企業の商品開発などでもそうですが、国土の開発や都市の再開発などでは、全て予定通りにいくほうが珍しいでしょう。政府や自治体に加えて民間も含め関係者が多いですし、長い期間かかれば状況も変わります。東京などでは、わずか数百メートルの道路の拡張が半世紀かかることも珍しくありません。
新幹線や高速道路などでも長い期間を経た結果、採算性が問題になったりします。インフラは特に、政治的な思惑や雇用対策などから決まる場合もあり、救急車ですら使わない高速道路なんてものも聞きます。高度成長期に計画した結果、需要が大幅に減ったり、予算的に補修や維持すら難しくなっている道路や橋もあります。

空港などもそうです。開業してもなかなか就航する便が増えないところもあります。羽田が手狭になったため成田を国際線にして使い分けるはずでしたが、羽田は沖合に拡張して再度国際空港になりました。関空の開業で伊丹は廃止という話もあったと思います。いろいろ事情や状況も変わり、計画通りにはいかないのでしょう。
空港と言えば、ドイツではベルリン・ブランデンブルク国際空港の開港に伴い、ベルリン・テーゲル空港が閉鎖となりました。こちらも年間2050万人もの旅客が利用する国際空港でしたが、スッパリと廃港になっています。この
テーゲル空港の再開発計画が進行しています。

再開発で新しい街とする計画です。空港の一部の施設は再利用され、研究機関や商業スペース、新興企業のオフィスなどに転用されます。滑走路だった場所は新しく整備され、
学校や公園、商業施設の店舗などのある住宅地になります。当面、5000世帯が入居できる居住地域が建設されます。
この計画で注目すべきは、その明快なコンセプトです。優先されるのはクルマではなく人間とすることがガイドラインに明示されているのです。
Schumacher Quartier と呼ばれる地区で、道路や広場など街の構成要素をクルマ用ではなく、モータリゼーション以前と同じように、再び人間のものにすると決められています。

住民が街で交流したり、遊んだり、くつろいだり、おしゃべり出来る場所、社交の場として構築したいという考えです。地区内はクルマの乗り入れが制限される一方、歩道に加えて広い自転車道が整備される計画になっています。既存の公共交通機関とは、地区の外側で接続し、緑地などで仕切られる予定です。
建てられる共同住宅は木造で、完成すれば世界最大の木造建築物群になると見込まれています。木材を使うのは、長期的なCO2貯蔵になるため、環境負荷とサステナビリティが優先されているのです。コンクリートの無機質な建物より、街に潤いをもたらすでしょう。

木材はドイツ国内で調達され、建設時のCO2排出量は80%削減される計画です。設計では、太陽光や地熱などのエネルギーの利用から、排熱を利用した空調、災害を防ぐ貯水・水利用システムなど、エネルギー効率や持続可能性に最大限配慮された開発計画になっています。
まだ開発の初期段階で、基礎的な工事などが進んでいますが、最初の建物が2027年にも完成する予定です。居住予定の住民の意見も聞いて設計の詳細を詰めており、従来型の再開発ではなく、将来の都市に求められるものを予め、極力取り入れていくことを目指しています。なかなか先進的な考え方だと思います。

将来の実現を見込んで、EVや自動運転のクルマを想定したりしそうですが、そうではありません。将来も人々の近距離の移動は自転車と想定しています。モータリゼーション以来、当たり前のように進められてきたクルマ中心の道路や街というスタイルとは、きっぱり決別して人間を優先するという思想です。
日本でも地域の再開発計画はいろいろありますが、クルマ用の道路中心の計画が当然でしょう。木密地域の延焼防止や消防車の通れる道路といったニーズもあるとは思いますが、クルマでの利便性や通りやすさを優先し、クルマ中心が考えるまでもなく当たり前になっていると思います。

日本でも、欧米のようにクルマ中心でなく人間が中心の街づくりという考え方が、将来的に主流となっていく可能性は充分あると思います。しかし、クルマを排除するような計画は聞きません。もちろん、将来どうなるかはわかりませんが、旧態依然としたスタイルを疑ってみる発想が乏しいと言わざるを得ません。
近年の規制緩和を利用して、駅前のビルを壊して新しく高層ビルを建て、増えたフロアを販売したり貸し出して建設費用を回収する再開発計画が盛んです。都会ならまだしも、地方の都市でも同様に推進した結果、計画通りに売れず、頓挫や破綻したという話も聞きます。少子化はわかっているのに安易な計画と言わざるを得ません。

昔ながらの町並みを区画整理して、広い道路とビルに再開発した結果、街は近代的になったものの、人が集わなくなり、ビル内のテナントは閑散となって採算がとれず撤退してしまうという話も聞きます。木密解消もあるでしょうが、昔ながらの路地と混み合った町並みのほうが活気があったという話も多いに違いありません。
開発と言うと、新しく近代的にモダンな街にすることと考える結果、日本全国みな同じような街並みになってしまうという指摘も少なくありません。老舗は取り壊され、撤退してしまい、道路は広くなったもののロードサイドに全国展開するチェーン店ばかりとなって、街の個性がなくなったという例は全国に多いと思います。

日本でも将来、クルマ中心の開発が敬遠される可能性はあるとしても、現状では支持されず、計画として通らない面もあるのかも知れません。将来どのような状況になるか予測が難しい部分もあるでしょう。冒険的な計画と見られることを嫌い、結局として保守的にならざるを得ないのかも知れません。
ただ、このブログでもいろいろ取り上げていますが、海外の事例をみると、クルマ中心の考え方を見直す動きは着実に進んでいるように感じます。今後どういうことが求められるかをもっと考え、環境面で先行する諸外国の例を参考にすることも必要なのではないでしょうか。
将来の交通の中心は自転車だと言うつもりはありません。しかし、現状でこれだけ利用されているわけで、自転車が使われなくなるとは思えません。現状で自転車インフラについては問題も多いわけで、せめて自転車の通行空間を十分盛り込んだ開発計画、徒歩や自転車に配慮した開発があってもいいのではないでしょうか。


◇ 日々の雑感 ◇
トランプ前大統領に有罪評決です。大統領選で有権者を欺いたわけで、大統領経験者が刑事事件で有罪になるという初めての事態ですが、これで支持者は団結するとの指摘もあり大統領選は相変わらず不透明なようです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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