおけるトラックやデリバリーバンなどのクルマによる物流の、わずか10%を電動カーゴバイクに置き替えるだけで、渋滞を含めた、さまざまなメリットが得られることが研究の結果として明らかになったのです。研究者たちは従来の運送会社と、カーゴバイクによる専業の配達会社のデータを比較分析しました。

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(写真はイメージ)

それによれば、ロンドン中心部において、トラックによる輸送と比べ、電動カーゴバイクによる配達のほうが、平均して1.61倍速いことが明らかになったのです。今までも感覚的には指摘されてきましたが、実際の配達のデータによって、もはやカーゴバイクのほうが圧倒的に速いことが確認されたわけです。

さらに、報告書によれば、現在のトラックやバンなどによる物流の移動距離の10%を電動カーゴバイクに転換したとしたら、都心の255万平米の道路スペースが解放されることになり、そのぶん渋滞が減る計算になります。トラックが荷降ろしのための駐車スペースを探すのもより容易になり、時間短縮になるでしょう。

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そして、年間13万3千トンのCO2と190kgのNOxが大気中に放出されるのを防ぐことができる計算になります。温暖化ガス削減に寄与するだけでなく、ヨーロッパで深刻になっている大気汚染による健康被害の軽減にも貢献することになるわけです。

Active Travel Academy の上級研究員、Ersilia Verlinghieri 氏は、商品の配送方法の、わずか10%を転換させるだけで、いかに劇的な効果が上がるかという点を強調しています。もちろんトラックでないと運べない荷物もあるでしょうが、全体の10%ならば十分、電動カーゴバイクに移行できるはずです。

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ヨーロッパ全体の最近の推計では、都市内の全ての貨物輸送の最大で51%が、カーゴバイクに置き換わる可能性があることが示唆されています。この5分の1でも電動カーゴバイクに転換できれば、CO2排出量の大幅な削減と大気汚染軽減に加え、全体としての交通事故のリスクを減らすことにもなります。

現状の酷い渋滞は、荷物の配送の遅延も招いているわけですが、それをより効率的で高速かつ信頼性の高い都市貨物輸送システムに再構築していくことにもなります。同時に、これが持続可能な貨物輸送のための政府の国家戦略にも合致することになるのは間違いありません。

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イギリスの首都の交通ネットワークを管轄するロンドン交通局(Transport for London)は昨年、初のカーゴバイク行動計画を立ち上げ、物流のカーゴバイクへの移行に取り掛かっています。2030年までにグレーターロンドン全体で年間最大3万トンのCO2排出を削減することを目指しています。

これは、2030年までにカーボン・ネットゼロを目指す、Sadiq Aman Khan ロンドン市長の目標にも合致しています。もはやトラックから自転車への物流の置き換えは、企業の選択肢や取り組みの一つというレベルではなく、官民一体となった政策となっています。



物流大手、Amazonも一昨年、“micromobility hub”と呼ぶ物流拠点を立ち上げ、配達にカーゴバイクを導入しています。他の物流会社も続々と導入し始めています。もはや、企業のイメージアップ戦略や一部の補完事業ではなく、トラックが自転車に置き換わり始めているのです。

そして、これはロンドンに限った話ではありません。フランスでも、市場調査委員会が公表した資料によると、都心部の配送トラックは交通量の30%、温室効果ガスの原因の25%を占めていることが明らかになっています。配送トラックをカーゴバイクに置き換えるべきと指摘しています。

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仮に小売店や飲食店、個人などを含む物流のラストワンマイルを全て自転車に置き替えたら、CO2だけでなく排気ガスや騒音、渋滞などの原因の約30%がなくなることになります。この30%は小さな数字ではありません。そして十分に可能な数字と捉えられています。

以前は、渋滞が酷いのは確かだが、それでもトラックのほうが効率的だろうという考え方が一般的でした。しかし、トラックでは渋滞に引っかかり、荷下ろしのための駐車スペースを探すのに時間がかかり、そこから離れた届け先へ歩いて運ぶなど、効率の悪さが明らかとなってきています。



自転車では運べない荷物もなかにはあるでしょうが、かなりの大きさのものまでカーゴバイクでも運べます。小回りもききますし、どこへでも入って行けます。荷下ろしスペースも近くに見つけやすいですし、積載量が小さい点は、配送拠点に戻る回転数で補えます。こうしたことが広く常識となってきているのです。

実際のところ、パリなどでもカーゴバイクへの転換が進んでいます。大手物流会社だけでなく、やはりカーゴバイクによる配達専門の会社が設立されたり、個人のギグワーカーが参加する協同組合のような形態の会社なども誕生しています。物流においてトラックから自転車へというのは、もはや不可逆的な動きになっています。

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ところで、日本では来月、4月からトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用されます。いわゆる物流の2024年問題です。ドライバーが働ける時間が少なくなるので、そのぶんドライバー不足になるのは必至です。配達が遅延したり、配送料金が高くなるなどの事態も予想されています。

この2024年問題を受け、実は日本の物流業界でも、自転車による配達が注目され始めているそうです。運転免許がないアルバイトでも配送が出来ますし、渋滞する都市部での効率がいいのはヨーロッパと同じです。実際に導入している会社も出てきているようです。ただ、それはまだ一部に限られます。



日本では、あまり環境面からの必要性は話題になりませんが、人手不足は深刻です。ここは各企業が物流の一部を自転車配達に転換するのに任せるだけでなく、政府や自治体も、もっと大々的にカーゴバイクへの移行を打ち出したらどうでしょうか。トラックが減るくらいになれば、上述のようなメリットも期待できます。

トラックが減って、渋滞が減って、路上駐車が減って、そのぶんのスペースを自転車の走行空間に充てるくらいに出来れば、さらに物流の効率を向上させることになるでしょう。トラックの排気ガスも減って、都市部の生活環境も向上することになります。



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私は関係者ではないので、物流の2024年問題の深刻度や影響などについては、よくわかりません。ただ、今のように成り行きで一部に自転車を導入するのではなく、ヨーロッパのように都市部の流通形態を思い切って、抜本的に転換させていくことが、さまざまな相乗効果を伴って、大きな効果を生むのではないかと思います。


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◇ 日々の雑感 ◇

日本時間の今日行われたアカデミー賞授賞式で宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が21年ぶり2度目の長編アニメ映画賞、『ゴジラ-1.0』がアジア映画初の視覚効果賞受賞という快挙を達成しました。おめでとうございます。

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